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米3大メジャーレコード会社、音楽生成AI「Suno」「Udio」を著作権侵害で提訴

2024年06月25日 12時00分更新

文● 田口和裕

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 6月24日、「3大メジャー」と呼ばれるソニー・ミュージックエンタテインメント、ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMGレコーディングス)、ワーナー・レコードの3社は、AI音楽生成サービスを提供する「Suno」と「Udio」を相手取り、著作権侵害で別々の訴訟を起こした。

損害賠償を含む激しい訴訟内容 

 Sunoに対する訴訟はマサチューセッツ連邦地方裁判所に、Udioに対する訴訟はニューヨーク南部連邦地方裁判所に提起された。

訴状より:AI生成曲と既存楽曲の類似性を楽譜で主張

 訴訟の内容は、これらのAIサービスが著作権で保護された楽曲を無断でAIモデルの「トレーニング」に利用しているという点だ。原告はこうした行為が著作権法に違反し、アーティストや音楽業界全体に深刻な影響を与える可能性があると強く主張している。

 訴状によると、SunoとUdioは原告が所有する著作権保護音源を大規模にコピーしてAIモデルに取り込み、原告の音源の特徴を模倣した音楽を生成することを可能にしたという。

 原告は、SunoとUdioのサービスが生成する音楽ファイルの中に、著作権で保護された楽曲との類似性が見られることを証拠として挙げている。

 例えば、Chuck BerryのJohnny B. Goode、Michael BubléのSway、Mariah CareyのAll I Want for Christmas is Youなどの特徴的な要素が再現されているという点が指摘されている。

 なお、この訴訟はRIAA(米国レコード協会)管理の元で進んでいるが、RIAAそのものは原告には含まれていない。RIAAは業界団体として、会員企業である3大メジャーの利益を代表して訴訟を支援する役割を果たしている。

 要求する補償の内容は厳しく、SunoとUdioに対して、著作権侵害の宣言、今後の侵害行為の即時かつ恒久的な差し止め、そして最も重要な点として、すでに発生した侵害に対する多額の損害賠償、具体的には法定損害賠償として侵害された作品1点につき最大15万ドル(およそ2391万円)を要求している。

 SunoとUdioは、自社のAIモデルのトレーニングデータについて「機密の事業情報」あるいは「競争上の機密」であるとして詳細を明かしていない。また、大規模な音源のコピーは「フェアユース(公正使用)」に該当すると主張している。

 しかし原告は「両社の行為はフェアユースの要件を満たさない」と反論。その理由として、使用が商業的であること、著作権で保護された作品の本質的な部分を使用していること、原告の作品の潜在的市場や価値に悪影響を与える可能性があることなどを挙げている。

 RIAAのMitch Glazier会長兼CEOは「音楽業界はAIを受け入れており、責任ある開発者とパートナーシップを組んでいる」と述べつつ「アーティストの人生をかけた作品を無断でコピーし、利益を得ようとするサービスは我々全員にとってのAIの可能性を後退させる」と厳しく非難している。

 注目すべきは、メタやStability AIなども音楽生成AIを発表しているにもかかわらず、今回の訴訟の対象に含まれていない点だ。

 すでに音楽業界とのライセンス契約や協力関係を結んでいる、もしくは著作権侵害の疑いを回避できるトレーニング方法を持っているなどの理由が考えられる。

 なお、アメリカ独立音楽協会(A2IM)、全米音楽出版社協会(NMPA)、録音アカデミーなど、10を越える音楽業界の主要団体もこの訴訟を支持している。彼らは、クリエイターの権利を守り、公正で持続可能なAI開発の重要性を強調している。

 AIによる急激な技術革新とアーティストの権利保護のバランスをどのようにとるべきか、社会全体で考えていく必要があるだろう。

 なお、現在のところこの件に関してSuno、Udio両者からのステートメントは出されていないようだ。

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