東日本旅客鉄道(JR東日本)は2024年10月8日、鉄道固有の知識を学習した「鉄道版生成AI」の開発に本格的に着手すると発表した。2027年度末の完成を目指して段階的に開発を進め、性能を高めていく計画だ。
汎用AIでは難しい対応も可能に
同社は2023年10月より、一部の部門で社内向け生成AIチャットツールの試用を開始。2024年6月には全社員に試用範囲を拡大している。一方、試用を進めるなかで、生成AIが鉄道固有の表現や図表類を理解できなければ、高精度な返答を生成できないことも判明。課題を解決するため、鉄道を専門とした生成AIを開発することになった。
同社はAIの知識がより専門的になることで「メンテナンスや工事の際に注意点や過去の事例を確認して安全性を高める」「非専門領域の知識が必要な調整で、各専門分野の社員へ直接問い合わせしなくてもよくなる」「ベテラン社員が隣にいなくても生成AIがベテランと同等のアドバイスを生成して、新人社員を手助けできる」といったメリットを挙げ、より少ない人手でサステナブルに業務を遂行できるようになるとしている。
導入は3つのステップで
新しい生成AIは次の3つのステップにわけて、開発、導入される。すべてのステップが完了するのは、2027年度下期の予定だ。
●ステップ1:鉄道事業基礎AI(2024年度下期〜2025年度上期)
ステップ1では日本語で学習した大規模言語モデル(LLM)をベースに、鉄道事業の基本となる各種法令、社内教育資料、社則類、社内広報紙(JRひがし)などをAIに学習させ、「鉄道事業基礎AI」を構築する。
●ステップ2:鉄道事業専門AI(2025年度下期〜2026年度上期)
ステップ2ではステップ1で構築した「鉄道事業基礎AI」に、各分野の専門用語を含むマニュアルや解説資料、工事設計資料、通達・連絡文書、報告書などを学ばせて、より高度な「鉄道事業専門AI」を構築を目指す。
この段階のAIは分野横断型ではなく、各専門分野に特化したものになる予定だ。
●ステップ3:鉄道事業汎用AI(2026年度下期〜2027年度下期)
ステップ3ではステップ2で構築した各分野の「鉄道事業専門AI」をもとに、複数分野の情報を網羅的に学んだ「鉄道事業汎用AI」を目指す。
各ステップではAIが必要な知識レベルに達しているかも評価。性能を段階的に高めていくという。
また、同社は鉄道版生成AIと社内システムとの連携や、ほかの鉄道事業者が鉄道版生成AIを利用する仕組みも検討中。実現すれば、日本の鉄道業界を支える重要なインフラの1つとなるだろう。