ワークロードのクラウド移行を「ITインフラのモダナイズ」までつなげられるか
VMware買収を変革のチャンスに、Broadcomと提携拡大したGoogle Cloudの狙い
BroadcomによるVMware買収とその後のビジネス方針転換を巡って、市場では混乱が起きている。一方でこれを、ITインフラの変革、モダナイズを促す“チャンス”ととらえるITベンダーも少なくない。Google Cloudもその一社だろう。
今年(2024年)4月に米ラスベガスで開催された「Google Cloud Next '24」において、Google CloudとBroadcomがパートナーシップの拡大を発表した。発表の中でBroadcomは、自社が運用するVMwareワークロードを、オンプレミスからGoogle Cloud上のVMware環境へ移行していく方針を明らかにしている。他方でGoogle Cloudは、VMwareライセンスのクラウドポータビリティ(詳しくは後述)など、独自の優位性をアピールしている。
とは言え、Google Cloudはこれまで、Kubernetes/コンテナやサーバーレスといったワークロード開発/実行基盤や、AI/ML/データ分析といったサービスに強みを持つ“クラウドネイティブなクラウド”と位置付けられてきた。「VMwareワークロードをそのままクラウドに移行し、その運用を維持し続ける」ことが最終的な狙いではないはずだ。
今回は、グーグル・クラウド・ジャパンの堀地聡太朗氏、安原稔貴氏に、Google CloudとBroadcomの提携拡大の内容、顧客企業にもたらすメリット、実際の顧客企業の動きといったテーマで話を聞いた。
Broadcomとの協業強化、VCFライセンスのポータビリティを実現
まずは、4月にBroadcomとGoogle Cloudが発表したパートナーシップ拡大の内容を確認しておこう。
●BroadcomとGoogle Cloud、企業がイノベーションを加速できるよう支援するためのパートナーシップ拡大を発表(2024年4月24日、Google Cloudブログ)
この発表では、以下の4点においてパートナーシップ拡大を強化していくと説明している。
・VMwareワークロードにおけるGoogle Cloud独自機能(生成AIなど)の活用促進
・両社のプロダクト部門間、市場開拓部門間でのコラボレーション強化
・Google Cloud MarketplaceにおけるBroadcomプロダクトの提供拡大
・VMware Cloud Foundation(VCF)ライセンスのポータビリティをGoogle Cloud VMware Engine(GCVE)に拡大(今年7月の提供開始予定)
中でも注目されるのが、4番目に挙げた「VCFライセンスのGCVEへのポータビリティ」、いわゆる“ライセンスの持ち込み(BYOL)”が可能になる点だ。実際に堀地氏も「この発表に対する問い合わせでは、VCFライセンスのポータビリティについてのものが一番多い」と語る。
この措置によって、オンプレミスにあるVMwareワークロードを、Google Cloudが提供する顧客専用VMware環境のGCVEへ、VCFのライセンス(Broadcomから購入したサブスクリプションの残額)をそのまま使ってマイグレーションできるようになる。堀地氏は「保有するライセンスを無駄にせず、有効活用できる」仕組みだと強調する。
「クラウド化の動きが進む中で、Google Cloudでは2020年からGCVEを提供してきた。これまでも、オンプレミスのVMwareワークロードをそのままクラウドに移行できる方法のひとつとして好評をいただいている。(ライセンスポータビリティの発表によって)以前にも増してクラウド移行を支援できる材料がそろった」(堀地氏)
Google CloudへのVMware環境移行で得られるメリットは
上述したライセンスポータビリティは、現時点では他のクラウドプロバイダーでは実現していない、Google Cloudだけが持つ優位性だという。GCVEはマネージドVMware環境であり、そこに移行するだけで、運用管理負荷の軽減、スケーラビリティやセキュリティの向上が期待できる。
付け加えると、GCVEはGoogle Cloud自身が提供主体としてハードウェアインフラとVMwareソフトウェアを運用管理するファーストパーティサービスであり、運用監視や顧客問い合わせ対応、障害対応などもGoogle Cloudが一括で行う。この点も他社サービス(「VMware Cloud on AWS(VMC on AWS)」など)とは異なると語る。
ただし、享受できるメリットはそれだけではないという。
堀地氏は、そのほかに考えられるメリットのひとつ目として、Google Cloudが提供する「Vertex AI」などのAI/ML、「BigQuery」などのデータ分析基盤などのサービスと低レイテンシで、シームレスに統合できる点を挙げる。
安原氏も、以前のGoogle Cloudはクラウドネイティブなアプリケーションの開発/実行基盤として採用されるケースが多かったが、GCVEの提供開始以後、近年ではそうした方向性にも変化が見られると指摘する。
「以前は新しい(クラウドネイティブな)アプリケーションと、レガシーなアプリケーションの実行基盤は別々に考える企業が多く、Google Cloudは新しいアプリケーションの開発に多く採用されていた。しかし、今では『レガシーシステムにあるデータの活用を進めたい』というコンテキスト(文脈)で、Google Cloudを選択いただくケースも増えていると感じる」(安原氏)