丸の内LOVE Walker総編集長・玉置泰紀の丸の内MEMO 第10回

夏の皇居三の丸尚蔵館は、美しい「いきもの」から可愛い「いきもの」まで、若冲の国宝《動植綵絵》はもちろん、書、絵、金属、陶磁、ガラス、刺繍などあらゆる表現の「いきもの」で埋め尽くされるぞ

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 皇居三の丸尚蔵館(皇居東御苑内)で2024年7月9日、展覧会「いきもの賞玩」が始まった(9月1日まで)。「賞玩」には、そのもののよさを楽しむという意味があり、今回の展示では、作品を通して、いきものの魅力を存分に楽しめる。伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)の国宝《動植綵絵(どうしょくさいえ)》のうち《芦鵞図(ろがず)》(前期展示)と《池辺群虫図(ちへんぐんちゅうず)》(後期展示)も展示されるなど、書、絵、金属、陶磁、ガラス、刺繍など、さまざまな造形で展示される。筆者もかつて、同館の協力などを得て、《動植綵絵》を中心に「若冲ウォーカー」というムックを作ったが、早速駆けつけてみた。

同館外で筆者

同館展示風景

 皇居三の丸尚蔵館は、平成元年(1989年)6月、上皇陛下及び香淳皇后が、昭和天皇まで代々皇室に受け継がれてきた御物の中から、およそ6千余点の絵画・書・工芸品などを、国へ寄贈し、一括して宮内庁で管理することになり、優れた美術品が多く含まれているため、その保存管理とともに広く国民に公開するために、専門の建物、組織を設置することになり、「三の丸尚蔵館」として1992年(平成4年)に竣工、1993年(平成5年)11月3日、一般展示公開が始まった。

 開館以後も皇族からの寄贈により収蔵品が度々追加され、現在の収蔵点数は9800点。2019年(平成31年/令和元年)度から収蔵庫と展示室を拡張するために建て替え工事が始まり、2023年(令和5年)年10月に宮内庁から国立文化財機構に移管され、同機構を所管する文化庁が管理を行う体制に。2023年11月3日に建て替えられた第I期棟が開館して施設の正式名称が「皇居三の丸尚蔵館」に改められた。2026年(令和8年)に旧館跡地に第II期棟が完成し全面的に再開館する予定だ。

 今回の展示では、地球上に生きる「いきもの」の姿を、数々の作品をとおして鑑賞する事が出来る。水の中の魚、くさむらに潜む昆虫、野山を駆け回る小動物などが作品化され、特に小さな生き物は、置物や実用品として造形化されて、生活の中で目を楽しませてくれる。そうした生き物を表した工芸品や絵画、書跡などを、皇室に伝えられた作品のなかから楽しむ。また、皇室と諸外国との交流のなかで、各国の貴重な品々が贈られているが、海外の作品にも多くの「いきもの」がいる。これらの国内外の「いきもの」の表現を比べることもできる。

 出展作品の数は合わせて52作品で、すべてが皇居三の丸尚蔵館の所蔵品。前期が7月9日から8月4日、後期が8月6日から9月1日で、展示替えがあるので、出品目録を確認しよう。全体の構成は、「詠む・描く」「かたどる・あしらう」「いろいろな国から」の3部構成になっている。

https://pr-shozokan.nich.go.jp/2024wildwonders/pdf/2024wildwonders_list_Japanese_0702.pdf

「詠む・描く」

公式サイトから解題。

 “「ヒト」は地球上の長い歴史・進化のなかで、文明を手に入れました。そのなかで、日本人は大陸の影響を受けつつ、文化を形成していきます。漢字や仮名の文字を使った詩歌、文学や芸能をもとにした絵、それらには私たちに身近な「いきもの」も登場します。ここでは、書跡から昆虫や鳥を詠んだ詩や和歌、絵画から動物が描かれている場面の絵巻など、そして伊藤若冲の国宝《動植綵絵》からガチョウ(前期)と昆虫(後期)が描かれた作品をご紹介します。”

伊藤若冲 《動植綵絵》のうち《芦鵞図》

【展示期間:7/9〜8/4】江戸時代、1761年(宝暦11年)。絹本着色。国宝。動植綵絵全30幅は身近な生き物が描かれ、釈迦の教えに集うものには平等な命が与えられていることを示している。この1幅は、真っ白なガチョウが背景の墨色から浮かび上がる。若冲は超絶技巧の画家として高い人気を誇るが、その代表作《動植綵絵》は、若冲によって相国寺に寄進され、1889年(明治22年)、皇室に献上され、現在は皇居三の丸尚蔵館の所蔵となっている。

長澤蘆雪 《綿花猫図(めんかねこず)》

【展示期間:7/9〜8/4】江戸時代(18世紀)。絹本着色。猫と綿の木。黄色い花と白い綿が開いている。長澤蘆雪は円山応挙の高弟。若冲同様、「奇想の絵師」の一人として知られる。

岩佐又兵衛 《小栗判官絵巻》巻14下

【展示期間:7/9〜8/4】江戸時代(17世紀)。絹本着色。江戸初期の人形浄瑠璃を基にした絵巻。小栗判官と照手姫が数多くの困難を乗り越えて結ばれる物語。この情景は、小栗判官が毒殺された後、地獄から蘇ったシーンで、たくさんの犬を連れた武士も描かれている。岩佐又兵衛は武家の出身から画家になり、屏風・絵巻に傑作を残した。

沈南蘋(しんなんぴん) 《餐香宿艶図巻(さんこうしゅくえんずかん)》

【通期展示 ※場面替あり】中国・清時代(18世紀)。絹本着色。虫や花が細密に描かれている穏やかな絵に見えるが、よく見ると、トンボがカエルにつかまっていたり、弱肉強食の世界も描かれている。沈南蘋は1731年(享保16年)に来朝、長崎に2年間弱滞在し写生的な花鳥画の技法を伝え、弟子の熊代熊斐らが南蘋派を形成した。円山応挙・伊藤若冲など江戸中期の画家に影響を及ぼした。

伝 源俊房 《七徳舞(しちとくのまい)白氏文集巻第三断簡》

【通期展示 ※場面替あり】平安時代(12世紀)。絹本墨書。白氏文集は白居易の漢詩で、七徳舞は唐の太宗皇帝を称える詩。絹地にはチョウや鳥、草花の下絵が描かれている。漆箱には鳳凰が蒔絵で描かれている。

「かたどる・あしらう」

公式サイトから解題。

 “「いきもの」は造形化され、置物や実用品として私たちの身近によくみられます。それは、本物と見紛うがごとく精巧に作られるものもあれば、かわいらしさに心惹かれ愛らしく作られるものもあります。ここでは、かつて明治宮殿などを飾るために作られた大きな花瓶や壁掛けをはじめとする数々の工芸品を紹介します。いろいろな技法であらわされた「いきもの」を見つけて、お楽しみください。”

《鼬(いたち)》

【通期展示】明治時代(19世紀)。銅、鋳造、彫金。銅成分の多い赤みを帯びた地金を鋳造して全体を作り、毛並みは彫金で表現している。目・鼻・ひげ・犬歯・爪には色見の異なる金属を使用している。

4代飯田新七 《刺繍菊(ししゅうきく)に鳩図額(はとずがく)》

【展示期間:7/9〜8/4】1911年(明治44年)。刺繡。色とりどりに咲き誇る菊花の中に、ハトが数羽垣根に止まったり地面をつついたりしている。ハトの羽の質感や色の変化が絹の刺繍糸の光沢で表されている。

川本栄次郎 《鯉置物》

【通期展示】1913年(大正2年)。陶磁。立身出世を表す「登竜門」。渦巻く滝つぼから飛び上がるコイの姿。

《羽箒(はぼうき)に子犬》

【通期展示】明治時代後期〜大正時代(20世紀)。牙彫。羽箒の吊りひもをくわえて遊ぶ子犬。象牙の丸彫り。

安藤七宝店 《七宝向日葵蟷螂図花瓶(しっぽうひまわりとうろうずかびん)》

【通期展示】明治時代後期(20世紀)。七宝。ヒマワリの花の上に顔を出すカマキリを有線七宝(金属線を立てて色の境目を作る技法)で表した花瓶。

濤川惣助(なみかわそうすけ) 《七宝双蝶香合(しっぽうそうちょうこうごう)》

【通期展示】1907年(明治40年)。七宝。チョウはさなぎから成虫に変わるので不老不死を表し、双蝶は相思相愛の意味がある。濤川は、独自の新たな美を追い求め、無線七宝という新技法を生み出した。迎賓館赤坂離宮の「花鳥の間」と「小宴の間」に飾られた七宝額は最高傑作として知られ、国宝に指定されている。

原型:杉田禾堂、制作:工芸成形社 《兎》

【通期展示】1937年(昭和12年)。白銅、鋳造。銅を主体とした合金、白銅を用いた鋳造。杉田は大正〜昭和時代の鋳金家。

「いろいろな国から」

公式サイトから解題。

 “皇室は公務を通じてさまざまな国との交流があり、世界平和を祈念して国際祝善を担っています。そうしたなかで、各国からその国の伝統工芸品や、国を代表する作家による美術品が贈られるなどしてきました。ここでは、それらのなかから、鳥や魚、動物があらわされたものをご紹介します。美しいガラスの花瓶の魚、ランプの海洋生物、宝石の鳥、遥か古代の壺や現代の色鮮やかなアップリケの鳥や動物。世界の各地から集合した「いきもの」の、多様な形や色を存分にご覧ください。”

展示の様子

《トカゲ型カトラリーレスト》

【通期展示】1963年ごろ。銀。ダホメ共和国大統領より。洋食器の箸置き。トカゲはアフリカ地域で日常的にみられる生き物のひとつ。

《インクスタンド 雛ひなと蝸牛かたつむり》

【通期展示】20世紀初頭。真鍮、陶磁。フランス製のインクスタンド。金属製の大きな羽に乗るヒヨコはカタツムリが気になる。

■グッズ販売

 オリジナルトートバッグ。国宝・伊藤若冲《動植綵絵》《向日葵雄鶏図》(2000円)。カウンターで販売している。

■展覧会概要

展覧会:いきもの賞玩

会期:2024年7月9日~9月1日[前期 7月9日~8月4日/後期 8月6日~9月1日]

会場:皇居三の丸尚蔵館(東京都千代田区千代田1-8 皇居東御苑内)

開館時間:9時30分~17時 ※金・土曜日は20時閉館(7月26日、8月30日のぞく) ※入館はいずれも閉館30分前まで

休館日:月曜日 ※ただし7月15日と8月12日は開館し、翌平日休館 ※その他事情により、臨時に休館する場合がある

入館料:一般 1000円、大学生 500円 ※事前に日時指定予約のこと ※高校生以下・満18歳未満、満70歳以上は無料(入館時に年齢のわかるものを要提示) ※障がい者手帳の所持者および介護者各1名は無料(日時指定不要)

公式サイトhttps://shozokan.nich.go.jp/

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