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「0%のがん検診率が46%に!」行動科学AIで「人が動く仕組み」を解き明かす

“共感力”を数値化し、社会課題に向き合う。Godotが描く“人間拡張”の最前線

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株式会社Godot 代表取締役 森山健 氏

 AIが大きな注目を浴び、数多くのスタートアップ企業が誕生している。その中でもGodot(ゴドー)は「行動科学に基づくAIシミュレーションによって人間性を拡張する」と掲げ、独自のアプローチで社会課題解決に挑むディープテック企業だ。AIに加え、イギリスの行動科学の専門家を顧問に迎え、自治体や保険会社をはじめとする多彩な企業の課題解決に貢献するビジネスを展開している。同社が目指す「人間の拡張」とはどういうものなのか。その仕組みと実例について、代表取締役の森山健氏に話を聞いた。

AIを活用し人を拡張し、個と社会の進化を目指す

 Godotは兵庫県神戸市に本社を置く、2022年7月に誕生したスタートアップ企業だ。同社ウェブサイトを見ると、「ヒトを拡張し、個と社会を進化させる」というメッセージが飛び込んでくる。森山氏は、「掲載しているメッセージは当社のミッション。共感力を拡張する、人間性を拡張することで、これまで自分が気づいていなかったことを気づかせる。これにより、少数派を切り捨てない、真に包摂性ある社会の実現を目指すことを見据えたものだ」とミッションの意味を説明する。

「例えば、商慣習や自社サービスへの思い込み、また組織内のバイアスなど、自分達では気がつきにくい問題を可視化する。それをイノベーションの糸口としてもらう。そうした一連を、『ヒトを拡張する』という言葉を使って説明している」(森山氏)

 同社が提供するのは、イノベーションを発見するためのAIツールだ。「AIシミュレーションは、イノベーションの糸口を見いだすことにつながる。現在はソフトウェアで提供しているが、将来的にはハードウェアを提供し、リアルタイムで自分が今どういう風に対策を行っているのかなど、自分の心の状態を正確に把握することで、いろいろな成長、進化につなげてもらえれば」

 こうした説明を聞いても、AIを使って人間を拡張するとは、一見するとSF的な発想に思えるが、すでに現場での実装が始まっている。

「現在の我々のメイン顧客は、保険会社や自治体といった生活インフラに関わる団体や企業で、一人一人の生活に生涯にわたって寄り添うサービス提供を目指しているところが多い。イノベーションやビジネスプロセス改善を行っていく際、単に売上を最大化する、従業員一人あたりの生産性を上げることもひとつの方向だと思うが、我々は特定の組織を進化させるだけでは社会課題解決にはならない、世の中が良くならないと考えている。取り残される人がより少なくなるようなサービスを顧客が実現するうえで、当社の技術が貢献し、インクルージョン(編注:多様な人々がそれぞれの個性を尊重され、社会や組織の一員として認められ、活躍できる状態)達成を目標としている」

 一人一人に寄り添ったサービスの源泉となっているのが、「超個別化エンジン」と同社が呼称しているAIプロダクトだ。

「一般的なウェブサービスは、通知手段が異なっても、すべてのユーザーが画一的なフローで同じサービスを受けていた。これを一人一人に合わせて個別化する。そのために、モバイルアプリ、ウェブサービスなどの脳に当たるAIアルゴリズムを提供し、エンドユーザーごとに異なる動線でのサービス提供が行える」

 冒頭に紹介した”イノベーションの糸口を発見するためのAIシミュレーション”、そして”超個別化エンジン”を活用し、顧客となる保険会社、自治体などに上流設計からエンドユーザーの接点となるコミュニケーションレイヤーの直前までをカバーしたソリューションを提供している。

「企業や自治体は、マイページや健康増進アプリを持っている。チラシ等の印刷物を送っているケースも含め、エンドユーザーに直接コミュニケーションする手段を持っている。そういったところにAPI連携や我々のソリューションを組み込み提供している」

生成AIの進化がソリューション開発の追い風に

 提供しているAIソリューションは、どういった技術を使って作られたものだろうか。

「我々のコア技術は、次の4つに分類できる。1つは、あらゆるデータを行動科学の視点から構造化、整理する技術。2つ目は想定される行動を可視化する技術。3つ目は個々の行動に最適な次の一手(ネクスト・ベスト・アクション)を提示する個別化技術。そして4つ目はこれらを実現するための各種コンテンツ生成技術になる」(森山氏)

 この4つの技術は、生成AI登場前から開発されていたものだが、「生成AIが出てきたことで、我々のロードマップが大幅に前倒しになったことは間違いない。特に近年のマルチモーダル生成AIの発展で、さらに加速した。今後も、例えばNVIDIAが発表したフィジカルAIを使えば、さらに広いAIシミュレーションが可能になるだろう。基幹技術は我々独自のものをしっかり作っていきたいと考えているが、それを一気に広げる技術的環境が整ってきていると感じている」と森山氏は話す。

 2025年5月にはシリーズAラウンドで総額11億円の資金調達を実施。出資者にはDawn Capital、アシックス・ベンチャーズ、みなとキャピタル、モバイル・インターネットキャピタルが参加し、融資にはJA三井リース、日本政策金融公庫も加わった。この資金により、同社が掲げる「信頼できるAI(trustworthy AI)」の開発やグローバル展開がさらに加速する見通しだ。

「Godotを設立してすぐの頃は、資金調達もできず、生き残れるのか不安があったが、そこに生成AIが出てきて、コンテンツ生成やシミュレーションを行うコストがものすごく安価になり、我々の技術を何十倍も強くしてくれると感じた。さらに、それを実現する技術力を持ったスタッフがそろい、AIソリューションを開発できたことが幸いだった」と成長要因を挙げる。

 現在は社員40名のうち、半分がエンジニア。残りのスタッフの多くが行動科学の研究者で、あとは知財やM&Aを担当するコーポレートチームのメンバーだという。

 社内にM&Aを担当するスタッフがいる背景としては、「M&Aを行い、買収した企業のAIトランスフォーメーションを我々の技術を使って行うことがひとつの方向性だと考えている」と狙いを説明する。

 また、組織の強化についても、「研究開発は今まで以上に必要になってくる。採用強化は日本人に限定せず、世界中から我々がやっていることを、『面白いね』と参加してくれるような人材を集めていくことができれば」と獲得を進めているという。

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