最新パーツ性能チェック 第453回
性能も上がったが消費電力も増えた「Ryzen 7 9800X3D」最速レビュー、AI推論の処理速度は7800X3Dの約2倍!
2024年11月06日 23時00分更新
2024年11月7日(北米基準)、AMDは第2世代3D V-Cacheを搭載したゲーミング向けCPU「Ryzen 7 9800X3D」の発売をグローバル市場で解禁する。ただし日本における販売解禁は物流などの制約から約1週間遅れの11月15日午前11時である。
国内税込み予想価格は8万6800円(北米予想価格は479ドル)となり、昨今の厳しい為替事情を反映した価格設定となった。ただ2週間ほど前に解禁となったCore Ultra 200Sシリーズに比べるとマイルドなドル円レートで計算されているようだ。
Zen 5アーキテクチャーを採用したRyzen 9000シリーズは8月に発売されたが、前世代であるRyzen 7000シリーズに比べセールスに苦労しているという業界筋の観測も聞こえてくる。これは発売当初のRyzen 9000シリーズの性能がさまざまな要因――Ryzen 5/ 7におけるTDPを絞った仕様や、分岐予測改善のコードの実装具合、AGESA 1.2.0.2以前のBIOSにおけるコア間レイテンシーの問題などが挙げられる――でRyzen 7000シリーズに対し圧倒的差をつけられなかった可能性もあるが、筆者としては「後から3D V-Cache搭載版Ryzen 9000シリーズ」が出てくるとわかっているので、皆じっと待っていたと推測している。
事実Ryzen 9000シリーズのレビューにおいても、Ryzen 7 9700XやRyzen 9 9950Xのゲーミング性能はRyzen 7 7800X3Dに勝てるものではなかった(無論例外もあるが)。
Ryzen 7 9800Xのパッケージ(レンダリング画像)。寸法や意匠はRyzen 7 9700Xのものと共通だが、中央部分がシルバーになっていること、左上に「AMD 3D-V Cache Technology」と銘打たれている
そんな中出てきたのが今回発売されるRyzen 7 9800X3Dである。Ryzen 7 7800X3Dと同じSocket AM5、物理8コアという非常に近い構成を備えているが、Zen 5アーキテクチャーと第2世代3D V-Cacheを採用している。物理12コア・16コアを採用した上位モデルは未発表だが、Ryzen 9 7950X3Dや9950Xなどの挙動を見た限りでは、どんなゲームでも確実に3D V-Cacheの効果が享受できるCPUはこのRyzen 7 9800X3Dであると筆者は確信している。
筆者はRyzen 7 9800X3Dをレビューできる幸運に恵まれた。本レビューは前編と後編の2部構成となり、前編では定番ベンチや消費電力、クリエイティブ系アプリでの検証を交えたゲーム以外の検証を、後編ではゲーム56本によるゲーミング性能だけにフォーカスした検証を実施する。
Ryzen 7 9800X3D(左)と7800X3D(右)の比較。どちらもSocket AM5版なので外形はもちろん裏面のランド配置も同じ。強いていえば基板表面のキャパシターの配置が違うが、これはRyzen 7000→9000シリーズの差分と同じである
コア数やクロックよりも構造に注目
Ryzen 7 9800X3Dのスペックは、既存の9700Xや7800X3Dから大きく変化していない。物理コア数は8、TDPはRyzen 7 9700Xの65W(定格)から比べると約2倍になったが、1世代前の7800X3Dと同じ120W設定である。
Ryzen 7 9800X3Dのベースクロックは9700Xや7800X3Dよりも高いが、最大ブーストクロックは9700Xと7800X3Dの中間である。3D V-CacheによるL3キャッシュ増加分も64MBで7800X3Dと同じであることなどを考慮すると、Zen 5である以外にメリットのなさそうな製品に見えるかもしれない。
| Ryzen 7 9800X3Dと、その近傍の製品とのスペック比較 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| Ryzen 7 9800X3D | Ryzen 7 9700X | Ryzen 7 7800X3D | ||||
| アーキテクチャー | Zen 5 (4nm+6nm) | Zen 5 (4nm+6nm) | Zen 4 (5nm+6nm) | |||
| コア/スレッド | 8 / 16 | 8 / 16 | 8 / 16 | |||
| ベースクロック | 4.7GHz | 3.8GHz | 4.2GHz | |||
| ブーストクロック | 5.2GHz | 5.5Hz | 5GHz | |||
| L2キャッシュ | 8MB | 8MB | 8MB | |||
| L3キャッシュ | 96MB | 32MB | 96MB | |||
| 対応メモリー | DDR5-5600 | DDR5-5600 | DDR5-5200 | |||
| TDP | 120W | 65W | 120W | |||
| 内蔵GPU | Radeon Graphics | Radeon Graphics | Radeon Graphics | |||
| 対応ソケット | AM5 | AM5 | AM5 | |||
| CPUクーラー | なし | なし | なし | |||
| 初出時税込価格 | ¥86,800 | ¥70,800 | ¥71,800 | |||
Ryzen 7 9800X3D最大の売りは3D V-Cacheが第2世代になった点にある。既存のX3Dモデルの場合、CPUコアが格納されているダイ(CCD)の上に3D V-Cacheを“かぶせる”ように合体させ、その上からヒートスプレッダーで覆うという構造になっていた。
この構造は画期的ではあったが、CPUコアの発熱が3D-V Cacheの層を介してヒートスプレッダーに伝達されるため冷却効率が犠牲になり、CPUのクロックを控えめにせざるを得ないという弱点も生み出した。
そこでAMDは3D V-Cache層とCCDを入れ替えることで、CCDとヒートスプレッダーを直接接触させる技法を採用した。これにより熱抵抗は最大46%も改善され、TDP120Wというポテンシャルの限界まで活かせるようになるわけだ。
ベースクロックがRyzen 7800X3Dよりも500MHz、最大ブーストクロックが200MHz引き上げられたのはこの第2世代3D V-Cacheの存在によりところが大きい。
この設計変更によりRyzen 7 9800X3DはRyzen 9000シリーズと同じようにオーバークロックできるようになったとAMDは謳う。オーバークロックについては既存のPBO(Precision Boost Overdrive)やCurve Optimizerのほか、Ryzen 9000シリーズと同じCurve Shaperも利用できる。
ちなみにこれまでのX3Dシリーズでは3D V-Cacheの方がCCDよりも小さかったため、CCDと3D-V Cache層のほかに“高さ合わせ”用のシリコンも必要だった。だがRyzen 9000シリーズではCCDと3D V-Cache層が同じ寸法になっているため、高さ合わせも不要になる。

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