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世界を知る投資ファンド運営者が語る日本のスタートアップが勝つための選択肢

Carbide芳川裕誠氏×DG Daiwa渡辺大和氏×IT-Farm春日伸弥氏、クロスボーダーVC1万字対談

提供: XTC JAPAN

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海外展開が厳しい日本の投資環境の現実

――海外への挑戦は、規制やコンプライアンス、慣習、税、人材など多様な壁やリスクもあります。投資先のスタートアップへどのようにお話をされているのでしょうか。

春日:芳川さんのように内需の限界の話をすると、一部のスタートアップからは「将来がんばらなければ……」という反応が返ってきます。しかし、将来ではなく今すぐやらないといけないというのは数字からも明らかです。

 国内スタートアップのエグジット市場を見ると、中央値はバリュエーションが65億円。平均値でも154億円。これは米国のシリーズAやBの規模感です。近年は、年間で50社前後がIPOしていますが、その数が大幅に増えることはないでしょう。国内の監査法人リソースが限界に達しており、それを倍にするといったことは不可能なためです。従来のようにスモールIPOを増やしても自然淘汰され、市場原理からIPOのハードルが上がり、海外並みの市場価値がなければ上場できなくなります。

 では、今から2倍、3倍の評価額を作り出すためには何ができるのか。2倍、3倍の時間をかければ大きくなるかもしれませんが、その間に資金は尽きてしまいます。急成長への選択肢はほとんどなく、そのひとつが海外での勝負です。国内市場だけでは限界があり、成長のスピードを速めるためにはグローバルに展開するしかないのです。

芳川:そうしないと、僕らのファンドパフォーマンスも落ちますよね。

春日:その通りです。東証グロース市場のIPOエグジット総額は7000億~1兆円です。一方で日本国内のスタートアップ投資金額が年間で8000億~9000億円なので、市場として成り立っていない。少なくとも2、3倍になってくれないと厳しい状況です。これはVCの問題だと私は思っています。VCは自らのファンドの回収期間を優先するあまり、シリーズB程度の規模で上場させてしまう。その結果、企業は成長の余地を失い、早期にエグジットしてしまうのです。

 もうひとつの要因は、日本は評価額を上振れさせる手段が乏しく、投資家はダウンサイドリスク(損失を被る可能性)をヘッジしようと考えがちなことです。失敗したところからできるだけ回収するために、早く細かく回収しようというサイクルに陥ってしまう。このサイクルから抜け出すためには、アップサイドを作りだすことが必要です。

芳川:ダウンサイドで回収するというのは、インソルベンシー(支払不能)のリスクが出てきたら、なるべく早く解散しようということですか?

春日:そうです。日本のVCは1倍で回収するモチベーションを強く持ってしまっている。対して、米Khosla Venturesのあるメンバーは、「我々はデカコーンになる可能性しか気にしない。その可能性があれば、ユニコーンのリスクが高くても出資するし、ユニコーンになれる確率が高くてもデカコーンになる確率がゼロなら出資しない」とまで話しており、発想がまったく違います。

芳川:隣の芝生は青く見えるものですが、このような米国の投資環境を教師役にしすぎるのは必ずしも良くないかもしれません。米国ではファンドサイズが大きくなりすぎて、デカコーンを目指すあまり、ある程度のスケールで、IPOなり企業売却なりのマイルトーンを達成できたはずの企業に、投資家都合で必要以上のリスクを取らせて潰してしまうという不都合な真実もあります。

 そのような中でアップサイドを作るには、我々のようなアーリーステージのVCの役割が大きいと思います。米国も日本も0→1のイノベーションだけに注力している大企業はほとんどありません。スタートアップの買収は、新規事業やR&Dのアウトソースという意味合いが強いのです。

 自力の営業・マーケティングで1000万ドルの売上を稼げるスタートアップが、大企業の販売チャネルに乗った途端に、いきなり数億ドルの売上規模になることもあります。これを日本で訴求できれば、世界に直接できなくても、例えばトヨタやソニーのチャネルを活用する形で日本発のイノベーションが世界に広がるというストーリーはあり得るのではないでしょうか。

渡辺:今、米国と日本のスタートアップでは報酬にも大きく差がついており、現地採用するにも資金面での苦労が存在します。結局それはVCの資金量の差に起因するもので、例えばKhosla VenturesやSequoia Capitalといった大手グローバルVCの大型出資を受けた競合スタートアップと、同じ土俵で競争するのは容易ではありません。そのためDGDVでは、こうしたグローバル投資家にも日本のスタートアップへの投資アングルを持ってもらい、当社がリードしているスタートアップに彼らにも共同出資して応援してもらえる形を理想と考えています。

芳川:もう1点、日本の最大の武器は家計ではないかと思っています。日本の家計資産は約2100兆円あり、その半分以上が現金・預金です。キャッシュは眠っているお金なので、その1%でもイノベーション投資に回れば、国内のベンチャー投資は数十倍になります。ただ銀行に預けられているだけの預金を、若い世代の挑戦へと投資する仕組みがもっとあればいいのに、と考えることがあります。

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