・米3大メジャーレコード会社、音楽生成AI「Suno」「Udio」を著作権侵害で提訴
アメリカレコード協会(RIAA)とユニバーサルミュージックグループ、ワーナーミュージック・グループ、ソニーミュージックグループの大手レコード会社が共同で、音楽生成AIスタートアップのSunoとUdioに対して著作権侵害を訴える裁判を起こしました。この2社のサービスは裁判へと発展するということは想定されていたところです。要するに、レコード会社が著作権管理している楽曲を無許可でAIに学習させて、商用展開を進めているということで訴えたわけですね。被告側はおそらく学習については、米著作権法で認められる「フェアユース」で押し切ることを狙い、レコード会社側は今回のケースはフェアユースに該当しないという主張の衝突になっていこうとしています。
AI音楽動画、YouTubeで200万再生
音楽生成AIの名前を有名にしたSunoは最近できたスタートアップです。生成サービス「Suno AI」をβ版としてローンチしたのが2023年7月。Webサービスへと展開を進め、12月にはマイクロソフトとの提携を発表。AIチャットボット「Copilot」に統合されることもアナウンスされました。
2024年3月に「v3」を発表、さらに5月に「v3.5」を発表し、生成できる音楽の品質が上がり、さらに有料プランではWavファイルでの出力もできるようになりました。5月には1億2500万ドルの資金調達を実施し、会社の評価額も5億ドルに達していると見られており、ユーザー数も1000万人を超えるほどの急成長を続けています。
Udioは、元グーグルDeepMindの開発者が立ち上げた会社で、2024年4月に登場した同様の音楽生成AIサービスです。Sunoを追いかける形でサービスを展開しています。
音楽生成AIの技術そのものは、2010年代後半には固まっていました。OpenAIは2019年に「MuseNet」という音楽生成アルゴリズムを開発したことを発表していました。10種類の楽器で4分間の曲を生成でき、カントリーミュージックからモーツァルト、ビートルズと様々なスタイルを組み合わせられるというものでした。学習データは何十万点ものMIDIファイル。GPTと同じような教師なし学習をしたと明らかにされています。
ただし、簡易モードでのデモでの楽曲の作成はできるものの、本格的なサービスとしては公開されていません。マイクロソフトも研究部門で音楽生成AIの研究を進めていることを明らかにしており、2019年頃には論文をいくつも出していましたが、近年は動きがないようです。自社が前面に立って、レコード会社との摩擦に発展するのは避けたいという気持ちがあるのかもしれません。
それでも、メタが1月に「MAGNeT」という1万6000時間の音楽データで学習したという音楽生成AIを発表したり、Stability AIが4月に「Stable Audio 2.0」を発表してサービス展開を開始していたりと、AI企業各社がサービスの展開の可能性を探りはじめている状況ではありました。スタートアップにとっては、すでに技術が確立されている以上、法的リスクがあっても急成長ができる可能性があるならサービス展開を狙うという選択肢はありえるでしょう。
Stable Audio 2.0の告知ビデオ
Sunoの特徴は何といっても、ウェブサービスだけでなく音楽再生プラットフォームとして、迅速にサービスを広げていっているところでしょう。
毎日ポイント(クレジット)がもらえて、無料で10曲を生成できます。生成したい曲のジャンルを入れるだけで適当に曲が生成され、日本語でも区別なく、歌詞を入力すれば何でもそれっぽい音楽を数分で生成してくれます。何でも曲にしてくれるので、過去にこの連載で書いた記事の冒頭を歌詞として指定してみました。普通に聞けてしまう曲になってしまうのがすごいところです。
他のユーザーが作成した楽曲も、ランキングであったり、ショーケースであったりと、リスト化されて公開されており、評価の高い曲は70万回以上も再生され、900回もの「いいね」を受けているようなものもあります。すでに10秒に1曲生成されているとも言います。ジャンルでも検索できるようになっており、自分で作成する場合のプロンプトの参考にもできるようになっています。月10ドル以上の課金をすると、商用利用も可能というレギュレーションになっています。
音楽生成AIを使った動画はTikTokなどで流行っていて、「AI music」で検索をすると山のように動画が出てきます。YouTubeでも、Sunoを使って作成した楽曲で200万回再生に到達している動画が日本から出てきています。
SpotifyにもSunoを使って生成された楽曲は多数アップロードされているのが確認できます。Spotifyは楽曲の所有者が明確である場合は生成AIの曲も受け入れるという立場で、今のところは大きな規制はかかっていないようです。
特に、Sunoのサービスは直感的に使いやすいということもあり、画像生成AIよりも一般化のスピードが速い印象です。
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