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CMC_Centralで聞いたコミュニティマネージャー側の視点

KPI、熱量、自走化の課題 コミュニティ運営のベテランたちが語り尽くす

2024年09月06日 07時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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KPIは参加者数だけじゃない 初参加数、事例数、インサイト、スピーカー数も

 一方、ソラコムは、ネットワークやクラウド、デバイスなどさまざまなテクノロジーの総合格闘技となるIoTの特徴性を踏まえ、細かく参加者の属性を計測していないという。参加者と初参加率に関しては、「多いか、少ないかは計測しているが、KPIとしては重視していない」(松下さん)ということで、前述したヘルスチェックとして利用しているという。逆に明確なKPIはイベントの開催回数。「これだけはSORACOM UGのメンバーとも共有している」と松下さんは語る。

 特に初参加率の捉え方は、単に高ければいいわけではないという点で面白い。松下さんは、「初参加率が低すぎると常連ばかりでコミュニティが拡がってないのではないかと思われる。逆に新しすぎると、いいコンテンツを提供できていないから、定着していないのかもしれないという仮説につながる」と語る。CMC_Meetupをリードする小島英揮氏も、30%程度の初参加率が適正という話をしているが、SORACOM UGもそれをベースに試行錯誤で数値をカスタマイズしているという。

 その点ではStripeは発表された事例の数もKPIになるという。「同じ人が何度も話すのではなく、ユニークな人数を計測している」と岡本さんが語ると、長橋さんは「事例を話せる人を増やせるということですね。それは面白い。単純な統計数ではなく、スター顧客を何人揃えられるか」と説明。松下さんは「うちも使わせてもらおうかな」と応じる。

 続いて長橋さんは「初めてコミュニティを立ち上げる人は、なにを目指すべきか」について聞いた。こちらもコミュニティリーダーからすると気になるトピックだ。

 これに対して、松下さんは「回数もそうだけど、前回からのインターバルを見るといいかもしれない。でかいやつをのをいくつもやろうとすると、息切れしてしまうので」と語る。たとえば動員人数が100名だった場合、1回に100名を集めるよりも、20名前提を5回やった方がどこかしらに参加しやすくなるので、人数が伸びるのではという仮説だ。「参加者目線だと、この日は行けないけど、あの日は行けるというパターンを増やせる。人数を追うより、参加をばらけさせた方がよいのでは」と松下さんは語る。

 岡本さんは、「それで言うと、スピーカーをどれだけ発掘できるかが、けっこう大変になってくる」と指摘。「MAXさんも、コミュニティ運営しているときに、自分だけが何回も登壇しているときあったはず(笑)」と語ると、松下さんは「ありましたねえ」と遠い目。岡本さんは「『とりあえずやってみたのLTだけでも』と言って、登壇者にどれだけお願いするかが重要」と語る。

 自らが連続登壇するという状況を松下さんはどう脱したのか? 長橋さんの質問に対して、「僕ですね、ライトニングトークのやり方というスライドを持っているんですよ(笑)」と松下さんはコメント。登壇者やスターを発掘するために、可能な限り敷居を低くするための工夫と言えるだろう。

コミュニティマネージャーは小料理屋のママか?

 次の質問は「コミュニティの規模(参加者)と熱量のどちらを優先するか?」というもの。「これもかなりファンダメンタルな問い。人数を増やすと、どうしても熱量とのトレードオフになる。ここはどうでしょうか?」(長橋さん)

 松下さんは、「規模と熱量って、実は片方しか数値計測できない。熱量は計測のしようがないというジレンマがある」と指摘。ソラコムとしては、基本的に熱量を重視しているが、計測できないため、開催回数をKPIにしているという。「開催回数が多ければ、基本熱量は高いだろうという仮説に基づいている。基本的には熱量を優先。熱量がないと継続できない」と語る。

 熱量を維持するにはどうしたらよいか? 「熱量を維持するための『燃料投下』にあたる部分だと、たとえば新しいサービスの話や僕が見聞きしたネタの紹介、あるいはライトニングトークをしてくれる人を引っ張ってきて、新しいスターを作り上げるなど。こうしたことは(コミュニティを運営する)企業側がやった方がいいことだと思う」と松下さんはコメントする。

 岡本さんも基本的には同じだが、アプローチが異なっている。「熱量を計測するのは難しいが、熱意を持って参加している人の数はバイネームでリストにはできる。コミュニティマネージャーの人がバイネームのリストを持っているだけだと単に仲がいいだけの可能性があるので、社内の人が名前を覚えているという点を重視している」とコメント。営業なり、サポートなり、なんかしらのインサイトをもたらしてくれた人として社内に認知してくれていることを重視しているという。

 「現時点では熱量重視」というコメントから、現在のStripeコミュニティのフェーズについて聞かれた岡本さんは、「現在は各地のファーストピンを発掘していくフェーズ」と語る。「Stripeに興味を持ちました」という人に対して、イベント後にZoomミーティングを設定し、実際にハンズオンをやることもあるという。

 「1on1じゃないですか!」という松下さんに対して、岡本さんは「SaaSって今すごい数あるんですよ。だから、『あとで触っておきます』と言っても、『あと』が永遠に来ないんです」と金言を放つ。せっかくイベントで興味を持っているのに、使ってもらえないのはもったいない。そのため、イベントの後に一手間かけるのが岡本流。「(イベント終了後は)なんだったら夜なんで、お酒持ってきてくださいみたいなノリで、興味を持ちそうなところをダッシュボードで見せる」とのことだ。

 関心のあるユーザーと話すことで、インサイトを得ることもできるので、次のプレゼンのネタにも使えるという。松下さんは、「酒の肴にStripeですね。小料理屋のママじゃないですか(笑)」と感慨深そう。「真面目な場所でやるより、それくらいカジュアルにやる方がいいんですね」と長橋さんもコメントする。

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