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九州・福岡に第3のネットワーク拠点を設立したビッグローブ、その狙いを識者と語る

2025年03月26日 12時00分更新

文● 佐野正弘 編集●ASCII

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 台湾TSMCの進出などで注目を高めている九州。その九州で需要が高まるネットワークの強化に動いているのが、KDDI子会社でインターネット接続サービス大手のビッグローブだ。

ネットワーク拠点を分散させることでリスクマネジメントに

 実際同社は2024年10月に福岡県にネットワーク拠点を開設、九州のコンテンツプロバイダーやインターネットサービスプロバイダなどと相互接続が可能になることで、九州での安定したインターネット接続や、災害時の備えの強化を実現できるとしている。

 ただそれだけを聞いても、拠点の開設が九州の人たちにどのようなメリットを与えるのか、伝わりにくいのも確かだ。そこでビッグローブは3月21日に福岡県福岡市で記者説明会を実施。同社の取り組みが福岡、ひいては九州にどのような影響をもたらすのかをより具体的に解説している。

ビッグローブは2025年3月21日に福岡市で説明会を実施。ビッグローブが九州に第3のネットワーク拠点を設立した理由について説明がなされた

 まずはビッグローブの九州支店長である佐藤徹弥氏が、同社の九州における取り組みを改めて説明。九州での拠点開設に向けた狙いを改めて説明するとともに、福岡にも各地域に支店を構えて地場企業の課題解決や、地域に根差した営業活動を実施するなど、九州により注力していく姿勢を示した。

ビッグローブ九州支店長の佐藤氏は、拠点開設を機として九州でのビジネスをより強化していく意向を示している

地元のプロバイダーにはコスト削減に

 続くトークセッションでは、まずビッグローブの執行役員CNOである南雄一氏が、ビッグローブの福岡ネットワーク拠点について詳細を説明。今回設けられた拠点は福岡市内にある、複数の企業で共有するタイプのデータセンター内にあり、それを通じてほかの事業者が提供するさまざまなコンテンツやサービスと相互接続できるようになる。

トークセッションで話すビッグローブの南氏。ネットワーク拠点が東京と大阪に集中していることが、九州の利用者にさまざまな問題をもたらしていたと話す

 従来、そうしたネットワーク拠点は東京に設けられることが多く、その後、東日本大震災を受け大阪にも開設する動きが進んだが、現在もそれら2つの都市に拠点が集中している状況にある。だがこの状況は九州のユーザーからすると、さまざまなインターネットサービスを利用するのに必ず一度大阪、あるいは東京を経由する必要があること示している。

 つまり福岡にあるサービスを利用するのに、少なくとも福岡と、ネットワーク拠点となる大阪を往復する必要があったわけだが、そのことがいくつかの問題を生じさせる要因にもなっているという。

 1つ目はこれら2つの都市で大規模災害などが生じ、ネットワーク拠点が利用できなくなった場合、被災していない九州にも影響が及んでしまうこと。2つ目は無駄な距離が生じるため通信の遅延が大きくなることで、サービス上、遅延が小さい方が有利なオンラインゲームや株取引などのサービスでは、九州の事業者が不利な立場に置かれることにもなっていたようだ。

現状では大阪、もしくは東京で大規模災害が起きると、災害の影響を受けていない九州でもインターネットが利用しづらくなる可能性があるという

 3つ目は、九州の企業がインターネット接続サービスを提供するには、九州から大阪を結ぶ回線が必要になるため、その分のコストがかかってしまうこと。それはインターネット接続サービスを提供するISP(インターネットサービスプロバイダー)にも影響し、大阪と九州を結ぶ回線の分だけ九州のISPのコストが高くなってしまうという。

九州から最も近い拠点の大阪に接続する回線が必要なことが、九州でインターネットを利用する企業のコスト高要因になっているとのこと

 それら九州が抱えるネットワークの課題を解決するべく、ビッグローブが打ち出したのが福岡へのネットワーク拠点開設である。九州に拠点があることで、より低コストかつ低遅延でインターネットサービスへの接続が可能となるし、東京や大阪で災害などが生じても九州のネットワークは大きな影響を受けなくなるため、災害にも強くなるなど、多くのメリットがあるという。

一連の問題を解消して九州でのインターネット利用をしやすくするべく、ビッグローブは2024年10月に拠点を開設するに至ったとのことだ

 ただ現状、データセンターに関連する投資は東京と大阪に集中してしまっていることから、多くの通信事業者は九州へネットワーク拠点を設けるのに、まだ慎重な判断をしているようだ。実際南氏も、こうした取り組みは複数の企業が一斉に進めるものではないと説明、ビッグローブは九州にネットワーク拠点が集まることを期待し、他社に先駆けて拠点を開設するという判断を下したようだ。

 しかしなぜ、第3の拠点が九州・福岡なのか。南氏はその理由として、ビジネス的に成長の余地が大きいことを挙げている。現在、九州では台湾TSMCが熊本に進出するという大きな動きが起きているほか、福岡でも自治体の支援などによってスタートアップの動きが活発になるなど、地場系のIT関連事業者に勢いがあるという。

 東京や大阪はビジネスの規模こそ大きいものの、市場自体は成熟している。だが九州で新たなビジネスが多く立ち上がるなど勢いがあり、インターネット関連企業を誘致する下地も出来上がりつつあることから、それに期待して攻めの投資をするに至ったようだ。

 地方創生関連の事業に多く取り組んでいるという、青山学院大学 地球社会共生学部 学部長 教授の松永エリック・匡史氏は、「今やすべての産業がインターネット経由。日本酒もデータ分析して作る時代です」と説明。あらゆる産業がインターネットと密接につながっている時代だけに、地方の産業を活性化する上でもネットワークが重要な役割を果たすとしている。

青山学院大学の松永氏は、地方創生に取り組む自身の経験からネットワークの重要性を訴え、九州にネットワーク拠点が設立されたことを高く評価している

 また松永氏は、コロナ禍で物理的な移動が制限されることを経験したことで「企業が分散化の流れを強めている」とも説明、ビジネスを止めないためにもネットワークを活用することで、地方を分散拠点と位置づけていく動きが進むとの考えも示していた。

 そしてビッグローブのネットワーク拠点と、それを活用する企業の動きが広がることで、松永氏は「これからの時代、福岡は世界を見ないといけない」とも話している。実はビッグローブは、福岡の拠点設立と同時にアメリカ・ロサンゼルスの拠点強化を図っており、これらが結び付くことで九州から、東京を通り越して世界につながる道も見えてくるのではないかと、松永氏は期待も語っている。

 ただビッグローブの取り組みは九州だけにとどまるものではないようで、南氏は今後、北海道でもネットワーク拠点を開設する取り組みを進めていきたいとの意向を示していた。松永氏が「地方が競争しあうのではなく、価値を出し合うのが日本再生の肝」と話しているように、ネットワーク拠点がより多くの地域に広がることで、東京と大阪だけによらないビジネスと価値が生み出されることが、大いに期待されるところではないだろうか。

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