PowerShell 7で文字列中にZWJ(Zero Width Joiner)などを使った複雑な絵文字を入れると、カーソル位置がずれてしまう。これは、コマンドラインのユニコード文字列のGrapheme Clusterを正しく判定していないからだ。
Grapheme Clusterとは、人間にとって1文字に見えるコードポイントの連なりである。この件は過去記事(「ユニコードで文字数を数える方法」)に書いた。今回はコマンドラインでの問題を考えてみる。なお評価は、Windows 11 Ver.24H2上のPowerShell Ver.7.5.1でしている。
原因はPSReadLineにある
では、原因はどこにあるのだろうか? まず、現在のWindowsターミナルは、Ver.1.22(現在の安定版)から、Grapheme Clusterを正しく判定できるようになっている。そして問題は、PSReadLineにある。PSReadLineはヒストリなどの関係で、入力コマンドラインを扱っており、このときコマンドライン文字列を単純にUnicode(UTF-16)文字単位でしか見ていないのだ。
これは、PSReadLineをオフにしてみるとわかる。以下の画面は、その様子である。

上ではPSReadLineが有効だと、Grapheme Clusterが正しく認識されず、カーソル位置がずれてしまっている。下ではremove-moduleコマンドを使いPSReadLineをオフにしたので、Grapheme Clusterが正しく認識され、ダブルクオートの直後にカーソルが来るようになった
複雑な絵文字をコピー&ペーストでコマンドラインに貼り付けると、カーソル位置がずれてしまう。これは、PSReadLineがGrapheme Clusterではなく、Unicode文字(UTF-16)単位でしか扱っていないからだ。PSReadLineはGitHub(https://github.com/PowerShell/PSReadLine)にソースコードがある。今のところ、この部分がすぐに修正される様子はなさそうなので、当面は必要に応じてPSReadLineをオン/オフして使うしかないだろう。
PSReadLineをオフにすると、コマンドラインでは、同じ複雑な絵文字をダブルクオートの中に入れてもカーソル位置がずれることはなくなる。これは、PowerShellがGrapheme Clusterを正しく認識しているからだ。
こうした複雑な絵文字や異体字セレクタ(異体字シーケンス)などを含む文字列をコマンドの引数にする場合、一時的にPSReadLineを停止した方が編集処理が簡単になる。
ただし、PSReadLineを停止してしまうと、履歴が「組み込みヒストリ」になってしまい、補完方法などの変更ができなくなる。また、コマンドラインの色分けも行われない。このあたりに関しても過去記事(「Windowsでのコマンドラインのヒストリ機能」)を参照してほしい。
PSReadLineをオン/オフする
PSReadLineは、モジュールとして読み込まれているため、これを削除することで動作を停止できる。具体的には、以下のようにすることでPSReadLineを停止できる。
remove-Module PSReadLine
再開させるには、PSReadLineモジュールをインポートする。
import-module PSReadLine
なお、セッションの途中でPSReadLineを停止し、その後上記のコマンドで再開した場合でも、履歴やPSReadLineOptionの設定は、停止前のものが残っている。なので、気軽に停止してもかまわない。再開すれば元の状態に戻る。
ただし、停止中に実行したコマンドに関しては、組み込み履歴側に記録される。PSReadLineモジュールが組み込まれているかどうかは、以下のコマンドで調べられる。
get-module PSReadLine
PSReadLineが組み込まれていればモジュールのプロパティが表示される。スクリプトなどからは、以下のようにして判定ができる。
if ((Get-Module PSReadline) -ne $null){ "PSReadLine is Exist"} else {"No PSReadLine"}
PSReadLineがオフの場合、モジュールが存在しないため、Get-Moduleコマンドはヌル($null)を返す。
オン/オフの頻度が高いなら、もう一工夫
文字列に絵文字や異体字セレクタを多用し、これを編集する頻度も高いようなら、毎回コマンドを打ち込むのも面倒なので、関数を定義し、短いエイリアスを定義しておく。
function Enable-PSReadline(){
import-module -Name PSReadLine
}
function Disable-PSReadline(){
remove-module -Name PSReadLine
}
set-alias -name epsrl -value Enable-PSReadline
set-alias -name dpsrl -value Disable-PSReadline
ここでは、エイリアスとして「epsrl」(有効化、Enable PSReadLine)と「dpsrl」(無効化、Disable PSReadLine)を定義した。最初から短い名前の関数にしないのは、Get-Commandからコマンドを探しやすくするためだ。
PowerShellでは、「Verb "-" Noun」形式のコマンドをfunctionで定義すると、Get-Commandが動詞(Verb)、名詞(Noun)で検索が可能になる。このようにすることで、コマンドの綴りを忘れても、対象となるPSReadLineというキーワードを使って、「Get-Command -Noun psread*」などとして検索できるわけだ。
また、PowerShellのプロンプトでPSReadLineのオン/オフを表示できれば、混乱も少ないだろう。それには、Prompt関数を書き換え、Get-Moduleコマンドで、PSReadLineの状態を判定してプロンプト文字列を切り替える(リスト02#%PROMPT%#)。PSReadLineがオンならば、プロンプトの右端は「>」となり、オフならば「:」になる。
function prompt() {
$promptString+="PS$($PSVersionTable.PSVersion.Major).$($PSVersionTable.PSVersion.Minor)"
if ((Get-Module -Name PSReadline).Name -eq "PSReadLine") {
$promptString+="> "
} else {
$promptString+=": "
}
return $promptString
}
これらは、PowerShellのプロファイルに記述しておく。PowerShellのプロファイルに関しては過去記事(「WindowsのPowerShellのプロファイルを設定する」)を参照してほしい。
組み込み履歴のキーボードショートカット
前述のように、PSReadLineが停止すると、組み込み履歴機能が有効になり、PowerShell標準のコマンドライン編集キーに切り替わる。
これは、PSReadLineとはちょっと異なる割り当てになっている。キーボードショートカットの詳細に関しては、Microsoftのページ「about_Line_Editing - PowerShell」(https://learn.microsoft.com/ja-jp/powershell/module/microsoft.powershell.core/about/about_line_editing?view=powershell-7.5)を参考にしてほしい。また、組み込み履歴では、以下の4つのコマンドが利用できる。
Add-History:履歴を追加
Clear-History:履歴をクリア
Get-History:履歴リスト
Invoke-History:履歴を実行
ただし、履歴リストを使うならGet-HistoryよりF7キーの方が便利だ。
PSReadLineは便利だが、Grapheme Clusterに対応していないところが、ちょっとイタイ。もちろん、絵文字や異体字セレクタを使わないのであれば、問題はないのだが、逆に多用している場合、履歴の編集などが面倒になる。

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