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副作用の少ないがんの免疫療法の確立を目指す 長崎大「SCMバイオメディカ」

連載
社会実装に向けた研究、技術 大学発スタートアップがつくる未来を知る

 がん治療の研究はこれまでにさまざまな療法が生み出されてきたが、長崎大学の田中義正教授らのグループでは、免疫療法の治療薬「SCM療法」を研究している。この「SCM療法」の事業化に取り組んでいるのが、田中教授が中心となり設立された株式会社SCMバイオメディカだ。

長崎大学発のがん治療を目的とするベンチャー

「SCMバイオメディカ」は長崎大学の田中義正教授が2023年10月に設立、2024年には第7号の長崎大学発ベンチャーに認定されている。SCMバイオメディカは田中教授が生み出した「SCM療法」の知的財産を事業化することを目指している。

「SCM療法」は、正式には「がんに対するPD-1免疫チェックポイント阻害剤併用療法」となる。

 免疫チェックポイント阻害剤は、ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学名誉教授・本庶佑(ほんじょたすく)氏が開発に貢献したがん治療薬。「オプジーボ」という名前で提供されており、難治性のがん治療で利用されている。この免疫チェックポイント阻害剤は従来の治療薬よりも有効ではあったが、より高い効果が出せるよう研究は引き続き行なわれてきた

 田中教授によると、「これまで長く研究した中で、かなり良いもの(SCM療法)をつくることができたので、ベンチャーを立ち上げ、事業化に取り組むことにした」という。

そもそもがんの免疫療法とは

 がんの免疫療法は、130年以上前に「がん患者が感染症になった後にがんが縮小したこと」がきっかけで研究がスタートしたものだという。しかし、「まれに治療に成功すること」はあるものの、ほとんどの人で効果が得られないため、2000年まではマイナーな研究分野だった。

 しかし、1990年代に入り、田中教授もこの研究に参加していた本庶氏のチームが「がん細胞が、がん細胞を攻撃するT細胞(エフェクターT細胞)によるチェックをどのように回避しているのか」の仕組みを解明。さらに、「がん細胞がT細胞によるチェックを回避できないようにする抗体」を開発した。実際にこの抗体をがんになったマウスに投与したところ、がん細胞の増殖を抑えることに成功。この研究が、上述の「オプジーボ」の誕生につながった。

マウス実験は成功、非常に効果の高い「SCM療法」を人へ応用するため起業

「PD-1免疫チェックポイント阻害剤」を用いた治療は、「がん細胞をエフェクターT細胞が攻撃しやすくする仕組み」を生み出すものだが、がん細胞を攻撃したエフェクターT細胞は死んでしまうため、がん細胞を治療するには多くのエフェクターT細胞が必要になる。

 しかし、これまではエフェクターT細胞を増やす方法が判明していなかった。そんな中、田中教授らの研究グループがエフェクターT細胞を増やす仕組みを発見。この仕組みを用いることで、従来よりも効果の高い「SCM療法」が誕生したという。

 田中教授は「マウスを使った大腸がんの実験では、既存の免疫療法だと100日後の生存率は約50%。しかし、SCM療法では全頭生存することに成功した」としており、非常に高い効果を持つことが分かっている。次は人での実験というフェーズに入るが、そのためには多額の費用が必要になる。そのため、ベンチャーを立ち上げ、まずは資金の確保、次に治験を行ない、実用化を目指しているという。

 2024年にはプレシードラウンドでの資金調達に成功。注目度の高い取り組みだけに、すでに多くの反響を得ているとのこと。

 がん療法は現在、外科手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)の3つが標準療法とされている。ただし、これらは副作用が強く、治療が非常につらいものになる。また確実に治せるかも分からず、再発することもあり、1年後の生存率もまだ低くいのが現状。副作用も少なく、治療の成功率も高いとSCM療法にかかる期待は大きい。

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