丸の内LOVEWalker総編集長・玉置泰紀の「丸の内びとに会ってみた」 第16回

このバディ、最強! No.1プラントハンターとまちづくりのプロが生み出した丸の内の四季「Marunouchi Bloomway」の仕掛け人、そら植物園・西畠さんと三菱地所・牧野さんに会ってみた

文●土信田玲子/ASCII、撮影●曽根田元

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 丸の内LOVEWalker総編集長の玉置泰紀が、丸の内エリアのキーパーソンに丸の内という地への思い、今そこで実現しようとしていること、それらを通じて得た貴重なエピソードなどを聞いていく本連載。第16回は、丸の内を四季の緑で彩る「Marunouchi Bloomway(丸の内ブルームウェイ)」をプロデュースした「そら植物園」西畠清順さんと三菱地所の牧野圭さんに、プロジェクトの狙いや手応え、その先に目指すものなどについてお話をうかがった。

プラントハンター西畠清順(写真左)、三菱地所の牧野圭(写真右)

今回の丸の内びと/プラントハンター西畠清順(写真左)、三菱地所の牧野圭(写真右)

丸の内を“四季”で彩る
「Marunouchi Bloomway」とは

 三菱地所がまちづくりと賑わい創出の一環として、2024年5月からトライアルをスタートさせたプロジェクト「Marunouchi Bloomway」が、7月から本格始動した。

 丸の内仲通りと接する三菱ビルと丸の内二丁目ビルの各1階の通路空間と外構部に、月替わりで大規模な花壇を設置して季節の植物で丸の内を彩る。緑を使った通路空間のリニューアルプロジェクトだ。

 丸の内を象徴する緑豊かなメインストリートとして憩い・交流・文化性の要素も併せ持つ歩行空間である丸の内仲通り。その機能を、2つのビルの建物内にまで"拡張"することで、東京駅や丸の内仲通りに連続性を持たせ、まちの回遊性を高めるのが狙いだ。

 三菱地所丸の内運営事業部の牧野圭氏の依頼で、「そら植物園」代表でプラントハンターの西畠清順氏が植栽を担当。花壇は三菱地所設計チーフアーキテクトの藤貴彰氏が担当している。

5月は「カーネーション」

スタートの5月は「カーネーション」

7月は「笹と竹」

月は「笹と竹」。短冊には街ゆく人に願いを書いてもらった

植物の力でビルや施設の価値は上げられる
丸の内はどこまでも一流であってほしい場所

――西畠さん、牧野さんからの最初の依頼はそもそもどういうものだったんですか?

西畠「“緑でビルの魅力をアップしたい”ということだったんですが、実はこれ、僕が15年ぐらい前に東京に事務所を作ろうと考えたときからずっと提唱してきたことにつながっていて。

 当時は商業施設やビルの魅力をアップするのに、インテリアデザイナーは誰、建築家は誰で、コンセプトをどうするとか、そんなやり方だったんです。でも僕は当時から、そこに環境設計も含めた植物の力を加えることで、次世代型のビルの価値を生み出し、不動産価値をも上げることができるはずだって思っていました。

 でも、あの頃そんなことを言っていたのは僕1人だけだったんですよ。いろいろな仕事をさせてもらっていく中で、10年くらい前からようやく、“緑って結構コスパよく気軽にパブリシティの目玉にできるし、ブランディング・コンセプトのド真ん中に置いてもいいんだな”ということをみんなに気づいてもらえるようになって。

 そうした動きが、それまではちょっと距離があった大手のデベロッパーさん、三菱地所の牧野さんにまで届いていた。彼がその流れを取り入れて、この三菱ビル・丸の内二丁目ビルをリニューアルしたいって言ってくれたのは、やっぱり僕の考えは間違ってなかったと思えましたし、時代の潮流が追いついてきたんだな、と思いましたね」

――丸の内という街のイメージはいかがですか

西畠「関西人の僕にとって丸の内は、『ザ・東京』ですよ。東京駅っていったら出張先。すべての電車の上りの終着駅。皇居があって外国人がいっぱいのイメージ。

 そして日本の中心。僕は田舎者なので、日本らしさ、日本人らしさっていうのを持ちたいって思っているし、丸の内はそんな何かを期待したい街。だからどこまでも進化してほしいし、どこまでも一流であってほしい場所ですね」

――西畠さんには以前、KADOKAWA「ところざわサクラタウン」の花回廊や源義庭園のランドスケープデザインを担当していただきました

西畠「源義庭園は“世代を超えるランドスケープ”をテーマに、200年、300年後に名所になるような仕掛けを作っているし、源義さん(角川書店創業者・角川源義氏)の俳句や句碑をモチーフにして、「ロダンの首 泰山木は 花得たり」の句から降りてきた造園設計でした」

――四季の緑を生かした空間が郊外の所沢にあるのは自然なことですが、あえて都市部に植物を置くことに、どういう意味があると思いますか?

西畠「今回は“ビルの中に四季を運ぶ”ということで、花壇を使って毎月植物を変える。最適な手段を選べた自信はすごくあります。都市部っていうのは破壊力が大きい。意外なところにあればあるほど、物っていうのは存在感や意義を増してきたり、人に考えさせるきっかけを与えたり、議論や話題を呼ぶと思うんですよ。

 そういう意味では、1本の木を田舎に届けるよりも東京駅に届ける方がメッセージとしては伝わりやすい。僕の目標の1つ、効率の良い仕事になる。都市部に緑を届けるっていうことは、すごく効率的で意味があるはずだと思っています」

――牧野さん、三菱地所はエリアマネジメントの会社でもありますし、そのエリアマネジメントの象徴は丸の内。今回のプロジェクトはまちづくりの実験の1つともいえますか

牧野「正直、実験という感覚はゼロです。時代の変換点っていろいろあるじゃないですか。ちょっと大げさかもしれませんが、不動産における時代の変換点がたまたま今で、それを淡々とやっているという感覚の方が近いですね」

No.1プラントハンターのこだわりは
毎回オリジナルの手づくり

――改めて西畠さん、プラントハンターって、どんなお仕事ですか?

西畠「僕のライフワークは、“植物を届ける、ひとの心に植物を植える”こと。これをずっとスローガンにしてやっています」

プラントハンターの西畠清順さん

西畠さんは国内外の政府機関、企業、王族貴族などさまざまな依頼に合わせて植物を届けている

――商業施設やオフィスビルの緑もかなり以前から手がけていますよね

西畠「卸でいったらもう20年以上前からですけど、名前を公表して始めたのが13年ぐらい前ですかね」

――プラントハンターとして、大きく飛躍するきっかけになったプロジェクトは?

西畠「『代々木VILLAGE by kurkku(代々木ビレッジ バイ クルック)』ですね。代々木ゼミナール本部校旧校舎跡地に2011年から9年間だけオープンする期間限定の商業施設のプロジェクトで、コンセプトから屋外造園設計を担当して、緑でこの施設に人を呼ぶという取り組みをやったんですよ。それが注目してもらえるようになったきっかけですね」

西畠さんがプロジェクトにかかわった「代々木VILLAGE by kurkku(代々木ビレッジ バイ クルック)」

「代々木VILLAGE by kurkku」では“共存”をテーマに世界各国の植物を一堂に集めた。好評のため開業期間は当初予定の7年から9年に延長された

――ビルに鉢植えを入れたりすることはよくありますが、西畠さんがやっていることは違いますよね。どこが一番違うのでしょう?

西畠「たしかによく言われるんですけど、面白い植物、巨大な植物や珍しい植物を使うからじゃないですかね。ほかの植物屋さんと一番大きく違うところは、庭を作るための庭師、グリーンをコーディネートするグリーンコーディネーター、フラワーをデザインするデザイナー、植物を育てる生産者という細分化された1つの枠にはまっていないこと。植物も育てるし、グリーンで空間を作ったり庭を作ったり、いろいろなことを植物全体の実務としてやっているんです。

 あくまで“ひとの心に植物を植える”のがゴールであって、庭を作ることがゴールじゃない。ゴールに行くための手段として庭を作ったり、グリーンで空間を作ったりしているんです。

 またグリーンの業界って、いい意味でも悪い意味でもちゃんと整理整頓されている。例えば、この商品をこういうパターンで売っていきたいと思ったら、市場から買って原価は何%までにしてこうやって売るっていう風に、レンタルグリーンや造園設計って結構コピぺでできちゃうんですね。

 でも僕は、それぞれのビルや施設に対して、オリジナルのアイデアを紡いでちゃんとコンセプトを作って最適な施策を出す。1回1回手作りっていうのが違うんじゃないかな」

――それぞれに最適な施策を出して、施設をどうするのかってところまで考えている

西畠「今月は何セット売れた、これだけお金が入ったっていう感覚がゼロなんです。そういうことより、このビルに対して絶対これが必要、こういう施策をしたら、人の心に届くはずっていうことを考えてやる。意外と、この業界で働いている人が1万人いても1万人がそれを考えているわけではないんですよね」

――それがプラントハンターの考え方なんですね

西畠「17世紀、18世紀のプラントハンターは、貴族や王族のために珍しい植物を運んだかもしれないけど、21世紀の僕も時代のニーズに合わせているだけで本質的にはまったく同じです。三菱地所の依頼に対して、最適な植物を最適な手段で届けているっていうだけの話です。今回のビルは社会と直接繋がる場所なので、届け方の手段としてオリジナルコンセプトが何かと考えていたら、ある日突然次元が1つ変わって、“季節”を届けようと決めた。それが今回の1つの発見でした」

ガチで本気な依頼人が
次元を変えてくれた

――僕が牧野さんに最初にお話を聞いたとき、これはただの花壇じゃない、ビルのリニューアルだとおっしゃっていましたよね

牧野「最初に(西畠)清順さんにご相談したときは、正直、今のようになるというビジョンはゼロでした。ただ、今までだったら建築、電気、空調を整理して、大量に壊して大量に造るという工事をして、“ガッツリ変わりました”っていうリニューアルをやっていたけど、ハードに手を入れなくても、“緑、植物、清順さん”の組み合わせでも、リニューアルとして成り立つだろうというのはありました。どうやって、というところまでは考えていませんでしたし、植物に詳しいわけでもなかったのでイメージしたのはグリーンだけだったんです」

さわやかな雰囲気の牧野さんだが、内に情熱を秘めている

――それがあるとき、次元が変わった。なぜですか?

西畠「僕は、いつも誰かの日常の彩りを作っているんですよね。最初のご質問の今回のオファーを受けてどう考えたかっていうのとつながってくるんですけど、僕の仕事は、依頼人がいて初めて成り立つっていうところがある。依頼人がいないのに植物を運び続けられないじゃないですか。これまでにもたくさんの依頼人がいて、今も何十というプロジェクトが走っているし、今までも何百何千というプロジェクトをやってきたから、分かるんですよ。もう、今回の依頼人はガチだな、本気だな、って」

――牧野さん、ですね!

西畠「大きな企業、有名な企業からのオファーもあるけど、大事なのは担当者の熱意。次元が変わったのも牧野くんの本気度のおかげです。若くて働き者だし、頭の回転も仕事も速い。正直、もっと儲かる仕事はほかにあるけど、今回この人と良い事例を街で残して、それが良い社会実験になって、会社や社会、街行く人の反応を見たりしたいと。“依頼人の牧野くん”、そして“縦と横で街をつなぐために何かを変えよう”っていうこの2つの要素があったから、“四季”という一つ上の次元のアイデアも閃いたというか。どっちかがなかったらできなかったんじゃないかな。熱意を持った本気の依頼人だからこそ、依頼人の想像を超えるような提案をしてあげたいし、街にも貢献しなきゃ意味がない」

丸の内になかった“四季”を
ビルの貫通通路にも

――今回貫通通路をリニューアルした三菱ビルと丸の内二丁目ビルは、東京駅と丸の内仲通りに挟まれている。アップルストアの並びでスカイバスの停留所があって、外国人もたくさん降りる。東京駅丸の内南口の玄関口でもあるところが、花壇を置いたことでイメージがまるっきり変わりました。花壇が毎月変わるというのも斬新です

西畠「そういう仕組み自体を提案し、それに対する最適な仕事でビルが変わったんです」

牧野「通路の話でいうと、清順さんがやったのはたぶん“見えなかったものを見えるようにした”こと。もともと通路はあったんですよ。幅員も何にも変わってないんだけど、花壇を置いたことでかなりの人が通路の存在に気づくようになった」

西畠「なるほど、面白いね!」

――これって丸の内だからできること、東京駅から仲通りに抜ける道だからいいんでしょうね

西畠「この通路は、ちょっとずれてはいるけど東京駅と皇居の間を繋ぐ横線だから、馴染みすぎたら損する気がしたんですよね。”ただグリーンを入れるだけなら誰でもできるからやらなかった”、じゃなくて、“馴染みすぎるともったいない。もっと貢献できる方法は何だろう?”と考えたんです。

 皇居には四季があるけれど、丸の内には四季がない。緑が少ない、四季を感じるところがない。だから隠れたメッセージとしては、三菱地所が四季というものをもう少し会社として意識したら、丸の内の街が変わるかもしれないよ、と」

牧野「まさにそうですよね。そういう意味でも、見えないもの見えるようにしなくちゃいけない。今、街に四季がないんですよ。冬はクリスマス、夏はけやきが綺麗というのは分かるけど、季節の移り変わりをこの街で働いていて一切感じられなくて。

このリニューアルされた通路ができて、本当に変わったと思います。いろいろなものが目に入るようになりました」

――花壇の設計を担当したのは藤さんですが、もともと交流が?

西畠「2年ぐらい前に三菱地所設計でセミナーを開催したんです。渋谷のプロジェクトをご一緒した流れで、植物のコンセプターの部分を評価していただいてセミナーに呼んでいただいた。そこにいた、みんなが一目置いている、天才か変態か、紙一重みたいなちょっとやばい人が藤さんで。彼の作品を見に行ったら素晴らしくて、牧野くんに連絡してもらいました。 プランターも植栽と同じで、既存の植物屋さんなら、まずどこのメーカーのプランターにしようかとカタログをめくってスタートする。それに対して何の疑問もない、そう教えられるものだし。一番合理的、効果的で施主さんにとっても貢献できる。でも、僕らがたとえば1万円のものを何掛けで仕入れて売る作業をしたらおしまいなんですよ。それじゃ、人の心に届くものはつくれない」

――花壇も建築ですよね。今回のプランターは可変式で形も変わる

牧野「完全に建築として意識してやっていますし、そこは大事にしたい。藤さん、あの花壇をたった1日で設計したんですよ。すごいですよね」

西畠「すべて同時進行でやっていたけど、初回は約2週間という時間と限られた予算でちゃんと見栄えのあるものを作ってくれた。藤くんとやり取りしている間にも、『こうきたか』という驚きもあったし、合理的かつ経済的で、スケジュールにもスムーズに間に合わせられたのはすごく良かったんじゃないかなと思います」

広い歩道に置かれた藤さんの花壇はかなり大きい

丸の内を変える“見える化”と
社会実験の手応え

――5月にトライアルからスタートした「Marunouchi Bloomway」ですが、2ヵ月やってみた手応えは?

西畠「牧野くんと会うたびに、こんなことやあんなことができればと話し合ってきました。例えば6月はアジサイを600鉢飾り、最後に一般の方に、“持って帰ってOK”と伝えたら、ほぼ全部なくなった。普通ありえますか?そんなことって。何か社会実験がすごく大きくなってきたなって」

──毎日通勤時に見ていたアジサイを、持って帰っていいよって言われたらうれしいでしょうね

西畠「最初の5月のカーネーションは、時間のない中で間に合った!何とかたどり着いた!というぐらいバタバタだったんですけど、6月のアジサイは、前回の修正点を踏まえて噛みしめられたところで。7月の笹と竹に変わったときには、いよいよ街の人たちも毎月花壇が変わっていくんだって分かるだろうし。三菱地所が笹に短冊を付けて願いを書いてもらったり、そういうことをいろいろ楽しんでいけたらめっちゃいいじゃないですか」

──街を行き交う人が誰でも関わっていける

西畠「そうですね。いきなり自分に関係のあるものになる。例えばこのオフィスビルに勤めている人は、ここにフェイクグリーンがあっても別に自分と関係ない、と感じているでしょう。だからいきなり街に置いたほうが関係あるものだと認識すると思うんです。それってすごく面白い社会実験で、ほかではやってないことだから」

牧野「丸の内でしかできない。良くも悪くも見えるようになって、ある種、今はアレルギー反応が起き始めている時期だと思うんです。すごく急いで歩いているときは、花壇がたぶん邪魔。でも“邪魔”って認識したことになるから、今はもう見えなかったものが見え始めた最初の時期なんですよ」

――ただ受け入れてもらうんじゃなくて、異物がある空間で人々がどう感じて動くのかを考えるのは面白い

西畠「あえて動線を揺らすってことは、心理的にすごくいい。

 海外にはあるんですよ。百貨店や商業施設の通路のど真ん中に花壇を置くって。でも日本人は端っこに寄せようとする傾向にありますよね。あえてど真ん中にやったのはなぜか?と思ってくれた人がいたとしたら、その人はすでに花壇を意識していて、僕の作戦に引っかかっている(笑)」

――住宅街で事故が起きないようにあえて車道をジグザグにするってあるじゃないですか。面倒くさいって人もいるでしょうけど

西畠「そうそう、あの花壇が邪魔で遅刻したって人は、それがなくても遅刻したんだよね。でも遅刻した3秒を僕のせいにしてあげられたら花壇が役に立っているって話」

牧野「邪魔なものを避けるという行為が極限まで少ない街がこの丸の内だと思うんですよ。スタイリッシュな街なので。そこにノイズが入ったっていうのが、この街で人間が生きているっていうことにつながる」

――丸の内は、昔は金融街で土日は全然人がいない街だったのが、20年かけて変わってきて、今度はビルの中に西畠さんが入ってきた

西畠「今回面白かったのは、花壇をビルの1階の、街へと続く通路に置いたこと。これが2階、3階だと全然違ったんですけど、ビルの中に街の道があると定義したっていうところはよかった」

――ビルの通路なのにストリートみたいだし、ビルが変わったような気がする。建物は何1つ変わってないのに。これってすごいことですよね

西畠「そうしたかったんです。結果的にはいい社会実験ができているなと思っています」

8月はひまわりとジャングルで
都会に真夏を

――8月のテーマは何ですか?

牧野「真夏のイメージで、ひまわりとジャングルです。8月14日までがひまわり、8月15日からジャングルになります。ひまわりはとくに、来街者やエリアワーカーからのご意見やコメント、7月の七夕の短冊にも“夏といえばひまわり!”と多くのご要望があったので」

西畠「難しいかもしれないけどやってみようと。ジャングルは再生可能で長持ちするのも利点です」

――ひまわりはビジュアルのインパクトも大きい。毎月変えるのは大変ですよね

牧野「想定してないことばっかり起きるんですよ。思ったより早く枯れるとか、空調の吹き出しが強すぎて駄目になっちゃうとか」

――スタートしてからも試行錯誤する

牧野「めっちゃ変えてますよ。全然ルーティーンになってない」

西畠「そこを何とか頑張っています」

――グリーンは生き物ですからね

 

西畠「プランターを置くってことは結局生き物、花を置くということだから」

8月の「ひまわり」

海外の方が写真を撮る姿も見られた

丸の内から生まれる
新しいまちづくり

――牧野さんは、実際に西畠さんとここまでやってきて、今、どう思われていますか?

牧野「このビルで一番やりたかったのは、新しいまちづくりをここから生み出すこと。その手段を助けてくださいという形で清順さんにご相談したんですけど、今の感覚だと、最初はアレルギーやノイズが出たとしても、突き抜けていけるだろうなと。その感覚はもう確信に近くなってきてはいますね。最初にイメージしたものを、もう何回超えたかなっていう感覚はあります」

――ノイズやアレルギーも、逆に手応えって感じがあるんじゃないですか。ノイズが起こらないということは、何も引っかかってないってことですから

牧野「手応えはあります」

西畠「馴染みすぎるという選択肢も最初はありました。もちろん、それは普通にかっこいいし、空間も気持ちがいい。楽だし、予定調和だし、そっちの方が儲かりそう。でも、僕たちはあえてしんどい方を選んだ。こういう世の中で“街に彩りを”と男2人で頑張って考えて」

――西畠さんと牧野さんのバディだからできたことでしょう。人はやはり大事ですね

西畠「先ほどもお話ししたように、プラントハンターの仕事は頼む人によって変わるんです。三菱地所がどの建築家に頼むかってことも大事なんですけど、依頼する施主の力量も大事。有名建築家をアサインすれば仕事が終わりってわけじゃなくて、頼む側の誠意とか意志とか。企業も大きくなるとその意志がどこにあるかわからなくなってくるじゃないですか」

――三菱地所グループみたいな大企業だと個人が出ていきにくいところもあるでしょうし、そういう意味では、牧野さんは逸材だったという感じですか? 

西畠「牧野くんはロックでとんがっていて仕事が速くて、面白いこと考えるから良い、だけじゃなくて、ちゃんとその会社や街のことを考えたりしているから良いんですよ。

 なぁなぁで僕のことが好きだからオファーするって人は確かにいます。それはそれでいい、何か一緒にやりたいとは思うから。だけどやっぱりそれだけじゃなくて、親しき仲にも緊張があったり。あのタイミングからあの予算でこれだけの何かを生み出せたっていうのは、しんどいところを頑張ってちゃんと考えてやったことだから。

 自分のためにやっているわけでもないし、僕のためにやっているわけじゃない、もちろん会社のためだけでもない。社会のためにやっているわけじゃないですか。それが彼の良いところかな」

――牧野さんにとって西畠さんはどんな方ですか?

牧野「ありきたりかもしれないけれど、信じられる人だと思っていて。いろいろな意味で、もう任せれば大丈夫だろうなっていう思いはあります。いちばん求めていたことがその通りになっている。僕のイメージを超える何かを出してくれるだろうと期待していたら、それを実現させてくれたから、本当に信頼できる人なんです」

インタビューの様子から2人の信頼感が伝わってきた

企画というシードも育てれば
花が開いて大きくなっていく

――季節感のなかった丸の内を四季の緑で彩るという難しい企画も軌道に乗ってきたところで、この先に目指すところを教えてください

西畠「植物って育っていくじゃないですか。僕が死んでも残る。だからその植物そのものだけじゃなくて、例えば2人で編み出したこの企画や施策も育っていったらいいなと思うんです。育ったところで、今度は常設で何か表現できないかとか、違うところでやってみようかなとか。まさに緑でビルの価値を付けられるわけです。そこからバーッと広がっていったら、それはもうそのまま僕のものじゃないわけですよ。

 今回の企画もここで終わらなくて勝手に育っていく。誰かが何か違う形でアップグレードしていくかもしれないし。15年前はたった1人だった僕の野望が育って、どんどんいろいろなことを生み出し、みんなが真似したくなるようなものになって広がっていって、いつか人の心に植物がたくさん植わっているようになったらいいなと」

――今回の花壇もシードであって、そこからさらに花開いていく、と

牧野「最初から、今やっていることをこのビルで完結させるつもりはなくて。清順さんはすでにいろいろ次の展開を見据えているんですよ。それは、まさに今おっしゃっていただいたように、ここをシードにして想像を超えるスケールまでいっていいことだと思っています」

――それは丸の内に限らず?

牧野「今は丸の内、有楽町の仕事をしているので、このエリアに限ってですが、そこにこだわっているわけではないんです。必要に応じてまちづくり的なところに広げていこうかなって思っています。

あとは、変わることってすごく勇気がいることだし、会社員って苦しい部分もあるんですけど、そういうやり方や希望を後輩に引き継いでいく。そうすれば、僕がいなくても、街でやりたいことがあったらできるし、今はやりたいことがない人もやりたいことを見つけられる。そんな風にしていきたいですね」

――ファーストペンギンの西畠さん、バディの牧野さんに続け!ってことですね

西畠「僕がファーストペンギンかはわからないけど、常に草分け的な存在ではいたいですね。シードからいろいろな出会いで広がっていって、やったことが足跡として街に残ったり、何か記憶に残ったり、仕組みに残っていくっていうのが、この仕事の醍醐味だと思います」

「緑でビルの不動産価値を上げる」。リニューアルといえば建物や設備のスクラップ&ビルドだと思われていた15年前、たった一人で緑によるリニューアルの意義と可能性を提唱し始めたプラントハンター・西畠さん。 人っ子一人いない金融街から約20年かけて賑わいを創出してきた丸の内に、四季の緑を導入した。毎月変わるからこそ、無機質なビジネス街で四季を感じられる、新しいまちづくり。それはNo.1プラントハンター西畠さんと、まちづくりのプロ・三菱地所牧野さんの、決して妥協しないバディの力によるものだった。

西畠清順(にしはた・せいじゅん)●1980年生まれ、兵庫県出身。プラントハンター、株式会社office N seijun 代表取締役/そら植物園株式会社代表取締役。日本各地、世界中を旅してさまざまな植物を収集し、様々な依頼やプロジェクトに応じて植物を届ける現代のプラントハンター。2016年には“植物のあらゆる可能性に挑戦する企画会社"、office N seijunを創業し、自然や環境分野をベースに数々のコンサルティング業務を請け負い、植物に関連する多様なベンチャー会社を立ち上げるなど、ボーダーレスな活動を展開している。

牧野圭(まきの・けい)●1989年生まれ、東京都出身。2012年、三菱地所株式会社に入社。都市開発部、TOKYO TORCH事業部を経て関西支店所属後、現在は丸の内運営事業部に所属。

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。株式会社角川アスキー総合研究所・戦略推進室。丸の内LOVEWalker総編集長。国際大学GLOCOM客員研究員。一般社団法人メタ観光推進機構理事。京都市埋蔵文化財研究所理事。産経新聞~福武書店~角川4誌編集長。

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