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世界を知る投資ファンド運営者が語る日本のスタートアップが勝つための選択肢

Carbide芳川裕誠氏×DG Daiwa渡辺大和氏×IT-Farm春日伸弥氏、クロスボーダーVC1万字対談

提供: XTC JAPAN

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2月28日(金)10:30~、本体談のCarbide Ventures芳川氏とエヌビディア大崎真孝日本代表によるセッションが開催される
JID 2025 by ASCII STARTUP

 近年、海外からの資金調達の成功や、実際に海外市場を指向するスタートアップが増えつつある。世界で勝負するために必要な資金力と成長速度の課題にどのように向き合うべきか。日本のスタートアップがグローバルで成功するための戦略、実践的なアプローチについて、国境を越えて国内・国外のスタートアップへ出資を行う投資ファンド運営者の視点から語り合った(以下、本文敬称略)。

Carbide Ventures ジェネラル・パートナー 芳川裕誠(よしかわ・ひろのぶ)氏【写真中央】
大学在学中の2001年より米レッドハットに勤務。2007年三井物産のベンチャー投資事業の投資担当として米シリコンバレーに渡米。2011年に米トレジャーデータを共同創業し、CEOに就任。2018年の英Arm社による買収を受け、Arm社のデータ事業担当役員に就任。トレジャーデータのSoftBank Vision Fundのもとでの再独立時より、会長として取締役会に復帰。2021年、カーバイドベンチャーズ設立。シリコンバレー在住。

株式会社DG Daiwa Ventures マネージングディレクター 渡辺大和(わたなべ・やまと)氏【写真左】
大学在学中に共同創業した会社を売却後、株式会社電通に入社。流通、保険、通信、自動車、官公庁、自治体のデータ活用、デジタライゼーション推進業務に従事。同社経営企画局にて事業戦略策定、コーポレートベンチャーキャピタルでの投資業務を担当。先端技術領域において、スタートアップのソーシングや成長戦略に携わる。シリコンバレー赴任、海外投資先の日本進出支援にも従事。DG Daiwa Venturesに参画。2021年度JAXA宇宙飛行士選抜試験 セミファイナリスト。

株式会社アイティーファーム(IT-Farm Corporation) ゼネラル・パートナー 春日伸弥(かすが・しんや)氏【写真右】
IBMで研究員を務めたのち、有限会社スウィフト取締役、株式会社ブロードテイル共同創業者、Ubitus Inc.日本代表など、25年以上に渡って先端技術の事業立ち上げを手掛ける。出資を受けたベンチャーキャピタルIT-Farmに2018年より参画し、全世界のディープテックを中心にグローバルな投資業務と事業成長支援に従事。世界的スタートアップコンテストXTCの日本チャプターを主宰するほか、欧州最大のAIコンソーシアムCyber Valleyの投資家ネットワーク創設メンバーとしても活動する。

内需の限界。1億人を養える産業を創出するには海外挑戦しかない

――ASCII STARTUPとしては約10年間ほどスタートアップ取材を続けてきましたが、近年は海外へ実際に挑戦するスタートアップが増えていると感じます。この変化について、クロスボーダーVC(ここでは、海外からの資金調達も含めて、国境を越えて国内・国外のスタートアップへ出資するベンチャーキャピタルとして表現)の立場では、どのように感じていらっしゃいますか?

渡辺:我々DGDVのポートフォリオは、日本企業と海外企業と約半分ずつで構成されています。海外の投資先の中では米国が最も多いのですが、これまで弊社と共同投資をしてきたグローバル投資家を呼び込むような形で、今度は日本の投資先が資金調達する際に、参加する投資家をグローバライズするご支援をしてきました。それが実を結んだ一例として昨年、日本でデジタルバンクを運営する既存投資先HabittoのシリーズA調達の際には、SoFiやNubankに投資してきたグローバル投資家のQED Investorsと共同でリードを務めさせていただきました。ただし、QEDとは日本市場に対する認識合わせや投資にまつわる商習慣の違いなどからクロージングの直前までさまざまな細部の調整が必要になり、我々がトランスレーターとしての役割を果たしながら、どうにか無事投資契約の締結にこぎつけました。

 また、スタートアップ海外進出においては、大雑把に”海外”に売るというイメージではなく、最初から“現地のどの層に向けたサービスなのか”をある程度解像度高く明確化することが重要です。比較的BtoCは早期に海外でもユーザーを増やせるケースがあるのですが、BtoBの分野では苦戦している会社が多い傾向があります。特に英語圏では、強力な競合が多く、日本のスタートアップがその中でどんなユニークな価値を訴求できるかが問われます。実際シリーズBやCで、日本発・海外進出のストーリーを描いて資金調達をしたものの、結果としては撤退しているようなケースもこれまでは数多くあったと思います。現地の人を採用せずに既存のリソースだけでやろうとしたケース、誤ったパートナシップを結んでしまったケース等々。それぞれの先駆者たちの海外進出の失敗事例が着実に蓄積されてきており、今後、勝ち筋が徐々に確立されていくのではないかと考えております。今はちょうど、その過渡期にあると考えています。

芳川:メタな話からすると、まず日本のマーケットは非常に小さくなりつつあります。世界全体のGDPに対する日本のシェアは1995年には17%でしたが、今や3%まで縮小しています。私が2009年に米国に移住した当時、量販店に行くとテレビの半分は日本のメーカーのものだったのですが、今はまったく見かけません。

 世界経済全体に対する日本の経済規模は1995年がピークですが、そこに至るまでの過程があったはずです。それは、昭和30年代、40年代には官民一体で輸出政策に取り組んだ結果、国産の自動車や家電メーカーが世界に台頭し、1億人を養うことができたわけです。しかし、その経済力が徐々に縮小し、今や頼みの綱だった自動車業界でさえ厳しくなってきている。

 これは大企業が抱える典型的なイノベーションのジレンマであり、日本に限った話ではありません。そもそも、米国のIBMやGE、AT&Tなども往時の輝きはありません。米国が日本と違うのは、それを引き継ぐGoogleやTesla、Netflixが登場したことです。

 日本も将来に向けて再び、1億人を養う産業を創出しなくてはいけない。イノベーションのジレンマの裏返しとしては、スタートアップこそがイノベーションを起こす存在です。世界経済の3%程度の内需に頼るのではなく、Day1からから世界のマーケット全体を目指して勝負することが重要です。これは、投資家、起業家、スタートアップエコシステムの一員として、我々の世代の義務だと考えています。

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