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遠藤諭のプログラミング+日記 第176回

HOVERAir X1 SmartとDJI Mini 2 SE ―― 入門に最適な2つのドローンで遊ぼう!

ドローンはSTEMというより学校の理科・社会、地域コミュニティで活用すべき

2025年01月28日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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 この10年ほどの間に我々の身の回りに浸透してきたテクノロジーの1つが、いわゆる「ドローン」(小型無人航空機・マルチコプター)だ。

 私が最初に飛ばしたドローンは、フランスPARROT社の「AR.Drone」で、林信行氏に誘われて北青山で行われた体験会で初操縦させてもらった。それが、2010年2月のこと。2013年1月、NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」のオープニング映像がドローンではないかと話題になった。同年12月に米アマゾンが無人機配達を発表。個人的には、2014年、DJI Phantom 2 Vision+を買って空撮に目覚めた。

 いまやドローンによる空撮が映像コンテンツの一形態としてすっかり定着している。花火のように夜空を飾るドローンショウも話題になっている。産業や防災での利用も静かにだが進んできている。残念なのは、戦場での利用のほうがニュースになっていることなのだが。

 私の場合、ここ2年半ほどDJI Mini 3以降はドローンに触っていなかった。そころが、ZERO ZERO ROBOTICSの「HOVERAir X1 Smart」の噂を聞いて、ひさしぶりにその実力を見たいと思ったのだった。加えて、入門に最適のDJIの廉価版モデル「DJI Mini 2 SE」も触ってみることにした。

HOVERAir X1 Smart ―― カメラロボットを目指す明確な方向性がよい

 ZERO ZERO ROBOTICSの「HOVERAir X1 Smart」は、2024年の春に発売されたモデルなので、すでにレビュー記事やYouTubeでの解説ビデオをご覧になっている方も少なくないと思う。「自撮りドローン」と呼ぶべき種類の製品で、何年かごとに登場する種類のものだが「今度はニーズをほぼ完全に満たしている!」という評判が、そのスジから伝わってきていた。

 実際に飛ばしてみても感じるのだが、「HOVERAir X1 Smart」は、ドローンというよりも「カメラ」と言ってもあながち大げさではない製品である。ドローンでは絶対に必要だった「操縦」というものが不要(限定的に操作して飛ばすこともできる)。いわゆるプロポ(送信機)やスマートフォンを使わず、カバンから取り出して本当に15秒(実測)で飛ばせるところが凄い。

‎14.2×11.1×2.7cm、99gのプラスチックのゲージといった感じのHOVERAir X1 Smartの本体。ジンバルと電子式手ブレ補正(EIS)を併用することでブレのない映像がとれる。

 基本的な飛ばし方は、本体の電源を入れて5つの「飛行モード」から1つを選んだら自分の顔の前に本体前面のカメラを向けて、再度電源ボタンを押すだけである。あとは、HOVERAir X1 Smartが、次のようなモードで勝手に飛んで動画撮影で撮ってくれる。2.7k/30fps、1080p@60fps、1080P HDRに対応。

・ホバリング(その場で浮上して撮影)
・オービット(円を描て回転しながら撮影)
・俯瞰(後方に上昇しながら撮影)
・ズームアウト(離れて行って戻ってくる)
・フォロー(自動追尾する)

 これらは、いまどきのドローンなら当たり前のフィーチャーだが、本体重量が99グラムということで比較的気軽にやってみる気分になる。これは、航空法の規制範囲外というのもあるが、たとえば、森永バニラモナカジャンボが110gだそうだ。HOVERAir X1 Smartは、そのアイスモナカくらいの質量のものを掴んで裏返すと緊急停止するようになっている。なにかに触れればすぐに墜落するのでモノを壊すことも想定しにくい。

 5つのモードのほかに「高度な機能」がいくつか用意されている。たとえば「フロントフォロー」は人間が歩いている前方から後ずさりしながら撮影してくれる。これは、ぜひ欲しいと思っていたモードだが、うまく撮影するにはちょっとしたコツと条件があるようだ。

 これがカメラドローンの神髄かもしれないと思えるのが「ストップモーション」という機能である。ちょっと大げさな名前にも見えるが、一定間隔でHOVERAir X1 Smartが、こちらを捉えて静止画撮影してくる(本体のLEDの点滅を目安にポーズをとる)。自動追尾しながら次々に撮影してくるので、これぞカメラマンロボットという感じになる。

 この動画の中でシャッター音の部分で静止画が保存されている。いままで自撮りといえばスマホのインカメラだった。しかし、こんなふうにカメラから離れて自撮りするには三脚が必要だった。ところが、本当に気軽にこんな感じのスナップ撮影ができる。

ストップモーション機能で撮影された写真。

 そして、これは正直驚いたのだが、スマホアプリの「Hover X1」を立ち上げて本体と接続しておくとその場の音声を録音して映像にのせてくれる機能がある。次の動画のようにその場では相応にビーンと音がしているわけだが、それが消された状態で記録される。みんなでワイワイやりながら撮ってもドローンの音は一切無視してよくなるわけだ。

 価格は、実売でオプションなしで6万円をわずかに割る程度なので安いとは言い切れない。また、飛行時間は10分なので短めに感じるかもしれない。しかし、たくさん撮りたい場合は予備バッテリはいるかもしれないが、なしでも困ることは少ないように思われる。バッテリ容量も690mAhと小さいので充電時間も短いからだ。

 ところで、発売元のZERO ZERO ROBOTICSといえば、「V-COPTR」というプロペラが2つしかないドローンでも知られている。プロペラが2つだとだんだん生物に近いシルエットになってくる。未来のドローンは、生物のような翼を持って風切り音のうるさいプロペラを過去のものにする可能性があると思う(生成AIがそれを可能にするだろう)。HOVERAir X1 Smartの子孫は、そんなドローンになると楽しそうだ。

ZERO ZERO ROBOTICSといえば、「V-COPTR」

DJI Mini 2SE ―― ベーシックな入門機だが実用性もこれでバッチリ

 「DJI Mini 2 SE」は、2023年4月の発売なので、こちらもレビュー記事や実際に飛ばしているYouTube動画などはたくさん見ることができる。「SE」という名前のとおり「DJI Mini 2」のお得な廉価版である。その特徴とお勧めする理由をまとめると、次の3つといえる。

・超定番のDJIの製品である
・こなれた製品ラインのモデルで31分間飛行できる
・このクラスで実売3~4万円台のお手頃価格

 DJIは、10年以上に渡ってドローンの世界をけん引してきた企業である。ドローンといったらDJIなのだ。先行していた米国のDraganflyer、フランスのPARROT、クリス・アンダーソン率いる3D Robotics、インテルが出資して話題となった中国のYuneec、MultiWiiやDrone Codeなどの取り組みもしり目に業界のトップに君臨してきた。

 だから、ドローンの設定やアプリの使い勝手、とくにMiniシリーズに関しては《枯れ切った安定感》というものが感じられる。このデザインでは問題点はすべて出尽くして改良の余地がないレベルに仕上がっていると思われる。それでいて、飛行時間も、ベースとなった「Mini 2」の18分から31分と伸びていて一般の人が楽しむには必要十分なドローンになっている。

 同社は、個人が使うようなモデルだけでも、「Neo」、「Mini」、「Air」、「Avata」、「Mavic」、「Flip」と幅広いラインナップを揃えている(Flipは2025年1月発売)。この中では、Neoが、送信機不要で手のひら離陸のできるエントリーモデルといえるが、上位モデルへのステップアップや上位モデルとの併用を考えるとMiniをお勧めしたい。

DJI Mini 2 SE(手前)と私が以前飛ばしていたDJI MAVIC Mini(左)。ほとんど見分けがつかない。

このシリーズ特有の絶妙な折りたたみ機構で本体はとてもコンパクトにして持ち歩ける。白いのはDJI Phantom 4のバッテリだ。ほぼ同機能のドローンが、かつてのバッテリくらいの大きさになったわけだ。

 DJI Miniには、「Mini 2 SE」のほか、「Mini 3」、「Mini 3 Pro」、「Mini 4 Pro」とある。価格的には「Mini 2 SE」が、実売で4万円台強(タイムセールなどでは数千円引きになることも)に対して、「Mini 3」などは1万円高いといったところである。なので、予算によってはこちらを選ぶのもありだ(4 Pro、4 Proもだが)。

 Mini 2 SEの上位モデルとの大きな違いは4k以上の撮影ができず、2.7k映像であることだ。しかし、よほど高品位な映像コンテンツの制作をめざすのでなければ、2.7kで十分なことがほとんではないだろうか。上位モデルには、障害物回避やカメラのズームなどがあるが、これもあればよいがなくても困らないことが多い。

 DJI Mini 2 SEは、基本的にコントローラ(送信機)を自分で操作して自由に飛ばす使い方が中心である。DJIのコントローラが、これまたこなれ切っていてきわめて使いやすい。DJI Mini 2 SEのものは、スマートフォンを上部にセットしてケーブルを繋ぐようになっている。接続で困ることはまずない。

DJI Mini 2 SEのコントローラ。左右のレバーを手前内側に倒すと発信する動作はDJI Phantomの時代から変わらない。レバーは、取り外してコントローラの本体下に収納可能。

 自由に飛ばすほかに、HOVERAir X1 smartと同じく自動撮影機能も備えている。クイックショットとして、「ドローニー」(ズームアウト)、「ロケット」(俯瞰)、「サークル」(被写体を旋回して撮影)、「ヘリックス」(スパイラルに上昇して撮影)、「ブーメラン」(楕円を描いて撮影)が用意されている。

 当然のことだが、HOVERAir X1 smartが、被写体から遠ざかるズームで最大9メートルまでだったのが、Mini 2 SEでは、よりスケールの大きな撮影ができる。基本的に屋外でのフライト向けのモデルだが、重量200g台の小型ドローンなので室内でもいい感じで撮影ができる(次の動画)。

 屋外での空撮に関しては、私がDJIのドローンで撮影したもののほうが、その魅力と醍醐味が分かると思うのでそちらをお見せすることにする。次の映像は、2014年、グッドスマイルレーシング主催の自転車レースのようすだ。DJI Phantom 2 Vision+での撮影だが、実に、楽しい撮影だったのを覚えている(レースについてはコチラ参照)。

 次の映像は、香港は油塘で撮影したもので『Mr.BOO!』のテーマ曲が聞こえてきそうな風景といえないだろうか? こちらは、DJI Miniより一回り大きいDJI Sparkで撮影したものだが、スペック的にもDJI Mini 2 SEで、これと同等以上の映像が撮れるはずである。

 DJI のドローンといえば、最新モデルの「Flip」が気になるという人もいるだろう。プロペラが完全にガードされていることに加えて、前方のみではあるが障害物と衝突しないようになっている。プロペラ部分がパタンとたためるところも興味深い。今後、このデザインがDJIのドローンの主流になっていく可能性も考えられる。

ドローンは、自分たちの生活・社会の空間の中で生かすのがよい

 ドローンに関する話題やニュースはよく見かけるが、際に飛ばしている人たちは「もっとこんなことができるのに」と考える人が多いと思う。

 そうした中では、ドローンの利用事例として「おっ」と思ったのが、千葉県東庄町で中学生の登下校の巡視に活用するという実証実験である。あくまで《見守り》が目的というわけだが、学校や地域コミュニティの領域でのドローン利用は、可能性があると以前から感じていた。

 ドローンの楽しさや魅力は、たとえば小中学生の全員が体験してみてもいいと思う。学校でのドローンの活用の事例はあるようなのだが、少なくともドローンメーカーはそうしたことを前面に打ち出してはいない。学校の教材・備品としてドローンがどんどん導入されて、授業で使われているという話はあるのだろうか?

 そのときに、ドローンが最新のテクノロジーだからとかデジタル制御が凄いといった角度からの《STEM教育》の領域よりも、ふだんの授業とか地域に関することで活用すべきだと思う。やれること、やり方は、いくらでもある。

・危険な場所に立ち入ることなく自然観察
・空撮による植生や地形の観察
・地域の歴史スポットの空撮+フォトグラメトリ
・清掃活動をドローンで支援
・防災のアイデア
・環境保全活動の記録

 ドローンは、「航空法」と「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」による規制がある。自治体の条例、公園などで使用禁止がされていたりもする。これらを、もちろん順守した上でプライバシー侵害や器物損壊も避けるのも当然のことである。

 これらをクリアした上での話となるが、学校や地域コミュティの人たちが自分でやることに意味がある。ばんばん飛んでたら気持ち悪いというのなら飛行計画の情報共有もいまなら容易だろう。そうした、関係して生ずること自体も学びになると考えられる。

 2010年に、AR.Droneはただ安定してホバリングするだけでも苦労した。池澤あやかさんは、川に墜落させてしまったそうだ。私は、仲間と新潟のスキー場までドローン合宿に行ったのにセッティングに失敗して2機持っていった1つを飛ばせなかった。八谷和彦さんは、Phantomを使いはじめてすぐプロペラが指に当たったとき「怖くない怖くない」と言い聞かせたそうだ(さすがメーヴェを飛ばしている)。

 ドローンは、いまはずいぶん簡単に使えるようになったし安全になっている。

 
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遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザー。ZEN大学 客員教授。ZEN大学 コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。


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