世界を知る投資ファンド運営者が語る日本のスタートアップが勝つための選択肢
Carbide芳川裕誠氏×DG Daiwa渡辺大和氏×IT-Farm春日伸弥氏、クロスボーダーVC1万字対談
提供: XTC JAPAN
唯一無二のプロダクトには、海外に出なくても向こうからやってくる
芳川:先日、浜松に行ったら、大勢のラテンアメリカの自動車業界関係者の方々がスズキの本社を訪問しているところに遭遇しました。良いものを作れば、こちらから行かなくても向こうから来てくれるんです。日本のスタートアップで同じような状況を起こすには、どうすればいいのだろうかと考えさせられました。
渡辺:世界が何を欲しがっているのかを探し、それを作ることに尽きるのでしょう。
春日:私は、ユニークネスの訴求がカギだと考えています。日本のスタートアップが海外で最初につまずくのは、「それってほかと何が違うの?」と問われ、門前払いされることです。多くのスタートアップが素晴らしい技術や製品を持っていますが、差別化のポイントが曖昧だったり、市場ニーズに応えられていなかったりすることがあります。日本のスタートアップが成功するためには、自社の強みやユニークポイントを明確にし、それを効果的に訴求することが必要です。
芳川:対象とする分野選定も大事かもしれません。私は政府の産業政策とスタートアップ政策の疎結合があるように思います。過去20~30年の世界のイノベーションの中心軸にソフトウェアやインターネット、ウェブサービスがあったことは間違いないですが、正直、この分野で日本のプレイヤーが世界で勝つのは難しいと思っています。私もソフトウェア屋ですし、この分野で新たな企業を起こされる起業家の皆さんには十二分の敬意を持っています。一方で、政府のスタートアップ政策と産業政策は、車の両輪として密結合していなければならないと強く思っています。先人は、自動車や電気、精密機器などで成功を収めました。政府が国の資源を使ってイノベーターとしてのスタートアップを応援するのなら、からなず次世代にその結果が返ってくる形となるべきだと思います。
春日:2024年、同様のテーマの鼎談を起業家と行いました(参考記事:https://ascii.jp/elem/000/004/185/4185492/)。エレファンテックという金属プリントで電子回路基板を作る会社と、もう一方はインスタリムというフィリピンで義足を作っている会社です。そのとき、エレファンテックの清水さんが言っていたのですが、こちらから出向かなくても、海外から見学希望のコンタクトが来るそうです。要は、世界でここにしかない尖がったプロダクトを作れば、がんばって海外を目指さなくても意外と人は来るのです。
芳川:素晴らしい。海外の販社に「取り扱わせてください」と言わせるレベルまでになればいいんですよ。先日、ある地方の金属加工企業の経営者の方から聞いた話では、100%純粋なアルミを作るのはとても難しいけれど、そうすることで再利用しやすくなるなど多くのメリットがあるそうです。しかし、今それが作れるのは世界で2カ所しかないとのこと。もう1カ所を尋ねたら「MITがやってるらしいけど、うちのほうが進んでいるはず」と仰っておられました。この企業は大手金属メーカーが唯一の商流だそうですが、一方でMITの卒業生は世界に売ってユニコーンを作るかもしれない。日本には世界トップのテクノロジーはあるけれど、自らどうパッケージ化して世に出すかがわからないのが問題です。
渡辺:ここも我々の腕の見せどころかもしれません。
芳川:モノづくりには「技術」と「モノ」の2つがあって、日本の企業は技術に強みがありますが、ユーザーにとって大事なのはモノ(製品そのもの)です。iPhoneには、日本の技術もたくさん含まれていますが、製品体験を作り上げたのはAppleです。日本のメーカーも昔は製品企画が優れていましたが、今はどうでしょうか。
春日:プロダクトの企画ができるタレントはどこに行ってしまったんでしょうね。
渡辺:ハードウェアとソフトウェアとの境界があまりなくなってきている中で、AIを始めとするソフトウェア業界へと流れてしまっているのではという見方もできます。
芳川:ソフトウェアだけのプロダクトは難しい。自動車産業もハードウェアからソフトウェアへシフトしたことで弱くなっている部分があるでしょう。また、近年話題の生成AIの会社を見ると、研究開発の半分以上が中国系の方です。彼らのクオリティーはすごく高い。中国から学ぶところもたくさんあるように思います。
渡辺:LLMもハードウェア領域に広がっています。特に中国勢のテック企業は、モート(防御的優位性)の作り方がハードウェアでのロックインというパターンが多いですよね。彼らを含めて海外のスタートアップの見倣うべき点、日本のスタートアップがこれから真似できそうだと思う点は、モノが全然出来上がっていなくても、将来購買する可能性のある顧客層とまず商談に行って、将来売上の参考指標として見ることができるようなLOI(基本合意書)の締結にこぎつけるなど、モノを作るよりも先にファンドレイズできるストーリーが出来上がっていることです。
芳川:今年のCESで自動車メーカーの出展エリアを見に行ったら、日本や欧州、米国の自動車メーカーはコンセプトモデルを出展しているのに、中国メーカーは製品を展示していました。おもしろかったのは、新幹線の座席のように、運転席と助手席が回転して後ろ向きになる機能。今は運転中に動かすことはないけれど、完全自動運転の時代になったら役立つでしょう。これにはテクノロジーはないけれど、プロダクトになっている。
渡辺:先ほど「GOグローバルは行くのではなく来るものだ」というお話がありましたが、海外からインバウンドでビジネス機会が来たときに、そこにちゃんとお店があり、モノが売っていることも大事ですね。せっかく来てくれたのにお店が開いていない、つまり英語サイトが用意されていなかったり、体験価値がわからなかったりすると、プリミティブな理由でビジネス機会を逃してしまいます。
芳川:日本の観光・飲食コンテンツが強いのはまさにそうですね。ここに来ないと体験できない。
渡辺:先ほどのアルミお話も、ビジネスとしてパッケージ化されて売っていれば商売になっていたかもしれない。
春日:相手が興味を持ってくれたときに、今すぐ何かできることがあるかどうかは大事な観点ですね。
芳川:日本にはまだ世界から尊敬されているドメインがあるから、そこにまつわるイノベーションを引き出していくのが有効かもしれません。例えば、我々は生産プロセス、工場のオペレーションなどにも投資しています。ピュアなBtoBのエンタープライズソフトウェアは国境を超えるのが難しいですが、日本の生産技術をパッケージ化するのはどうでしょうか。商社やプラント企業、大手メーカーの生産設備のエンジニアが世界中で活躍し、アメリカや東南アジアの国々にもその技術が導入されています。本当は、日本が戦える分野として、中長期的には0から100を作るドメインを見つけたいけれど、当面は、先人の知恵を活かしながら我々独自のアプローチで成果を出し、時間を稼いでいく方法もあるかもしれない。




























