業務を変えるkintoneユーザー事例 第223回
一次産業のDXで年間約100時間の残業削減
紙運用を継続してのkintone活用、大山乳業農協の“誰一人取り残さないDX”
2024年06月07日 14時00分更新
kintoneユーザーによる事例・ノウハウ共有イベント「kintone hive hiroshima vol.1」が広島で初開催された。今回は、トリを務めた大山乳業農業協同組合の今吉正登氏によるプレゼン「誰一人取り残さないDXを目指して」のレポートを紹介する。
ブラックボックス化を避けるkintoneでの業務改善の横展開
大山(だいせん)乳業農業協同組合は昭和21年に設立された農協で、牛乳や乳製品、菓子、アイスクリームなど、多岐にわたる製品を販売する。西日本を中心に展開するが、主力製品の「白バラ牛乳」や「白バラコーヒー」は、首都圏の有名スーパーでも取り扱っている。
今吉氏は畜産大学を卒業し、酪農指導員を33年務め、酪農家の経営指導や飼養環境の改善などに日々取り組んでいる。今吉氏はITのバックグラウンドはないが、2000年ごろから鳥取県の約6000頭の乳牛をデータベース化して、乳牛の健康管理に役立てているという。
「これまで独学で業務改善を進めてきたのですが、やはり内製化と属人化が起きます。自分ひとりでやってしまうと、後継者が育ちません。そして、いわゆるブラックボックス化してしまいます」(今吉氏)
そこで、外部委託を検討したのだが、見積もりは1500万円からと予算オーバーで断念。ブラックボックス化したシステムは日常業務で使われ、何かあるたびに呼び出されていたという。そこで2021年に岡山県の出向から帰任した今吉氏は、デジタル技術を活用した業務改善プロジェクトに取り組むことにした。
「重要なのはトップダウン、そしてスモールスタートです。小さくスタートして、うまくいけば水平展開すればいい。この部門横断的な業務改善プロジェクトの中で、kintoneを導入することを決めました。サイボウズOfficeも随分前から使っていて、2022年のクラウド版の導入とあわせて、kintoneを採用しました」(今吉氏)
今吉氏が、まずkintoneで作ったのが電子稟議書アプリ。これまでは、役員の不在には決裁ができず、業務がストップしてしまったり、逆に決裁なく業務を進めて事後報告になることも横行していた。この決裁をkintone化することで、事業スピードを飛躍的に向上できたという。
紙を残したままでの酪農ヘルパー事業のDX、年間約100時間の残業削減
次に取り組んだのは、酪農ヘルパー事業のDXだ。酪農家は生き物を飼っているため365日作業が発生するが、当然休みも必要。そこで、酪農家の休暇時に代わりに作業してくれるのが酪農ヘルパーである。鳥取県では9名の正職員がおり、酪農指導部が管理運営している。2023年3月、この酪農ヘルパー事業の事務担当者が出産のため、12月から産休・育休に入ることがわかった。
「誰が給与計算や費用請求、運行管理、社会保険などの業務を抱えるのかが問題になりました。12月までという期限付きです。DX化するしかないと考えました」(今吉氏)
DX化するために、まずは課題を洗い出した。県内の牧場に出勤する酪農ヘルパーは直行直帰なため、月に1、2回事務所に出てくるタイミングで日報をまとめて提出していた。そのため、日報の入力がなければ、請求業務や給料の支払いができない。まとめて作業するため入力ミスも多く、現場でデジタル化して入力してもらうことを検討した。
「正職員のヘルパーは屈強な男たちです。しかし、ケータイは触れますが、パッド(タブレット端末)になると拒否反応を示すのです。パッドを貸与すると言っても、『落とすからいいです』『濡れたらダメなんでいいです』と断ります。やはり、一次産業の現場ではデジタル化のハードルは高いです」(今吉氏)
必要な項目も複雑なため、入力システムの開発が難しいという課題もあった。堅牢な端末も必要になり、教育する時間もとれない。
そんな時に、業界紙にて、電巧社の「onboard」という手書き帳票化ソリューションを見つける。紙に手書きした内容をそのままデータ化し、OCR機能でテキスト化してくれるのが特徴だ。onboardと自動連携するプラグインを用いて、OCR化されたデータをkintoneに保存。kintoneから抽出されたデータは、そのまま給料計算や請求計算に使用できるようにした。
「トライアルから本格運用まではスピード重視です。やると決めればとにもかくにも早く入れる。だらだらしていると、実現できなくなってしまいます。業務の片手間で作業を進め、12月までにDXを実現できました」(今吉氏)
導入効果は大きかった。まず、事務所に出勤しなくても、いつでもどこでも日報を提出できるようになった。また、稟議用紙を廃止したことで、素早い決裁を実現した。
事務担当の作業も簡素化された。これまで、日報の転記作業に1、2日かかっていたが、約15分に短縮。日報の催促も簡単にできるので仕事は平準化し、入力作業の属人化も解消された。導入前は月の平均残業時間が11.8時間だったのが、kintone導入後は月に平均4.2時間に、年間では96.6時間の残業を削減できた。
今吉氏は「誰一人取り残さないDXを目指しています。紙を使ってもいいんです。いつの間にかDX化されていた、ということが重要だと思います。給料計算や年末調整、車両日報など、まだまだ課題は山積です。今後もkintoneを通じて、DX化していきたいと考えています」と今吉氏は語った。
気づいたらDXしていたで実現した一次産業の業務改善
プレゼン後にはサイボウズ 中国営業グループ広島オフィスの西尾陽平氏から質問が飛んだ。
西尾氏:誰一人取り残さないDXというキーワードに感銘を受けました。“kintone×onboard連携”をテーマとしていましたが、自分たちにフィットするプラグインや連携ソリューションを探す方法を教えてください。
今吉氏:幕張メッセのサイボウズデイズに行くとたくさんの気づきがあります。たくさんのコミュニティがあるので、顔を出しましょう。インターネット上にも、情報はたくさんあります。それをどういう風にキャッチするかは、皆さん次第だと思います。
西尾氏:紙を残したままDXを実現されました。酪農ヘルパーさんからすると、今までと変わらない形で、気づいたらDXされてたといった感じなのでしょうか?
今吉氏:そうです。酪農ヘルパーからは記入がすごく楽になったと評判になりましたし、事務方としても、1~2日の作業が15分に短縮されたということで、ウィンウィンになったと思います。いつの間にかDXになっているというのが私の理想です。
西尾氏:一次産業のDXは難しいと思いますが、同じように自分たちの組織を変えようとしているユーザーにメッセージをいただけますか。
今吉氏:私たちは一人ではありません。業務改善の担当者は孤立化しやすいです。でも、今日集まったこの300人は業務改善という名の元にkintoneというツールを使っている同志です。コミュニティを作りながら様々な問題を解決して欲しいと思います。
2025年3月末までの限定公開です
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