スパイラル戦略からの脱却を敢えて進めるシャープ
実際、2007年までシャープの社長を務めた町田勝彦氏は、社長時代に、「ブラウン管テレビの時代には、自社でブラウン管を持たなかったため、シャーシの良さを訴えても、ワンランク下の価格設定となり、ブランド価値があがらなかった。だが、液晶パネルというキーデバイスを自ら持つことで、安売りのブランドから脱却することができた」と語り、それがシャープのテレビ事業を二流のポジションから一流のポジションに引き上げる源泉になっていたことを示す。スパイラル展開の最大の成功事例ともいえる。
だが、沖津社長兼CEOは、今回、スパイラル展開からの脱却を明確に宣言した。
「確かに従来は、商品と部品のスパイラル展開がシャープらしい戦略だといっていた。だが、時代が変化して、いまはスパイラル展開ではない企業のほうが成功している。たとえば、アップルは工場を持たずに成功している。ソニーやパナソニックもパネルを作らずにテレビ事業をやっている」と市場の大きな変化を指摘。「『シャープらしさ』を守るには、時代の変化に応じて早く決断し、方向転換することが大切である。しがみついていると出遅れて業績が悪化する。流れを先読みして、変化に早く対応する」と語る。
シャープがテレビ事業を成長させていたときには、液晶パネルの技術が進化の途中であり、大画面化や広視野角、応答速度といった点での改良余地が大きく、新たな技術をいち早く採用した自社生産の液晶パネルを活用することが、テレビの競争優位性を発揮することにつながっていた。だが、いまでは液晶パネルを使いこなし、画像処理エンジンやAIプロセッシングユニットによって画質や音質を高めたり、ネットコンテンツの市長が広がるなかで操作性を高めたりといったことが競争のポイントになっている。テレビ事業に関していえば、液晶パネルというデバイスにこだわらずに、商品の差別化ができるようになっている。
こうした時代の変化を捉えたところに、沖津社長兼CEOが語る「スパイラル展開からの脱却」という意味がある。
昔のシャープに戻ることが、シャープらしさではない
だが、こうも語る。
「昔のシャープに戻るのが『シャープらしさ』ではない。いまの環境に応じた『シャープらしさ』があると考えている」
創業者である早川徳次氏が語った「真似されるものを作る」というのは、シャープらしさを示す普遍的要素といえよう。問題は、そこに、新たな時代に向けて、どんな「シャープらしさ」を加えていくかということになる。デバイスではない差別化要素が求められるともいえる。
沖津社長兼CEOの手腕が試されるポイントともいえるだろう。
「シャープを世界に誇れる会社に成長させたいという気持ちは誰にも負けない」と語る沖津社長兼CEOが作り上げる「シャープらしさ」が楽しみだ。

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