三菱一号館美術館では、「ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠」展を開催中です。この展覧会は、フランス、パリのオランジュリー美術館が、ルノワールとセザンヌという2人の印象派・ポスト印象派の画家に初めて同時にフォーカスし、企画・監修をした世界巡回展です。ルノワールとセザンヌ、2人の巨匠による肖像画、静物画、風景画、そして、2人から影響を受けたピカソを加え52点の作品が一堂に会する貴重な機会になります。日本では、三菱一号館美術館が唯一の会場です。
ルノワール×セザンヌ―知られざる2人の交流
職人の息子として生まれ、明るく社交的な性格だったルノワールと、銀行家の家庭に生まれ、人付き合いをあまり好まなかったセザンヌ。出自や性格も異なる2人ですが、実は南フランスの地でともに制作し、家族ぐるみの付き合いがありました。
2人の最初の出会いは、1860年代の初め頃、印象派の画家フレデリック・バジールが、ルノワールのところへセザンヌを連れて行き紹介したのがはじまりだったといわれています。
1882年には、南仏のレスタックで制作していたセザンヌをルノワールが訪ねています。この頃ルノワールは描いた作品をセザンヌのもとに預けていました。滞在中、ルノワールが肺炎を患った際にはセザンヌが母親とともに看病にあたるなど、家族ぐるみの付き合いがあったようです。
1895年、セザンヌが世に知られるきかっけとなったヴォラール画廊の個展に足を運んだルノワールは、セザンヌの作品に対して「熱狂」するほど賞賛していたことが、画家ピサロの書簡から読み取れます。
ルノワール×セザンヌ―2人が追い求めた近代性(モダニティ)とは
ルノワールは、モネやドガらと並ぶ「印象派」の代表画家で、柔らかいタッチと色彩の画風でよく知られています。一方セザンヌは、対象を幾何学的な形で捉える斬新な表現で「近代絵画の父」と称されています。
一見すると異なる芸術を追い求めたように思えるルノワールとセザンヌですが、実は制作の上でも多くの共通点が見られます。
2人はともに、馴染みある場所の戸外風景や身近な人物の肖像、花や果物などの静物を、筆触の残る粗めのタッチで描き出しました。一方、「水浴図」や「裸婦」といった画題は、西洋美術の伝統の中で繰り返し取り上げられてきたもので、2人が古典的な美の系譜も意識していたことがわかります。
ルノワールとセザンヌは、それぞれが新たな表現方法を模索しながらも、抽象化には進まず、最後まで形態(かたち)を重んじていました。2人の巨匠は、互いに共鳴し合いながら古典的な様式に根差した近代性(モダニティ)を追求し、20世紀最大の画家ピカソにも影響を与えたのです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《風景の中の裸婦》
1883年、油彩・カンヴァス、オランジュリー美術館
© GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF

ポール・セザンヌ《3人の浴女》
1874-1875年頃、油彩・カンヴァス、オルセー美術館
© GrandPalaisRmn (musée d'Orsay)/ Hervé Lewandowski / distributed by AMF
2人の卓越した芸術表現をぜひ、三菱一号館美術館で開催中の「ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠」展でお楽しみください。
ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠
会期:2025年5月29日(木)~9月7日(日)
URL:https://mimt.jp/ex/renoir-cezanne/
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