街の課題解決に3D都市モデルをどう使う?! 3Dナビ、子ども取材マップによる街の活性化、模型地図など活用アイデアいろいろ
「PLATEAUの3D都市モデルを知って・触って・体験するイベント『PLATEAUアイデアソン inさいたま』」レポート
提供: PLATEAU/国土交通省
この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。
2024年10月5日、シビックテックさいたまが主催する「PLATEAUの3D都市モデルを知って・触って・体験するイベント PLATEAUアイデアソン inさいたま」が、さいたま市大宮区のエムズスクエアで開催された。さいたま市や首都圏だけでなく、静岡県や愛知県からも高校生から60代まで幅広い参加者18名が集まり、3D都市モデルの活用アイデアを出し合った。
社会課題を解決するPLATEAUの活用アイデアを創出し、社会実装へ
イベントの冒頭では、国土交通省の春名慧氏がPLATEAUの概要を説明した。
PLATEAUは、都市のデジタルツインデータ「3D都市モデル」の整備・活用・オープンデータ化プロジェクトだ。Project PLATEAUでは、1)データ整備の効率化‧高度化、2)ユースケースのベストプラクティス開発、3)オープンイノベーションの創出、4)地域の社会実装――の4つをテーマに取り組みを進めている。
PLATEAUは、高品質かつ構造化された地理データがオープンソースとして公開されているのが特徴だ。データは、「3D都市モデル標準製品仕様書」に基づいて整備されており、品質が管理されている。3D都市モデルは、建物などの3Dデータだけでなく、用途や築年数などのセマンティクス(属性情報)も記載されており、現実社会のデータと組み合わせることでシミュレーションに利用しやすい。
現在、3D都市モデルは全国約200都市で整備されており、2024年末には約250都市に拡大する予定。整備済みのデータはすべて公開されており、G空間情報センターから誰でもダウンロード可能だ。
PLATEAU VIEWを触って3D都市モデルを体験
アイデアソンを開始する前には、Webアプリケーション「PLATEAU VIEW」を使った3D都市モデルの体験が行われた。
株式会社Eukaryaの荻原優希氏が講師となり、参加者は「PLATEAU VIEW」の基本機能を実際に使用し、3D都市モデルの建築物モデルと災害リスクモデルを重畳するなどして、PLATEAUを使ってどんなことができるのか、イメージを膨らませた。
その後、チームビルディングが行われ、参加者たちは「防災」、「教育・学校」、「ゲーム・レクリエーション」、「まちづくり」、「アーカイブ・歴史」、「自由テーマ」からテーマを選び、6チームに分かれてアイデアを出し合った。以降、各チームのアイデア発表の様子を紹介する。
巨大ターミナルの“ダンジョン”を3Dでナビゲート
まちづくりをテーマにした一組目は、「移動する人に優しいまちづくり」をコンセプトに、3D都市モデルを活用したナビゲーションシステムのアイデアを発表した。首都圏の巨大ターミナルは複数の路線が乗り入れているため構内が複雑なうえ、工事によって通路が変わることもあり、まるで “ダンジョン”のようで迷いやすい。例えばPLATEAUのデータには東京駅周辺の地下構内の情報があるので、これをもとに期間限定の催事や通行止め情報を付加した3Dナビゲーションがあれば便利だとした。機能としては、スマホを使って自分の位置や方向を3Dマップ上で確認したり、どんなお店があるのを表示したりといったものを考えたという。
高低差をリアルに感じられる3D模型地図
自由テーマを選んだチームは、PLATEAUを使ったリアル3D模型地図を提案した。PLATEAUのデータを3Dプリンターで出力して模型地図を作成し、鉄道模型を走らせた交通シミュレーション、目の不自由な人向けの触地図(しょくちず)、水を流すなどして天候・災害シミュレーションに活用するというものだ。また、高さ10メートルごとに切り分けた地図を印刷して段ボールに張り付けて、高さがわかる山積地図を作るアイデアも紹介。「高低差がわかる」という特徴を生かして、自転車で移動する際に坂道を避けるルートを探すといった使い方もできそうだと話した。
3D都市モデルを使ったまちづくりの合意形成支援ツール
まちづくりをテーマにしたもう一組は、「街づくりの合意形成を支援するツール」として、3D都市モデルを都市計画に生かすアイデアを提案した。さいたま市は中央区、浦和区、大宮区など複数の行政区に分かれ、商業地や工業地といった用途地域が飛び地になって入り組んでいるという。こうした複雑な状態であっても、PLATEAUを使って都市計画図を3Dで可視化すれば、市民も「自分たちが住む場所が都市計画上ではどう設定されているのかを捉えやすくなる」とした。さらに、監視カメラ等から得られる人流データとAIによるシミュレーションとを組み合わせれば都市開発の効果検証にも活用できそうだと発表。ツールを実現して住民説明会などで使用すれば、市民への情報共有や意思決定に大いに役立つだろう。
子どもたちの学びを地域の魅力発見と活性化につなげる
教育をテーマに選んだチームは、子どもの学びと地域の賑わい創出をねらった「街の魅力発見フィールドワーク」というアイデアを披露。子どもたちが社会科見学などの機会に地域の商店街のお店や工場で働く人にインタビューし、手書きの発表内容を3Dマップに登録していく。インタビューを受けた施設は、マップ上で建物を色づけしてカラフルに表示していくというものだ。子どもたちの学びや取り組みを学校内にとどめずに、街のデータと結びつけて地域マップとして公開することで、大人にとっても地元の魅力を発見するきっかけになり、地域の活性化につながるだろうと説明した。
岩槻の将来の街並みを自分でつくるまちづくりゲーム
ゲームをテーマに選んだ一組目のチームは複数のアイデアを披露。1つ目は「岩槻まちづくり」。さいたま市岩槻区は地下鉄延伸が検討されるなど、街が大きく変わろうとしている。そこで3D都市モデルと「マインクラフト」を用いて、岩槻の将来の街並みを自分でつくるゲームだ。2つ目は、実際の街を舞台にしたメタバースゲーム。3D都市モデルで作った街の中を自由に移動してバーチャル観光を行うというもの。3つ目は、現実空間と仮想空間の街を融合させたXRゲーム。ある場所を訪れると現実世界ではポイントがもらえ、同時にゲーム内ではアイテムがもらえる仕組みなどを考えた。また、現在の街に過去の街並みを重ねれば、ゲームとしてだけでなく、観光や街の歴史を学ぶことにも使えるだろうとした。発表ではさらにいくつかの案も紹介した。
子どもたちが仮想空間の街で自由に遊び回れるように
もう一組のゲームチームは、3D都市モデルの街を歩き、その街を知ることができるオープンワールドゲーム「PLATEAUウォーカー」というアイデアを発表。建物や道路、観光スポットや道路混雑状況、バスの運行情報などのデータを組み合わせ、3D都市モデルを活用して実際の街のデジタルツインを構築。プレーヤーは観光客やバスの運転手となりミッションを進める。アバターとして犬や猫などのキャラクターを選択すると、普段とは違う低い視点から見た景色も楽しめるものにできたら、とした。いまや現実の街中では、安全上の問題から子どもが街中を自由に走り回って遊ぶことは難しくなっている。そこで、デジタルツインの仮想空間で鬼ごっこやレースなどを楽しめれば、子どもたちが自分の街にさらに愛着が持てるようになるだろう、と語った。
発表後の講評で、株式会社Eukarya 荻原氏は、「『Plateau ウォーカー』のキャラクターによって視点の高さが変わる、見える風景が変わるというのはPLATEAUの特徴をうまく使ったアイデア。高さや位置が変わるとどう見えるのかという体験がシームレスにできるようになるとおもしろい。普段からPLATEAUを扱っているが、今回みなさんの発表を聞き、新しい視点に気づかされるきっかけにもなりました。
また、今回はさいたま市の近隣の方々だけでなく、県外から参加してくれた方もいて、みなさん一緒になってアイデアを考え出していただきました。PLATEAUをきっかけに人が集まって盛り上がり、これを縁として、今後もつながりを広げていっていただけたらと思います」とコメントした。
春名氏は、「短い時間でしたが、質の高いアイデアが出てとてもおもしろかった。バーチャルなゲーム、模型地図を作り触感で高低差を体験するなど、いろいろな視点のアイデアがあり、とても参考になりました。たくさんのアイデアを吸収してPLATEAUを進化させていきたいと考えています。これからもご注目ください」と語った。