先日、記事化したさくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏の講演は、同社を知らない聴衆に対して、改めて田中氏の経営ポリシーや会社の立ち位置を紹介していたのが印象的だった(関連記事:最近話題のさくらインターネット 成長と余白で変化に対応してきた28年の知見)。
ビジネス誌に「さくらインター」と書かれて話題になった同社だが、インフラ領域を扱っていたこともあり、多くのビジネスパーソンにとっては正直なじみのない会社だった。しかし、ガバメントクラウドや生成AIにおけるGPUクラウドへの投資で、この1年で急速に存在感を増している。田中氏も自ら「以前に比べて、知ってるよと言われることも増えました」と講演の冒頭で語っていたが、まさに認知度の向上を実感してのコメントだろう。
この1年の同社の動きは、外資系サービスへの依存により、デジタルの分野で赤字を垂れ流している現在の日本への強い危機感が見て取れる。10月に発表されたエクイニクス・ジャパンとの提携は、初のアジア進出を前提としている。また、クラウドインテグレーターFIXERやNEC、ヤマハなど国産事業者との連携はオール国産でのサービス提供を目論んでの施策であろう。生成AIプラットフォームやネットワークを、さくらインターネットのインフラ上で提供することで、「国産製品のベストプラクティス」を実現しようという意図を強く感じる。
もちろん、GPUクラウドを中心とした自社サービスの開発も加速。生成AIのRAG開発に必要不可欠なベクターDBまで提供するとは思わなかった。「デジタル赤字解消」を旗印に掲げ、国内クラウド市場の「台風の目」となってきたさくらインターネットの動向には今後も目が離せない。
文:大谷イビサ
ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。