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伝統のUHC-MOS Single Push-Pull Circuit、若手設計者の活躍にも期待

デノン、新しいハイエンドプリメインアンプ「PMA-3000NE」を発売、110周年モデルの先を目指す新機軸

2024年07月25日 11時00分更新

文● ASCII

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究極のシンプルを追究、多層基板やバスバーでケーブルを排除

 ほかの製品同様、長い伝統で培った技術に基づいて開発されている。デノンが30年以上前に開発したUHC-MOSは「半導体素子の数を増やさずに大電流を取り出したい」という矛盾した目標に研究開発部門が取り組み、実現したデバイスだ。

 音をにごらせる原因となる、素子ごとのバラツキ。その悪影響を最小化することを目的にした。オーディオの世界では当時、音響機器にはオーディオ用のデバイスを使うのが常識だったが、オーディオ用に作られた既存の半導体では、高S/N、低歪みのデバイスを見つけられなかった。そこでエンジニアが目を付けたのが産業用半導体。検証を続けた結果、製鉄工場などで巨大な設備の制御に用いるデバイスにたどり着き、これが大電流を取り出せ、電気抵抗が低く、高S/Nであることに気付いた。

 このUHC-MOSを用いたシンプルな回路構成が、現在も継承されている「UHC-MOS Single Push-Pull Circuit」である。PMA-3000NEの新型パワーアンプ回路でも、ミニマムシグナルパスという思想、進化したD/Aコンバーターなどともに用いられている。

PMA-3000NEの解説記事

PMA-A110とPMA-A3000NEの比較

 3000という型番は、デノンが1970~90年代初頭の高級機に使用してきた「POA-3000」から引き継いだものとなる。3000NEシリーズとしては、昨年末にアナログレコードプレーヤーの「DP-3000NE」が登場している。白河デザインワークスで設計を担当したディーアンドエムホールディングスの渡邉和馬氏によると、「過去のモデルに立ち返って現在のモデルをとらえ直すという検討を継続している」という。

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若手の開発者である福田氏と渡邉氏が手腕をふるっているのも注目点

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ともにデノンのHi-Fi機器として手がけたのはDNP-2000NEに続く2モデル目

 PMA-3000NEが搭載するパワーアンプ回路は、新型のUHC-MOS Single Push-Pull Circuitを用い、高忠実な再生を目指すもの。110周年モデルとして2020年に登場した「PMA-A110」からの進化点は、パワーアンプの前段が差動1段となったこと(PMA-A110やPMA-SX11は差動2段アンプ)。信号経路がよりシンプルになり、動作が安定性が上がり、結果的に音のダイナミクスや安定感が高まっているという。差動1段のアンプは音はいいものの設計が難しいのが難点であり、その課題も解決したという。

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パワーアンプ回路の比較

 また、配線に使うワイヤーや基板の数を減らすことにも成功した。PMA-2500NEシリーズの流れを汲んだPMA-A110はワイヤーも多く用いていた。ワイヤーをなくすことで組み立て時の効率を上げやすくなるほか、精度のバラツキも出にくくできる。

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プリアンプ基板、右の入力から一直線で信号が伝わってくるレイアウトで、シンプルさにこだわる設計思想が伝わってくる

 可変ゲイン型のプリアンプ部も回路構成を考え直して1枚にした。基板を2層から4層に多層化したことも、ワイヤーをなくすことに貢献した。結果、信号経路を短縮でき、ノイズ耐性が上がっている。S/Nの静特性も改善。入力からパワーアンプまでの経路も一直線にできた。

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フォノイコライザー基板

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奥がフォノイコライザー基板、手前がプリアンプ基板

 フォノイコライザーとヘッドホンアンプも改良。フォノイコライザーはコストをおごった独立基板とし、ヘッドホンアンプもパワーアンプから出力した信号をアッテネートするのではなく専用回路にしている。ここも信号経路の短縮化を目指した思想に基づくものだ。

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ワイヤーではなく基板の結合によって実現することで、一体感がありばらつきの少ない内部構造が得られた

 パワーアンプ部は 安定動作のため熱管理を徹底。電圧増幅段をパラレル化。多数のトランジスターを並列に置くことで環境の変化にも強い設計とした。また、単層基板ではなく両面実装の2層基板にし、信号経路を短縮している。これもワイヤーの減少に貢献する。ワイヤーの取り付けによる微妙な差を減らし、精度を安定化できるため、音質に加えてコスト的にも有利だという。使用する銅箔は通常は35μm程度の厚さだが、その4倍となる140μmまで厚くし、低インピーダンス化、ノイズ低減を図っている(従来は倍までだった)。

 電源はトランスの巻き線から再検討している。従来はデジタル電源とプリ電源が同じ巻き線から取られていたが、PMA-3000NEではデジタル電源用、アナログ電源用、プリ部用がそれぞれ専用のものになっている。電源部の配置もPMA-A110と比較すると分かるように、フロントパネルの真後ろにデジタル系の電源をまとめ、パワーアンプ部はアナログの電源のみにするなど徹底的な分離をしている。

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デジタル電源部、表示部の来るあたりがくりぬかれている

 音質への影響が強いブロックコンデンサーは新規開発したカスタム品。部品選定のための試聴を繰り返したほか、スリーブの長さも含めて検討したという。熱の観点を配慮して、ショットキーバリアダイオードを並列化。インピーダンスが下がるため発生する熱を低く抑えられる。

銅製のバスバーでスピーカーターミナルを接続している

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 スピーカーターミナルはバスバーを使用して接続。ケーブルレスでばらつきのない製品というコンセプトはここでも徹底している。ケーブルの渡し方、よじり方による音の変化がでにくく配慮しているほか。止めるネジ、止め方などを変えることで音質チューニングの自由度も上がる。銅箔の箔圧はここも140μm。パワーアンプからスピーカー出力まで厚さを同じにできたことはインピーダンスの低減に貢献しているという。

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