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コメ騒動は流通のせいじゃない。犯人は“アンモニア”だった?【肥料高騰】

特集
未来を変える科学技術を追え!大学発の地味推しテック

肥料が高いのは、もうどうしようもない現実

 6月下旬、「農家が困っているからJAは資材価格を下げるべきだ」といった小泉進次郎農林水産大臣の発言が話題になった。 JA側は「いやいや、それはこちらの責任じゃない」と反発し、メディアでは“農水省vs農協”の構図が繰り広げられた。

 ここ数年、コメの価格は上がっているが、農家の経営はむしろ苦しくなっている。水道光熱費、農薬、肥料、すべてが値上がりしており、生産コストは高止まりだ。丹精込めて育てても、儲けが残らなければやめるしかない。農家が減少し、米の生産量が減れば、また米は高くなる。

 「なるほど。じゃあ小泉さんの言う通り、資材価格を下げたらいい」――という簡単な話じゃない。本質は、流通や中間業者の問題ではなく、農業資材、とりわけ肥料の中身そのものが“高コストな資源”という事実にある。

アンモニアは、エネルギーと資源のかたまり

 肥料の主成分であるアンモニアは、化学的には非常に“燃費が悪い”物質だ。現在主流の製法は「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれるもので、500℃・200気圧という超高温・超高圧の条件下で窒素と水素を反応させて合成している。

 この製法には、天然ガスなどの化石燃料が大量に使われ、製造の過程で多量のCO₂も発生する。要するに、アンモニアとは「化石燃料から無理やり取り出した栄養分」そのものなのだ。

 しかも日本は、このアンモニアのほぼすべてを海外からの輸入に頼っている。ロシアの戦争でも、中国とアメリカの対立でも、エネルギー価格の高騰でも、すぐに影響を受けてしまう。

空気と水から肥料をつくる?つばめBHBのアンモニア革命

 この難題に挑戦しているのが、東京科学大学発ベンチャー・つばめBHB株式会社だ。同社が目指しているのは、「空気と水からアンモニアをつくる」という常識破りの製造技術の実用化である。

 空気中の窒素と水だけを使い、常温・常圧の環境でアンモニアを合成する。エネルギー消費もCO₂排出も大幅に抑えられ、低コスト・脱炭素・非依存型の肥料製造が現実のものとなる。

 すでに実証プラントを稼働させ、商用化に向けた段階に入っており、うまくいけば、日本は「アンモニアを買う側」から「つくる側」へと変わるかもしれない。

小型アンモニア製造プラントのイメージ

技術のカギは、常温・常圧でのアンモニア合成

 アンモニア合成における最大の壁は、窒素分子(N₂)の三重結合である。この結合は非常に強固で、バラすには莫大なエネルギーが必要となる。これまでの方法では、文字通り“火力でゴリ押し”するしかなかった。

 つばめBHBの技術は、鉄ではなくルテニウムなどの希少金属を使った触媒により、常温・常圧でも窒素と水素の反応を可能にする。要するに、「ガンコな窒素を、エネルギーをかけずに説得する」技術である。

 これがもし本当に低コスト・安定的に動作するのであれば、化学業界全体がひっくり返るレベルのブレイクスルーだ。

環境にも、経済にも。未来を変える技術になるかも

 この技術のインパクトは農業だけにとどまらない。アンモニア合成は世界のCO₂排出の約2%を占めており、環境対策としての意義も大きい。化石燃料に頼らず、自国内で肥料をまかなえるようになれば、エネルギー・食料安全保障の両面でも意味を持つ。

 政府もNEDOなどを通じて支援を行っており、今後の展開次第では、世界の産業構造を変える“ゲームチェンジャー”になる可能性もある。空気と水から“資源”を生み出す時代が、本当にやってくるかもしれない。

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