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「会社をつくって、商品を売って、決算までやってみる」横浜市内の学校で実際に行われた会社経営授業の成果

横浜市 会社経営体験プログラム 成果発表会 開催レポート

提供: 横浜市会社経営体験プログラム/横浜市

 横浜市では、株式会社角川アスキー総合研究所および株式会社セルフウイングと連携し、市内の小・中学校を対象とした会社経営体験プログラムを継続的に実施している。2024年度は、市内12校の児童・生徒が約4カ月間のプログラムに参加。少人数で会社を立ち上げ、商品企画から販売、決算までを体験することで、起業家精神や自己肯定感の育成を図っている。本稿では、成果発表会に登壇した6校のプレゼンテーションを紹介し、授業を通じた学びの様子をレポートする。

2025年2月に開催された成果発表会には、プログラム実施校のうち、品濃小学校、あざみ野第二小学校、南山田小学校、境木中学校、希望が丘中学校、二つ橋高等特別支援学校の計6校の代表チームが参加。コメンテーターとして、横浜銀行の畑 翔太氏、横浜市信用保証協会の杉山 文彦氏、日本政策金融公庫の辻井 拓也氏、横浜信用金庫の目黒 豊氏、横浜市教育委員会事務局 日比野 卓也氏の5名が参加し、司会進行は起業家精神教育プログラムディレクター SAIL 代表の石井 龍生氏が務めた

横浜市内の6校の児童・生徒がプレゼンテーション

 横浜市では、2022年度から横浜市経済局と教育委員会事務局との連携により、市立の小学校・中学校・義務教育学校・特別支援学校を対象に、総合学習の時間等を活用して会社経営体験プログラムを実施している。プログラムは株式会社セルフウイングが提供するアントレプレナーシップ教育をベースに、疑似的に会社をつくり活動することで、チームワークの大切さを学び、失敗をおそれずに未来を切り開く「生きる力」を育むことを目的としている。

 プログラムの内容としては、4~6人でひとつの会社を作り、起業から市場調査、商品企画、資金調達、商品製造、広告、販売、決算までを体験する。2024年度は、横浜市立の12校が、9月から1月までの4カ月間で約15時間のプログラムを実施した。

 成果発表会はプログラムのフィナーレを飾る場であり、2024年の参加校からの選抜5校と、継続校1校の合計6校による成果発表が行われた。

品濃小をもっと楽しく、もっと好きになる商品を企画。横浜市立品濃小学校

 最初の発表では、品濃小学校6年生の合同チームが登壇。品濃小学校では、社長がメンバーの意気込みを聞き、社員ドラフトを通じて会社を結成。メンバーの「好き」や「得意」を活かした経営を目指し、「品濃小学校をもっと楽しく、もっと好きになる商品を作ろう!」をテーマに取り組んだ。お客様である1・2年生への聞き取り調査を実施し、商品企画、事業計画を作成。CM動画やポスターなども工夫し、販売会では呼び込みなどの販売促進活動も行い、完売した会社もあれば、売れ残りに悩む会社もあった。

 完売した会社も、値下げしすぎて赤字になったり、顧客ニーズと商品の数のバランスなどで苦戦した模様。最後に、「思い通りにいかないこともあったが、やり切った達成感を得られた」、「自分の得意を活かせる働き方があることを学んだ」と活動を振り返った。

 質疑応答では、「わくわくわかめ社」のCM動画が面白かったという感想や、今の気持ちを尋ねられた際の「こんな素晴らしい場所で発表できることを光栄に思います」と大人顔負けの返答に、会場からどよめきが起こる場面もあった。

 金融機関としてプログラムに協力した横浜市信用保証協会の杉山氏からの講評では、「品濃小学校のみなさんの表情が自信に満ち溢れていてかっこいい」と成長を評価した。特に、プログラム全体を通して学んだことの振り返りとして「自分の得意を活かす働き方がある」ことに気付けた点が素晴らしいとコメントが送られた。

あざみ野の魅力をPRするグッズを製造。あざみ野第二小学校(会社名:サクセス会社)

 続いての発表は、あざみ野第二小学校「サクセス会社」が登壇。「あざみ野の魅力をPRする便利グッズを作ろう。」をテーマに取り組んだ。お客様の6年生と保護者へ市場調査を行い、お客様が望む商品を調査。同校のマスコットキャラクター「じゅもっくん」を用いた貯金箱を企画、製造した。

 融資を受けるための事業説明は難しかったということだが、1回で融資が通ったという。金融機関からの「丁寧に作ってください」というアドバイスのもと、製造、宣伝などを行い、完売を達成した。CM動画のわかりやすさや、接客態度、商品がかわいくて値段が適正だった点が、完売という結果につながったと振り返った。メンバーで協力すればいろいろなことができ、役割分担をすることで効率よく作業が進むことを学んだとも発表した。発表後の質疑応答では、CM動画作成で工夫したことを聞かれ、「印象に残るように音を強く入れた」という回答がなされた。

 横浜銀行の畑氏は、1回目の審査で融資を通したことに触れ、誰もが知っている学校のマスコットキャラクターを活用した商品のアイデア、お客様に手に取ってもらいやすい商品を企画した点が評価に値するとコメントした。また、限られた時間の中で、役割分担をしてプログラムを最後まで進められたことについても高く評価した。CMに関しても印象に残る作りで、商品を購入することで得られる効果が明確に表現されている点がよかったと述べた。

南山田30周年グッズを作る。南山田小学校(会社名:ノースヴィレッジカンパニー)

  前半最後の発表は、南山田小学校「ノースヴィレッジカンパニー」が登壇。「南山田30周年グッズを作ろう!」というテーマで、お客様である3年生が喜ぶグッズを考えた。商品は、インタビュー調査と競合の情報収集を基に、ニーズは多いが競合も多い文房具ではなく、3年生が普段使うものを考え、ランチョンマットを企画、製造した。オリジナルのイルカのキャラクター「いるてん」や男女ともに使えるデザイン、風呂敷としても使えるような多機能性を持たせた点が特徴だ。コスト削減により商品価格を抑え、宣伝、販売の工夫により、販売開始からわずか15〜20分で完売となったという。

 質疑応答では、売る時に工夫したことを聞かれ、看板をサンドイッチマンのようにして会場を巡回して告知をしたことを紹介。「なぜイルカのキャラクターにしたのか?」という質問には、男女どちらにも受け入れられるキャラクターとして選択したと回答し、併せて、キャラクターの誕生秘話も紹介された。

 日本政策金融公庫の辻井氏は、計画通りに売り切ったことを評価した。計画通りに進まないことが多い中、着実に売り上げと利益を出した点に言及した。お客様目線でターゲットとなる3年生のニーズを捉えた商品を企画し、宣伝、販売活動を行ったことや、競合が多い文房具ではなくランチョンマットに切り替えた柔軟性と着眼点を評価し、多角的な視点が今後のチャレンジにも重要になるとコメントした。

地球に優しい、心に優しい。SDGsを視野に入れた商品開発に挑む、境木中学校(会社名:eco.6(株))

 休憩が明け、後半最初の発表は、境木中学校「eco.6(株)」が登壇。SDGsを視野に入れ、「地球に優しい、心に優しい。」をキャッチコピーに、お客様が思わず手に取りたくなる「制服ストラップ」を企画、販売した。市場調査では、お客様のニーズをより明確に把握するため、具体的な設問を用意しアンケート調査を実施。調査結果から「思い出に残るキーホルダー」というニーズを捉え、再利用した資材を使って製造した。

 低コストでありながら、高いクオリティーの商品を製造し、適正な価格でお客様に提供した結果、販売開始後わずか15分で完売を達成。完売の理由として、「商品のアピールポイントである思い出の制服を、細かいところまで再現しました」と振り返ったのが印象的だった。質疑応答では、社名についての質問があり、六組であることが由来と回答。プログラムをやってみて良かったこととして、「みんなで協力できたこと」と誇らしげに語っていた。

 横浜銀行の畑氏は、まず売り切ったことが素晴らしいと評価した。会社のキャッチコピーを作り、それに基づいて商品を開発した点や、エシカル消費の流れにマッチした企画であった点を高く評価した。加えて、市販のストラップを研究し、戦略的な価格設定を行ったマーケティングの視点も優れていたとコメントした。最後に、「それぞれの得意分野で役割分担できたことが、素晴らしい結果をもたらしたのではないか」と締めくくった。

希望が丘地区が住みたいと思える街になるように、たくさんの人に魅力を発信できる商品を企画。希望丘中学校(会社名:株式会社SS)

 続く希望が丘中学校は、「株式会社SS」が登壇。「希望が丘地区が住みたいと思える街になるように、たくさんの人に魅力を発信できる商品を作ろう!」をテーマにホワイトボード付きカレンダーを企画販売した。市場調査の結果を基に、壁掛け、卓上の両方で使用可能なカレンダーにメモ機能を付けた商品を企画。黒字になった要因として、毎月異なる希望が丘の風景写真を載せて街の魅力をアピールした点や機能性、類似商品がなかったことを挙げた。一方で、宣伝で商品の特徴を十分に伝えきれなかった点、値下げをしすぎて利益が少なくなったことを課題として挙げ、改善策を発表した。

 質疑応答では、値付けの理由や商品を作る上で一番難しかったことを聞かれ、アンケート結果で求められていた付箋の機能をホワイトボードとして盛り込むことが難しかったと回答。値段に関しては、材料費、利益のバランスで本来700円にしたかったところを800円にしたと回答した。

 横浜銀行の畑氏は、しっかりと市場調査を行い、調査結果が商品に反映されている点が良かったと評価した。広告宣伝で商品のよさをうまく伝えられなかったと考察したことに触れ、市場に商品の魅力を伝えることは重要だと述べた。その上で、売り切るために当日の販促活動や値下げなど、最後まで力を尽くした経験を今後も大切にしてほしいと締めくくった。

本気の商売に取り組む。カレンダーや箸、ボールペンなど8商品を企画。二つ橋高等特別支援学校(会社名:二つ橋商事)

 最後の発表は、継続校の代表として二つ橋高等特別支援学校が登壇した。会社名は「二つ橋商事」。社内に9つの部署を設け、カレンダーや箸、クッキーなどの8種類の商品を企画開発した。販売対象は生徒や保護者などの学校関係者で、現金で販売を行った。市場調査の結果、学校オリジナルの商品を求める声が多かったことを受け、各商品の企画開発を進めた。活動を通じて、商品開発の大変さと、同僚と協力することの大切さを学んだと振り返り、実際の商品が販売されるまでの過程には、さまざまな工夫や努力があることを学び、将来に役立つ貴重な経験になったと発表した。

 質疑応答では、なぜいろいろな種類の商品を作ったのか?という質問に対し、さまざまな商品を作ることで、多くの人に思い出のアイテムとして購入してもらいたいという思いがあったと回答した。

 各校の発表の後、プログラムに協力した横浜信用金庫の目黒氏が成果発表会の全体を振り返り、毎年このプログラムに協力しているが、年々レベルが高くなってきていると評価。自身が「創業スクール」という起業家を養成するプログラムにも携わっていることに触れ、今回の会社経営体験プログラムに参加した児童、生徒の発表はそれに劣らないものだったと絶賛した。大人になった時にも今回の経験を思い出して、チャレンジを続けてしてもらいたいと参加者に激励の言葉を送った。

 総評として、横浜市教育委員会事務局 小中学校企画課の日比野卓也氏が登壇。

 会場の参加者に向け、10年後、5年後は何をしていますか? 何をしていたいですか? と問いかけた。今の世の中は予測できないことが起きる、不確定要素が多く、決まった正解を出すのが難しい状況だと指摘。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった不確実な要素を指す言葉「VUCA(ブーカ)」という言葉を紹介し、そんな不確実性の時代に大人になった時、今やりたいと思っている仕事がなくなっている可能性も挙げ、自分がやりたいこと、得意なこと、力を活かせることを見つけ、大切にしてもらいたいと話した。

 また、今回のプログラムでは、仲間と一緒に協力する、失敗してもくじけずに頑張る、いろいろな角度から物事を見る、目標に向かってやり遂げるなど、生きていくうえで必要な力を身につけたり、経験することができたのではないかと振り返った。「ここで得たものを活かして、これからの人生を豊かに、より良い社会づくりをしてもらいたい。これで終わりではなく、スタートとして捉えてもらいたい」と日比野氏は締めくくった。

 発表会の最後、司会進行を務めた石井龍生氏は、今回の経験を学校に帰って他の仲間と共有してほしいと呼びかけた。「みなさんは学校の代表として参加しているため、この経験を自分たちだけのものにせず、感じたことや学んだことを持ち帰り、学校全体の学びにしてほしい。起業家の世界は助け合いの精神が大切であり、そのような起業家マインドを持って、これからの人生に活かし、世界に羽ばたいていってほしい」とエールを送った。

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