ホンダのロケットが“東京タワーよりちょっと低く”飛んで帰ってきた話
“たった300m”のジャンプに詰まった、宇宙輸送の未来技術
6月17日、「ホンダが再使用型ロケットの離着陸に成功」というニュースがテレビやネットを駆け巡った。SNSでは「さすがホンダ」「カッコいい」といった反応や感動が飛び交った。
動画を見ると、映っているのは白い小型のロケットがフワッと飛び、フワッと降りる様子。飛んだ高さはたったの300メートル。東京タワー(333メートル)よりも低い。音も派手さもなく、わずか数十秒で終了。「なんでこんなに騒がれているの?」と思った人もいるかもしれない。でも、その“たった300メートル”に詰まっていたのは、とんでもない技術だ。
世界の宇宙開発は「再使用型」が新標準に
まず前提として、ロケットは基本「使い捨て」だ。一度打ち上げたらそのまま燃え尽き、もう戻ってこない。それでは毎回何十億円もかかってしまう。そこで世界がいま本気で取り組んでいるのが「再使用型ロケット」。飛ばして、制御して、着陸させて、もう一度使う。まるでシャトルバスのような宇宙輸送を目指している。
ホンダが挑んだのは、その再使用型ロケットの核となる“垂直離着陸”の実証だ。人間の操作ではなく、AI制御によって機体を上昇・滞空させ、狙った地点にピタリと垂直着地させる。風や揺れ、機体の傾きなどをリアルタイムで検知し、常に最適な噴射を続けてバランスを保つ。
これは「空中に逆さまのほうきを投げて、それを真っすぐ立てて着地させる」くらいの難易度である。しかも機体は再使用を前提とした設計で、繊細に着陸させて、ダメージを最小限に抑える必要がある。
モビリティの延長としての「宇宙」
ホンダはこの芸当を成功させた。クルマやバイクにとどまらず、航空機、ASIMO(ヒューマノイド)、月面ロボットなど、地道に積み上げてきた制御・動力・耐久技術が、ここにきて一つのカタチになった。
世界では、イーロン・マスク率いるスペースXが再使用型ロケットの開発に成功しているが、日本勢での成功は今回が初めて。そして日本には、三菱重工やJAXA出身のエンジニアが立ち上げたスタートアップである将来宇宙輸送システム(ISC)もいる。再使用型ロケットを主軸に掲げ、日本独自の回収・再利用システムを開発中だ。
もちろん、これですぐに宇宙旅行が始まるわけではない。だが、誰もが当たり前に宇宙にアクセスできる未来に向けて、確かな一歩を踏み出したことは間違いない。
静けさと繊細さにシビれる
映像を繰り返し見ているうちに、ふわりと着地するその動きに引き込まれる。あの精密さ、あの静けさこそ、日本の繊細なモノづくりの真骨頂。いわば、重力と風を相手に“茶道の一手”のような静かな決め技を繰り出しているかのようだ。静かなジャンプに宿る、とてつもない技術と執念。ホンダのロケットに、心からシビれた。

























