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万博の空でARエアレースも!?社会実装が進む“都市を拡張する”PLATEAUの可能性

東大・豊田啓介特任教授に聞く、人間とAIエージェントが共生する未来都市の姿〔アクセンチュア編〕

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: アクセンチュア株式会社

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コモングラウンドとPLATEAUは相互補完的な役割を果たす

――ところで、豊田先生は「コモングラウンド」の研究に取り組まれています。そもそもコモングラウンドとはどんなもので、なぜ必要なのでしょうか。簡単に教えてください。

豊田氏:現実空間(フィジカル)と仮想空間(デジタル)、環境とエージェント(行為者)をリアルタイムにつなぐための「共通の空間情報基盤」、これがコモングラウンドです。

コモングラウンドは、現実空間/仮想空間、環境/エージェントをリアルタイムにつなぐ「共通の空間情報基盤」

 これからの社会では、“人間以外の行為者”が社会参加する機会が劇的に増えると考えられます。たとえばロボットやモビリティのようなフィジカルなもの、ARアバターのようなバーチャルなもの、ここには自律的なものもそうでないものも含まれますが、これらを総称して「ノンヒューマンエージェント(NHA)」と呼びます。

 ノンヒューマンエージェントを物理空間内で人間や物理的なモノと共存させ、協調動作を行うためには、現実の物理空間を仮想空間にコピーしたデジタルツインを作り、このデジタルツインを介して空間を認識する必要があります。このとき、相互に情報伝達を行ううえでは、共通の汎用的なデジタル空間技術基盤を持ったほうが効率が良いわけです。

――たしかに、エージェントごとにバラバラの形でデジタルツインを持っていても、全体としてはうまく動かないでしょうね。

豊田氏:これからは、都市や建築も「ノンヒューマンエージェントが動きやすい“拡張的なバリアフリー社会”」を目指して構築することになるでしょう。そのためにはコモングラウンドのような、皆が共通で使えるデジタル空間の基盤整備が必要になると考えたのです。

――それでは、コモングラウンドとPLATEAUはどのように関係するのでしょうか。

豊田氏:コモングラウンドとPLATEAUは相互補完的な役割を持ちます。まずは、さまざまな空間記述方式について整理させてください。

空間スケール/時間スケールの2軸で分類した、各種空間記述方式の違い

 一口に「空間記述方式」と言ってもいろいろなものがあります。このスライド(上図)では、横軸に「空間」のスケールを、縦軸に「時間」のスケールを割り当てて分類しています。また、グレーの地色を塗ってあるのが「人間が認知できる範囲」です。

 いわゆる地理空間情報、GIS系(図右上)の空間記述は「大きな空間、大きな時間を扱う」ためのものです。主には地形や都市空間の情報ですから、基本的には「静的」な記述であり、時間軸は持っていません。また、空間スケールとしてもキロメートルからメートル、細かくても10センチ単位までを「絶対位置」の記述で扱います。建築に使うBIMやCAD(中央上)も絶対記述系ですが、もっと細かなスケール、コンマミリ単位まで扱えます。ただし、時間のスケールは細かくても日、時間単位までですから、まだ静的な記述だと言えます。

 一方で、ゲームやXRコンテンツ、パーソナルモビリティなどで使われるゲームエンジン(中央)の空間記述は、人間が認知できる空間/時間スケールに合わせて「より小さな空間、小さな時間を扱う」ようにできています。センチ、ミリ単位の空間スケールと、“1秒間に何十フレーム”という非常に小さな時間単位で「動的」な空間情報が記述できます。

 ただし、細かな空間スケールまで絶対位置で記述するとデータ量が増えて、計算負荷と通信負荷が膨大なものになるので、ゲームエンジンでは「相対位置」で記述します。それに加えて、観測者の近くの位置情報は“解像度を高く”記述する、遠くは“解像度を低く”記述するといった工夫をすることでデータ量を減らし、計算資源や通信資源を無駄に使わないことを徹底しています。

――なるほど、大きく分けると「絶対記述/静的記述」と「相対記述/動的記述」の空間記述方式があって、用途に応じて最適な形が違うわけですね。

豊田氏:そういうことです。ただし、現実には絶対/相対、静的/動的は二項対立ではなく、シームレスなグラデーションになっていて、適材適所でうまく使い分けています。

 コモングラウンドでは、ゲームエンジンが持つノウハウをベースに、現状ではまだ社会実装されていない「相対記述/動的記述」を現実の都市空間に適用しようとしています。ノンヒューマンエージェントを含む多数のエージェントを同じ空間で動作させるには、このほうが効率が良く、不整合も起こりにくいのです。

 一方で、PLATEAUが採用しているCityGMLはGIS系、「絶対記述/静的記述」の空間記述方式です。したがって、PLATEAUのデータを適宜変換し、コモングラウンドに取り込んで使うかたちになります。コモングラウンドとPLATEAUで、相互補完的な役割分担をデザインしていくことになります。

AIやテクノロジーによって「都市」の可能性は大きく拡張される

――今のお話でも、AIで自律的に動くノンヒューマンエージェントが登場しました。これからの社会、都市を考えるうえで、AIの存在を無視することはできませんね。

増田氏:おっしゃるとおりです。アクセンチュアでは毎年、調査レポートとして「テクノロジービジョン」を発表していますが、最新版(2024年版)のテーマは「Human by Design - 人間性を組み込む」というものです。ここでは、テクノロジーに“人間らしさ”が組み込まれて、AIが人間のバディ(相棒)として活動するのと同時に、人間の可能性をテクノロジーが拡張することで「AIが新たな人間性をデザインする」未来も予測されています。

アクセンチュアの調査レポート「テクノロジービジョン2024」より

 PLATEAUに携わっている立場から見ると、この「人間」を「都市」に置き換えることもできるのではないかと思います。つまり「テクノロジーによって都市の能力、可能性が拡張される」未来ですね。それは、先ほど豊田先生がおっしゃったような“テクノロジーのために都市がデザインされる”動きとも並行して進むと考えられます。

――テクノロジーと都市がお互いを進化させていく、そんなイメージですね。先にご紹介いただいた、仮想空間からのフィードバックで現実空間を改善するPLATEAUの事例を考えると、そうした動きはすでに始まっているとも言えます。

豊田氏:AIに関して言えばもうひとつ、PLATEAUの大きな課題である「データの更新性」を解決する可能性があります。

 現在のPLATEAUは、測量会社が実際に測量したデータに基づいて作られる仕組みであり、大きな投資が必要です。たとえばこれが、3Dスキャンした点群データを読み込み、セグメンテーションやアノテーションを自動生成してCityGMLに変換してくれるようなAIモデルができれば、街中をスキャンして回るだけでよくなります。

――AIが大量の点群データを読み込んで、「ここに高さ○メートルのビルがある」とか「このへこんだ部分は窓だろう」とか判断して、どんどん3D都市モデルを自動生成してくれるわけですか。

豊田氏:そういうイメージです。バスなどの車両にスキャナーを搭載して常時スキャンを行い、街に変化があればAIがCityGMLを自動生成してPLATEAUのデータをアップデートする――。そんなシステムがいずれは実現できると思います。

――それができれば、PLATEAUにとっても大きな進歩ですよね。

増田氏:そうした3D都市モデルをスケーラブルかつ安価に構築、更新していく技術ができれば、PLATEAUもさらに発展するでしょうし、その技術の海外への輸出も期待できると思います。

――技術的には実現の見通しが立っているのでしょうか。

豊田氏:そうしたAIモデルを作るためには大量のBIMデータやCityGMLデータと、点群データのセットを教師データとして準備する必要があり、非常に手間がかかります。「技術的にはできるが、誰がそれをやるのか」が課題でしょう。企業単体では難しい取り組みなので、絶対に国の主導が必要になると考えています。

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