世界のAIスパコンを支えるSupermicroの国内事業戦略
AIサーバーで好調なSupermicro、“水冷化”進む日本市場にトータルラックソリューション
2024年12月16日 07時30分更新
Super Micro Computer(Supermicro)の日本法人であるスーパーマイクロは、2024年12月10日、国内事業戦略について説明した。同社はNVIDIAとの緊密な連携と近年のAIブームを背景に、GPUサーバーで市場をリードしている。
スーパーマイクロのFAE&ビジネスデベロップメント ゼネラルマネージャーである佐野晶氏は、直近の注力領域および日本市場での反応について、「独自の『ビルディングブロックソリューション』や『ラックスケールソリューション』で、最新のテクノロジーをいち早く市場に投入している。生成AIなどに最適化して、さらに効率的な環境で利用できることが評価され、国内の大学や研究所で採用されている」と語る。
最新テクノロジーに適合する「ビルディングブロックソリューション」と水冷で必須の「ラックスケールソリューション」が武器に
佐野氏が挙げた「ビルディングブロックソリューション」とは、レゴのようにブロックを積み上げてシステム化する独自の手法だ。マザーボードやアクセラレータ、ストレージ、ネットワーク、電源、冷却方式、セキュリティ管理ソリューションなどを“パーツ”として開発し、それらを社内でインテグレーションして、サーバーに仕立てあげるのが特徴だ。「テクノロジーの変化が激しい中で、最適な組み合わせによる提案ができる」と佐野氏。
また、近年のSupermicroが力を入れるのが「ラックスケールソリューション」だ。すべてのパーツをラックに組み込んだ形で出荷して、ネットワークと電源を接続するだけでオンサイトで展開できる。「かつてはSIerでパーツを組み込むことが多かったが、GPUの発熱量が高くなることで、ラック全体をトータルソリューションとして提案することが求められている」と佐野氏。「特に、水冷ソリューションではラックソリューションが必須となる。すでに月間2000台以上の液冷型DLC(Direct to Chip)ラックを出荷できる体制を敷いており、環境にやさしいグリーンコンピューティングも促進できる」と付け加えた。
同社では、ラックスケールソリューションを軸としたワンストップトータルITソリューションも推進中であり、年内には、国内市場向けにクーリングタワーの出荷も開始して、一気通貫での提供が可能になる。
Supermicroのラックソリューションのひとつである「B200水冷ラックソリューション」は、NVIDIAのBlackwellプラットフォームに最適化されており、2025年に出荷を開始予定だ。また、Blackwell GPUを搭載したAIデータセンター向け液冷ソリューションの「GB200 NVL72」は、72個のHBM3eメモリの巨大なプールを備えたひとつのGPUとして動作すると共に、ここにSupermicroの最新のインラック冷却液分配ユニット(CDU)や、カスタムコールドプレートを搭載する。すでに米国では特定ユーザー向けに提供開始しており、エクササイズスケールのコンピューティングを実現するという。
佐野氏は、「CDCやコールドプレートは自社で開発することで、ラインアップの拡充や最新技術への迅速な対応が可能になる。発熱量の多いシステムを効率的に冷却することができる」と述べ、「日本ではコンテナを活用して、水冷サーバーを導入するケースが出ている。今後、新たなデータセンターでは、水冷化が進むことになるだろう」と指摘した。
さらに、管理ソフトウェアの「Super Cloud Composer」や、24時間365日のセキュリティとサポートを提供する「ビジネスオートメーション」も用意する。“どこでもグリーンコンピューティング”を推進する「Super Micro 4.0」戦略にも、今後フォーカスしていく予定だ。
SupermicroのGPUサーバーを活用した国内外の事例についても披露された。
まずは、イーロン・マスク氏率いるxAIが構築した、5万GPUを有するAIスーパーコンピューター「Colossus」だ。8つのNVIDIA H100 GPUを搭載する水冷サーバーを1ラックあたり8台並べ、これを約1000ラックで稼働するという、まさに世界最大のAIスーパーコンピューターになる。
東京大学と筑波大学による最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)が、2025年春から運用開始するスーパーコンピューター「Miyabi」でも、Supermicroのテクノロジーが活用されている。NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip搭載の水冷サーバーを構築して、1120ノードをInfinibandで接続。日本のアカデミア界では「富岳」に次ぐ性能を誇るという。
グリーンコンピューティングの事例としては、米インテルがCPUの開発向けに50万台以上の空冷サーバーを導入。データセンターのPUEは1.06を達成しているという。また、日本のPreferred Networksは、深層学習用スーパーコンピューター「MN-3」に同社の技術を採用、消費電力性能のランキングであるGreen500のトップを3度獲得した実績を持つ。
Super Micro Computerのセールス・バイス・プレジデント兼日本法人カントリーマネージャーであるジェームス・シェー(James Hsieh)氏は、「日本は米国に比べると、AIデータセンターの整備が1年半ほど遅れているが、日本のクラウドプロバイダーもGPUを活用したサービスを提供しはじめている」と展望を語った。
国内ではサーバーの売上高および出荷台数でメーカーシェアトップ、代理店を通じた販売が中心
Supermicroの2024年度(2023年7月~2024年6月)の売上高は149億ドルとなり、2023年度の71億ドルから倍増。2025年度は、260億ドルから300億ドルの売上高を目指している。ここ数年はGPUサーバーで急成長を遂げており、GPU/アクセラレーティング・コンピューティング領域では前年比500%の成長率を達成している。
各種サーバーの開発、生産、販売のほか、ネットワークスイッチやストレージソリューションも提供しており、米国、オランダ、そして日本市場に供給する台湾にも生産拠点を持つ。年間で500億ドル規模の生産キャパシティを整備しており、年間のサーバー出荷台数は130万台以上。将来的には、日本にもラックソリューションの生産拠点を設ける意向があるという。
IDC Japanによると、日本国内の2024年第1四半期および第2四半期のサーバー市場において、サーバーベンダーとして、売上高および出荷台数で首位を獲得。出荷台数では20.4%のシェアを持つ。日本では代理店を通じた販売が中心となる。
なお、2024年6月に発表された、Supermicroおよびシャープ、KDDI、データセクションの4社による、アジア最大規模のAIデータセンター構築に関する協議は終了しており、2024年12月9日にシャープとKDDIの2社による基本合意が締結されている。「枠組みが変わることになる。協力は継続しつつ、ソリューションも提供するが、詳細は伝えられない」と佐野氏。Supermicroとデータセクションは、AIデータセンターの構築、運用に向けて、引き続き連携していくとしている。