エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のまち散歩 第16回

【メタ観光・台北旅行記③ クラブ、バー、カルチャー】多層レイヤーがキーワードのカルチャー&ナイトシーンの面白さ

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 一般社団法人メタ観光推進機構の台湾旅行記も第3弾。今回は、音楽スポットやバー、カフェなど、カルチャー系スポットを紹介する。今回はクラブは回れなかったが、日本のカルチャーシーンと親和性が高く、かといって同じではない、台北の奥行きの深い幾重にもレイヤーが重なったメタ観光的な面白みがいっぱいの世界を見てきた。例えば、「SIDOLI RADIO(小島裡)」。台北の大稻埕エリアにあるこのカフェは、単なるカフェを超えた特別な存在で、そのあたりから見ていきたい。

一般社団法人メタ観光推進機構:https://metatourism.jp/

SIDOLI RADIO(小島裡)の店内にあるDJブース

「SIDOLI RADIO(小島裡)」にて。左から3番目がクリエイティブディレクターの方序中さん。左から筆者、メタ観光推進機構(以下同)の伏谷博之理事、4人目が齊藤貴弘理事、手前が真鍋陸太郎理事、右から2人目が牧野友衛代表理事、右端が菊地映輝理事

カフェを超えた特別な存在「SIDOLI RADIO(小島裡)」に見る様々な時空の音楽が紡ぐ多層レイヤーの面白さ

 「SIDOLI RADIO 小島裡」は2020年末に設立された複合型文化空間で、「聲音(音)」をテーマにしたコンセプトが特徴。録音スタジオ、レコードショップ、カフェ、セレクトショップ、ギャラリーが融合した場所になっている。運営は、デザイナーの方序中、蚯蚓文化の游智維、そして林凱洛の3人によるコラボレーションで、文化的な深みとクリエイティブなエネルギーが詰まっている。

 大稻埕の古い建物を利用した空間は、天井の天窓や磨かれたコンクリート床がレトロモダンな雰囲気を演出している。古い建物のリノベーションにおける創造性と持続可能性、社会共益を指標に選ばれる台北の伝統的なアワード「Taipei Old House Renovation」2023年度のトップ10にも選ばれている。

 店名の由来は、「SIDOLI」は英語の「Story(物語)」からきており、「RADIO」は声を伝える媒体としてチョイスされている。台湾の日常に根ざした物語を収集し、放送することを目指している。 コンセプトとして「讓耳朵成為主角(耳を主役に)」を掲げ、聴覚を通じて記憶や感情を呼び起こす体験を提供する。

 訪れる人々が「小島」に登り、台北や台湾の物語に触れる場所となっている。1階は、オープンな録音スタジオとカフェエリアが中心。レトロな雰囲気の中で、コーヒーや軽食を楽しみながら、時折行われるライブDJイベントやポッドキャスト収録を体験できる。メニューはカセットテープ型のユニークなデザインで、懐かしさを感じさせます。

 そして、面白いのは地下。「感傷唱片行」とのコラボによるレコードショップになっている。80年代から90年代の台湾大衆音楽や、ニューウェーヴ、日本の音楽などのカセットテープやレトロな音楽アイテムが並び、ノスタルジックな気分に浸れる。

 定期的に開催される展覧会では、音を軸にしたアートや歴史的なコンテンツが楽しめます。過去には大稻埕の100年以上の歴史を音でたどる展示や、デザイナー原耕一のグラフィックデザイン展などが話題になった。コーヒーは「Full City Roast」の深煎り豆を使用し、ナッツやチョコレートのような風味が楽しめる。

■「SIDOLI RADIO 小島裡」

アクセス:台北MRT「北門駅」から徒歩約10分。大稻埕の観光ついでに立ち寄りやすい立地

住所:台北市大同區長安西路245號1F

公式サイト:https://sidoli.tw/

●メタ観光推進機構・伏谷博之理事の「SIDOLI RADIO(小島裡)」へのコメント

伏谷理事(左)と方序中さん

 「どこか懐かしく、似てるけど似ていないパラレルワールド、台北。6年半ぶりの訪問だったが街は変わらず賑やかで活気に満ちていた。

 台北を再訪したらどうしても立ち寄りたい場所があった。大稻埕エリアにある『SIDOLI RADIO(小島裡)』だ。2021年4月に、クリエイティブディレクターの方序中(以下、ジョーさん)と旅行会社オーナーの游智維によって設立されたこの場所は、ただカフェと呼ぶにはあまりにもユニークな存在だ。

 店内には80年代から90年代の台湾大衆音楽のカセットテープが100本以上所蔵されており、カフェの利用者はポータブルカセットプレーヤーとともにこれらの音源を楽しむことができる。また、地下にはかつて防空壕として使用されていたという空間があり、様々なカセットテープやグッズが販売されている。私たちが訪問した時は山下達郎の作品が並んでいた。

 DJブースと共にポッドキャストスタジオが併設されているのも大きな特徴だ。近隣の老舗店のオーナーや歴史的な寺院へのインタビューを行い、彼らの物語を独自のポッドキャスト番組に収め、公式サイトで公開している。

 ジョーさんは、『SIDOLI RADIO(小島裡)』を通じて、地域の歴史や文化を物語として音声で伝え、人々が互いの経験や記憶を共有する場を提供している。そしてその取組は、若者たちの集う新しいコミュニティを形作っている。

 今回、ついに念願の『SIDOLI RADIO(小島裡)』を訪問できた。ちょうど年に一度の『小島祭』というイベントが開催されており、店内ではミュージシャンやアーティストらがブースを構え、小さなお祭りのようだった。そして、この場所のコミュニティとしての役割を十分に体感することができた。日本では、何度か会っていたジョーさんとも再会を祝うことができた。

 『Old meets new』とは、インバウンドに向けた東京都のキャッチフレーズだが、台湾の方がよりしっくり来るように思う。若い世代が地域の歴史や文化、コミュニティを尊重しながら新しいチャレンジを織り混ぜ、未来へと繋いでいく。そんな姿勢が街並みやそこに暮らす人々の営みから滲みでているようだ。

 『SIDOLI RADIO(小島裡)』の地下には、バックトゥザフューチャー2のドクの言葉、”WHERE WE’RE GOING WE DON”T NEED ROADS.”を綴ったネオンサインが設置されている。「私たちが向かう先には、道は必要ない」、なぜなら、僕らはしっかりと先人たちが築いてきた過去と繋がっているんだから!そんなジョーさんの思いが伝わって来るようだ」

伏谷博之理事のプロフィール(メタ観光推進機構のHPより)

 「ORIGINAL Inc. 代表取締役。タイムアウト東京代表。 / 一般社団法人 日本地域国際化推進機構代表理事。島根県生まれ。関西外国語大学卒。大学在学中にタワーレコード株式会社に入社。2005年 代表取締役社長に就任。 同年ナップスタージャパン株式会社を設立し、代表取締役を兼務。タワーレコード最高顧問を経て、2007年 ORIGINAL Inc.を設立。代表取締役に就任。2009年にタイムアウト東京を開設。観光庁アドバイザリーボード委員(2019-2020)の他、農水省、東京都などの専門委員を務める」

隠れ家バー「Staff Only Club」も古い建物の歴史と会員制的なコンセプト、凝ったカクテルと美しい内装、内と外を繋ぐ大きな窓と言う多層レイヤーがメタなナイトシーンを作っていた

 台北のバーは、隠れ家的なスピークイージー(秘密のバー)や、テーマ性のある内装が特徴的な場所が多い。たとえば、美容院やカフェの裏に隠されたバーや、特定のコードを入力して入る場所など、非日常感を楽しめる。 台湾は世界的に有名なバーテンダーを輩出していて、カクテル文化が非常に進んでいる。地元のフルーツやお茶(烏龍茶や緑茶)を使ったオリジナルカクテルが楽しめるバーも人気だ。

 夜景と共に楽しむ台北101や街のスカイラインを見渡せるルーフトップバーも多い。東区(Zhongxiao Dunhua周辺)は、若者や感度の高い人々が集まるエリアで、おしゃれなバーやレストランが密集している。カクテル専門のスタンディングバーや、隠れ家的な雰囲気の場所が見つかる。 信義区(Xinyi District)は、台北101周辺の高級感あるバーや、賑やかなナイトライフを楽しめるスポットが多い。ホテル内のバーも多いエリアだ。 中山エリアは、日本人にも馴染みやすいバーや居酒屋風の場所が多く、落ち着いた雰囲気の中で飲みたいときにお勧め。

 今回、WEBマガジン「初耳 / hatsumimi」代表の小路 輔氏に連れて行ってもらった 「Staff Only Club」は、元々は会員制のスピークイージースタイルのバーとして知られていた場所で、2018年にオープンし、当初は会員カードを持った「スタッフ」(メンバー)だけが入場できる高級感漂う社交場として話題になったが、現在は会員制を廃止し、一般客も気軽に訪れることができるようになった。

 大正時代の醤油工場を改装した建物で、Art Deco(アール・デコ)を基調としたレトロモダンなデザインで、内装も豪華なベルベットの椅子、北欧風のヴィンテージ家具、磨石子(テラゾー)で作られたバー台が特徴的。大きなガラス窓からは自然光が差し込み、夜になると幻想的な照明が空間を彩る。 夜はハイクラスなバーとして営業する一方、日中や特定の時間帯では展示や撮影スペースとしても活用され、プライベートパーティーの貸切も可能。テーマパーティー(例: 「バビロンガーデン」)も不定期で開催されている。

 フラッシュ撮影は禁止されているが、筆者が訪れた際は、カクテルの写真を撮るときに、スタッフがスマホで小さく光をくれた。

■「Staff Only Club」

住所:台北市中正區水源路1-10號

アクセス:MRT「公館駅」または「台電大樓駅」から徒歩約10-15分

SNS:Instagram STAFF ONLY CLUB(@staffonlyclub_taipei) • Instagram写真と動画

●メタ観光推進機構・菊地映輝理事の「Staff Only Club」へのコメント

「Staff Only Club」にて。左端が菊地理事

 「結局はどこまでいっても、隣の芝生や無い物ねだりの類でしかないのだけれど、日本には無い台湾のオシャレさが好きだ。街角にある昔ながらの台湾的なごはん屋さんと、妙に西洋を感じさせるカフェやバーとのギャップ。普段とよそ行きの落差に粋や洒落を感じてしまう。

 メタ観光は、一つの場所に複数の意味や文脈を読み込む観光のあり方だが、同じ場所にジャンルの大きく異なるレイヤーを見いだし実感した時に得られる感覚と、台湾に感じる『落差のオシャレさ』にはどこか通じるものがあるかもしれない。

 今回の旅では、公館エリアにある『Staff Only Club』という隠れ家バーを訪れたが、このバーにも台湾の『落差のオシャレさ』が見いだせた。

 タクシーの運転手すらも知らないような郊外の廃倉庫にある、大きな扉を秘密の方法で開ければ、中にはモダンで広いよそ行きの空間が広がっていた。カードゲーム仕立てのメニューや、こだわりの家具(アンティーク家具を営む方がプロデュースしてるそうだ)で客を愉しませる素敵なBarだが、外からはその片鱗が一切伺えない。

 はじめて訪れた客は予期せぬ体験に心躍らせるに違いない(今回、私だけ他の理事よりも長めに台湾に滞在したが、他の日に1人で訪れたバーも同じような設えであった)。 日本にもそうした、実はバーでしたな店は増えている。増えてはいるが、どうしても日本のそうしたバーからは『これやればウケますよね』が漏れ出すぎているように思ってしまう。私としてはそこにオシャレさは感じられない。日本にも落差のオシャレさがもう少しあってもいいのになと思う」

菊地映輝理事のプロフィール(メタ観光推進機構のHPより)

 「武蔵大学社会学部 准教授。1987年、北海道生まれ。博士(政策・メディア)。2017年、慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得退学。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院研究員、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員・講師などを経て、2024年より現職。専門は文化社会学、情報社会論等。株式会社Lab.808代表取締役、東京文化資源会議広域秋葉原作戦会議メンバーなども務める。現在は、情報社会における文化事象について都市とネットを横断する形で研究を行っている」

 台北ではほかにも中山区にある「HONN BAR」という日式スタイルのバーに入ったが面白い店だった。2023年2月にオープンし、主理人であるKevinがロンドンでのバーテンダー経験を活かして台湾に持ち帰ったコンセプトが特徴。「HONN」という名前には2つの意味が込められており、1つは日本語の「日本(Nihon)」の発音に由来し、もう1つはロンドンで運営していた「Home Bar」にちなんでいる。 

 日本的な「侘寂(Wabi-Sabi)」の美意識をベースに、ミニマルで自然なデザインを採用していて、清水模(コンクリート打ちっぱなし)のグレーと木質素材が調和した内装。 酒感の強さはメニューに沿って上から下へ濃くなる設計が面白い。「Staff Only Club」もそうだったのだが、今回訪れた2軒のバーはどちらも窓が大きく、外の空間とつながった作りなのが興味深かった。隠れ家的な内の意識と外とのつながりが新鮮だった。

 看板メニュー「富士山下」は蝶豆花(バタフライピー)で染めた淡い青の富士山型氷に、バラの花びらがあしらわれた美しい一杯。ウォッカをベースに、富士リンゴと巨峰ブドウのジュースを加えた清酒ボトルから自分で注ぐスタイルで、見た目も味も日式ロマンを感じさせる。酸味と甘みのバランスが女性に人気だ。

■「HONN BAR」

住所:台北市中山區長春路370號1F

アクセス:MRT「南京復興駅」から徒歩約5~7分

SNS:Instagram https://www.instagram.com/honnbar/

 また、今回は行かなかった台北のナイトクラブだが、信義区に集中していて、台北101周辺のエリアが最も賑わっている。EDMやヒップホップが主流で、飲み放題プランがあるクラブも多く、コスパ良く楽しめるのが魅力だ

●WEBマガジン「初耳 / hatsumimi」代表の小路 輔氏のナイトシーンへのコメント

「Staff Only Club」にて、小路氏

 「台北・信義といえば、昼はショッピング客でにぎわう洗練されたエリア。しかし、週末の夜になるとこの街は別の表情を見せる。微風(Breeze)と新光三越の間の通りが、いつの間にか即興のクラブへと変貌するのだ。 Draft Land Xinyi は、そんな信義のナイトシーンを象徴するスポットのひとつ。

 カクテルを「オンタップ」で提供するこの店は、台湾のバー文化に新風を吹き込んだ存在だ。ボトルもシェイカーも使わず、タップから注がれるカクテル。カウンターでじっくり飲むのもいいが、ここでは“オープンエア”なスタイルが魅力。カクテルを片手に外へと繰り出し、店内と屋外の境界が溶けていく。

 そして、そのすぐ隣には 臺虎信義(Taihu Brewing Xinyi)。台湾のクラフトビールシーンを牽引する「臺虎」の旗艦店で、気軽にビールを楽しめる空間だ。ここでも、店の内と外は曖昧になり、人々は自然と通りへと広がっていく。ビールを片手に友人と語らううちに、気づけば通りには音楽が満ちている。

 微風と新光三越の間のストリート、そこは、いつの間にか“クラブ”になっている。誰かがスピーカーを持ち寄り、DJが即席のブースで音を鳴らし始めると、道行く人が足を止め、即席のダンスフロアが生まれる。店内と屋外、商業とカルチャー、昼と夜。その境目が曖昧になる瞬間こそ、今の台北のナイトシーンの魅力なのかもしれない。

 都市の夜は、どこかで誰かが決めたルールの上に成り立つものだと思いがちだ。でも、台北・信義の夜は違う。流動的で、即興的で、いつの間にか“始まってしまう”もの。ただの通りも、そこにいる人々によって“自分たちの場所”へと変わっていく」

小路 輔(こうじ たすく)氏のプロフィール

 「WEBマガジン 『初耳 / hatsumimi』代表。 埼玉県生まれ。2002年よりJTBグループにてインバウンド事業やビジットジャパン関連業務に従事。2012年からはスタートトゥデイ(現ZOZO)でZOZOTOWNの海外事業を手掛ける。2014年、日本と台湾で起業し、以降、日台のカルチャーやライフスタイルを軸に活動。 台湾最大級の台日カルチャーイベントhaveAnice Festival(Culture & Art Book Fair、Culture & Coffee Festival)のオーガナイザーを務めるほか、日本国内で20万人以上を動員する台湾カルチャーイベント『TAIWAN PLUS』のプロデューサーとしても活躍中。 著書に『TAIWAN FACE Guide for 台湾文創』『+10 テンモア 台湾うまれ、小さな靴下の大きな世界』『TAIWAN EYES Guide for 台湾文創』などがある」

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