歴史的建造物と高層ビルが融合! 都市開発マニアが案内する「丸の内建築ツアー」 第13回

首都高の大手町付近に出現するあのロケットみたいなものは何?かつて日本の通信網の中枢を担ったビル

文●きりぼうくん

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 高層ビルや歴史的建造物など、丸の内の建築群を現場のレポートを交えながら紹介する連載「丸の内建築ツアー」。今回は、大手町の北端に建つロケットのような鉄塔を載せた「NTTコミュニケーションズ大手町ビル本館・別館」を紹介します。

NTTコミュニケーションズ大手町ビル本館の建設と経緯

 戦後の高度経済成長期が始まる直前に、電信電話業務の拡大や電気・通信事業の効率化などを目的に、元々、逓信省であった電気通信省から、1952年に日本電信電話公社(電電公社)が誕生します。そして高度経済成長期に突入し、急速な経済成長を支える電話の需要急増や電気通信技術の進歩から、大都市を中心に大規模な通信局舎の需要も増大していました。1961年4月に先行して建設が進められていた局舎本体が地上7階、地下3階、塔屋3階、高さ42.75mという規模で竣工します。竣工時は電電公社であったため、ビルの名称は「大手町電電ビルディング」で、電報や電話、電信、電話中継所、無線電信調整などの機能・用途が入っていました。

 なお、国土地理院地図の1963年6月26日撮影の航空写真で確認してみると、現在、鉄塔が建っているビル東側部分はまだ建設中であったことが確認でき、綺麗なL字の平面形状で竣工しています。次の1966年6月29日撮影の航空写真では、ビル東側部分が長めになり、北東側の外壁が斜めになった現在と同様の形状になっていることから、大手町電電ビルディングの東側は、1963年~1966年の間に後からすぐに増築されたものであるようです。

北西側から見たNTTコミュニケーションズ大手町ビル本館

南西側から見たNTTコミュニケーションズ大手町ビル本館。大通りから見える範囲のみ、白いパネルの外装材が取り付けられている

南東側から見たNTTコミュニケーションズ大手町ビル本館。裏側はこのようなベージュ色に塗装された外壁となっている

北東側から見たNTTコミュニケーションズ大手町ビル本館

NTTコミュニケーションズ大手町ビル本館の中低層階は、窓が非常に少ない外観となっており、換気口と思われるルーバー状の開口がある

東京メトロ「大手町」駅のA2出入口がビル内に設けられている

地下通路の出入口付近の壁は、スリットが設けられたものとなっていた

室外機やダクト、配線が大量に並んでおり、今でも通信設備のための施設であることが外から見てもわかる

青色に塗られた耐震補強のブレースが目立つ

電電公社時代の遺構を探していたが、さすがに見つからなかった・・・

NTTコミュニケーションズ大手町ビル別館の建設と経緯

 本館全体が完成した後、別館の建設が始まります。敷地が狭く、更に都心の地価も高騰していたことや、1963年の建築基準法改正により百尺規制をはじめとした高さ制限が廃止されていたことから、電話局として初めて純鉄骨造の高層建築として建設されることになりました。

 1969年4月に地上11階、地下4階、塔屋1階、高さ64.17m、軒高56.95m、延床面積41,210㎡という規模で竣工。竣工時のビル名称は「大手町電電ビルディング別館」でした。塔屋を含めた高さは60m超えとなっており、実は超高層建築物です。

 建物形状は、長方形の平面形状、建物両側に階段室やエレベーター、水回りなどのコアを配置した両サイドコア、外装にはプレス成型による大型パネルを設置したアルミカーテンウォールを採用した、プレハブ化と経済合理性を重視したシンプルなものとなりました。内部は、事務所のほか通信機械室として使われていることもあり、窓は少なく、茶色の外壁で覆われた要塞のようにも見えます。

NTTコミュニケーションズ大手町ビル別館は、高さ64.17mと高さ60m超の超高層建築物だが、超高層ビルの多い大手町では目立たない存在で、本館と大手町プレイスに囲まれていることから、奥へ入らないとこのビルの存在を認識することはほぼ不可能となっている

外装には、プレス成型による大型パネルを設置したアルミカーテンウォールを採用しているが、かなりくすんでいるように見える

北東側から見たNTTコミュニケーションズ大手町ビル別館。窓がほとんどない

南東側から見たNTTコミュニケーションズ大手町ビル別館。ビルに囲まれているため、日光がほとんど差し込まず、一日を通して日陰であることが多い

南西側から見たNTTコミュニケーションズ大手町ビル別館

別館に隣接して本館が建っている

別館の1階はピロティとなっており、八角形の柱やX字のブレースが特徴的

壁面には社名が記載されていた。今でもオフィスとして利用されているようだ

今にも発射しそうなロケットのような見た目の鉄塔

 首都高を走っていると大手町付近で目に飛び込んでくる、赤白に塗り分けられた、まるで「ロケット」のような鉄塔が目立つビルがNTTコミュニケーションズ大手町ビルです。

 この鉄塔の高さは140mとなっており、ビル屋上に約100mの高さの塔が載っかっていることになります。鉄塔の直径は約4m、下部で脚が4本追加されており、先端が尖った形状が特徴となっています。

 電信電話など、通信ネットワーク内でデータを正確かつ安定して伝送するためには、「網同期」というものが必要になりますが、この網同期には、独立同期、従属同期、相互同期の3つの方式があります。日本では、主局の高精度な発振器に従局を同期させる「従属同期方式」を採用しており、効率的かつ高精度な同期が可能という特徴があり、その中枢を担う設備がNTTコミュニケーションズ大手町ビルにはあります。具体的には、ビル内に設置された原子発振器により作成されたクロック(信号、周波数)を全国の従局へ配信し、網同期をとっているとのことで、その通信のために鉄塔が設置されたのかもしれません。

まるでロケットのような見た目をした鉄塔

大手町の北側、神田方面から来ると鉄塔の姿が目に入る

鉄塔を拡大してみると、錆が目立っていたり、脚が4本あったりする様子がわかる

NTTコミュニケーションズの本社移転と今後・・・

 このNTTコミュニケーションズ大手町ビルには、元々、NTTコミュニケーションズの本社が入っていましたが、すぐ南側に竣工した「大手町プレイス ウエストタワー」に2019年1月4日より移転しています。移転したのが2019年でその後すぐにコロナ禍に入ってしまったこともあり、再開発計画はまだ発表されていません。しかし竣工から約60年が経過していることもあり、まもなく建て替えや再開発の話が出てきてもおかしくありません。大手町の赤白に塗り分けられたロケットのような鉄塔が見られるのもあと少しかもしれませんね。

大手町プレイス ウエストタワーの北側広場から、NTTコミュニケーションズ大手町ビル別館出入口にアクセスできるようになっている

NTTコミュニケーションズの本社はすぐ隣に建つ「大手町プレイス ウエストタワー」に移転している。大手町北端の今後の動向が気になるところだ

 以上で今回の建築ツアーは終了。電電公社時代の遺構が見つからなかったのは残念ですが、ロケットのような鉄塔やビルの壁の様子から通信を手掛ける会社のビルらしさが伝わってきました。みなさんもぜひ近くで見てみてください。

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