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万博の空でARエアレースも!?社会実装が進む“都市を拡張する”PLATEAUの可能性

東大・豊田啓介特任教授に聞く、人間とAIエージェントが共生する未来都市の姿〔アクセンチュア編〕

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: アクセンチュア株式会社

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大阪・関西万博で見られる“未来都市”にもPLATEAUが貢献

――豊田先生は誘致段階から大阪・関西万博に関わり、万博を「未来都市の実験場」として取り組みを進められているとうかがいました。そこにはPLATEAUやコモングラウンドも関係してくるのでしょうか。

豊田氏:もちろんです。現時点でお話しできる範囲の取り組みをご紹介しましょう。

 まずコモングラウンドについては、万博会場内のFuture Life Experience館に期間限定でコモングラウンド体験環境を設け、ここと大阪市内のCommon Ground Living Lab (CGLL) とを結んで「空間重畳」の体験ができるようにします。空間重畳はコモングラウンド開発の“フェーズ2”にあたり、遠隔地にいる人と“同じ空間”を共有しているかのように、位置関係や距離感を体感できる仕組みです。すでに、高校生向けの集団ワークショップなどで実証実験を行っています。

コモングラウンドプラットフォームの開発フェーズ(フェーズ1~5)

 もうひとつが、現実空間と仮想空間を掛け合わせたエアレース「AIR RACE X」です。これまで2023年と2024年の2回、渋谷の空を舞台にエアレースを行ったのですが、これを万博会場でも開催する計画です。

――えっ!? エアレースというのは、レース用の飛行機が指定のコースを超高速で飛んでタイムを競うものですよね。渋谷の街なかで、そんな危険なことができたのですか?

豊田氏:いえいえ、レース機が飛んだのは“バーチャルな渋谷の空”です。仮想空間だからこそ、そんなことができたのです。

「AIR RACE X Shibuya Round 2024」のAR映像

 仕組みはこうです。まず、PLATEAUのデータを使って渋谷の街に(バーチャルな)レースコースを作りました。これを受け取った8カ国のエアレースチームは、そのコースレイアウトに沿って、各国の空で実機を飛ばします。レース機は誤差数センチという精度でフライトデータを取得し、提出します。集まったそのデータを基に、競技結果を決めたのです。

 さらに、渋谷にいる人がレースを楽しめる取り組みも行いました。各チームのフライトデータに基づき、ARアプリを使って渋谷の空にレースを再現したのです。渋谷のどこから見ても渋谷上空を飛行機が飛び交うのが見える、そんな体験を実現しました。

 レースを行うのは仮想空間なので、たとえば「2チームの飛行機を同時に飛ばす」といった、現実空間では絶対にできない体験もできます。宮下公園で行った観戦イベントでは数千人がレースを体験し、世界に先駆けて「空間同期と位置同期を同時に行うARの集合的体験」が実現できたと思います。

「AIR RACE X Shibuya Round 2024」のAR映像

――それはすごく興奮する体験ですね! 大阪・関西万博のエアレースでも、それと同じように万博会場の上空がコースになるのでしょうか。

豊田氏:今回はさらに面白いことを計画しています。夢洲の万博会場と、大阪市中心部の大規模な都市施設をバーチャルに重ねて、合成された街の空にエアレースのコースを作ります。

 ARアプリで見ると、夢洲会場では市内の会場周辺にあるランドマークとなるビル群が、市内の会場では万博会場のリング(大屋根)などがARで出現して、「どちらの会場にいても同じレースが観戦できる」わけです。

――2つの街を“合成”するんですか! これもまた新しい可能性が見られそうです。ここではPLATEAUの3D都市モデルが活用されるのでしょうか。

豊田氏:もちろんです。そもそも「2つの街を合成する」というアイデアは、PLATEAUがあったからこそ実現できたと言えます。ただし、現状では大阪市内の主要なエリアはLOD1のデータしかないところが多いのですが、LOD2の整備も急ピッチで進んでいるので今回はより精度の高いデータが活用できる想定です。

 また、夢洲の万博会場は仮設の街であり、半年間の会期が終わると解体されるため、本来はPLATEAUのデータ化対象ではありません。ただ、レコード(記録)としてPLATEAUデータを残せるように、現在準備を進めてもらっています。

――イベントの記録としてPLATEAUのデータを残す。これも新しい取り組みですね。

豊田氏:そうなんです。このデータは、AIR RACE Xでエンタメに使うだけでなく、万博後の夢洲再開発でも使えるレガシーになるでしょう。1970年の大阪万博は「太陽の塔」を残しましたが、今の時代に残すべきは「データ」や「エコシステム」、そして「技術」だと思います。

「世の中を変えていく」新たなフェーズに入ったPLATEAUへの期待

――今回は、社会実装フェーズに入ったPLATEAUのこれからを見据えて、かなり幅広いお話をいただきました。あらためて、PLATEAUの未来にどんな期待をしているか、それぞれコメントをいただけますか。

増田氏:社会実装フェーズに入ったPLATEAUは、「短期的な成果」のみに閉じず、これまで以上に思い切り使いこなして「世の中を変えていく」ことが求められると思います。

 社会を変えるムーブメントをどんどん起こしていくという意味では、豊田先生がやられているコモングラウンドの研究、エンタメ領域でもAIR RACE Xなど、やはり都市とテクノロジーの関係をより大局的に捉えることがやはり大事なのだと、今日の議論を通じて感じたところです。

豊田氏:新しい取り組みを進めていくうえでは、既存の産業とつながらなければ価値化ができない、しかし既存の産業側は現状を変えたがらないというジレンマがあります。これがハードルになってしまうことがあまりに多い。

 ここまでのPLATEAUのように、国がリードして、産業セクターや企業の横並びを超えるような動きを、有無を言わさずやっていくことがとにかく大事だと思います。そういう意味で、これからのPLATEAUにも大きく期待しています。

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