このページの本文へ

まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第107回

〈前編〉Aiming小川文也さんインタビュー

『陰の実力者になりたくて!』の公認Discordはファンコミュニティー作りの最前線だ

2024年11月23日 15時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

作品の歴史は「水着衣装」の枚数でわかる!?

まつもと Aimingさんはさまざまなゲームを手がけられていらっしゃいますが、マーケティングやマーケット的な面での他作品との違い、「カゲマス」ならではの特徴はありますか?

小川 マーケット的な違いですと、たとえば10年以上メディア展開されているような作品との違いは特徴的です。つまり、これから歴史を作っていく作品と、すでに歴史がある作品の違いです。これは明確に感じています。

 歴史がある作品には、その歴史に紐づいた多くのファンがいます。そんなファンのみなさんに何かを打ち出しても、すでにその要素は過去のコンテンツなどで満たされている場合が多いのです。結果、反響が広がりにくい傾向があります。良い意味で、その作品にはさまざまなコンテンツがあふれているからですね。

まつもと 具体的には?

小川 ゲームでシーズナルのイベントを開催するときは、「このキャラのこんな衣装が見られます!」といった宣伝文句が定石だと思うのですが、歴史を重ねた作品とは異なり、『陰実』には“このキャラのこんな衣装”自体がまだほとんど存在しないのです。結果、「カゲマス」でしか見られないものが増えます。

 また、キャラの深掘りも済んでないので、「このキャラってこんな側面があったのか!」というキャラクターへの関心も非常に高くなります。そのため、ファン層のアンテナがゲームに集中しやすくなる側面もあります。

まつもと なるほど……! 私がDiscordを見て“異様な熱量”だと感じた理由が少しわかった気がします。

小川 メディア展開含めて長い歴史がある作品ですと、「あのキャラの水着衣装、もう5~6パターンは見たよ……」という反応が見られることもあります。

まつもと しかも、下手にこれまでのイメージから外れたデザインにするわけにもいかないでしょうし……。

小川 歴史がある作品は、各キャラクターの深掘りや異なる衣装の発表もすでに済んでいることが多いので、かなり踏み込んだ設定を用いたシナリオを作る必要があります。とは言え、これまで積み重ねてきた歴史から踏み外すとファンのあいだから、「それって“解釈違い”だよ」という声が挙がってしまうかもしれません。

まつもと 良かれと思ったファンサービスが逆効果に。

小川 はい。歴史がある作品にはそのぶん積み上がったイメージもしっかり存在していますから。そこが『陰実』との違いだと感じています。

まつもと 今のお話で「カゲマス」の位置づけがかなり明確になってきたと思います。ではいよいよ、Discordの件をおうかがいしたいと思います。

プロも驚いた『Discordに2~3万人も集まるの!?』

まつもと インタビュー前のやり取りで、“Xの仕様変更はDiscordサーバー開設の理由ではない”ということを強調されていました。ゲーム化に際しては早い段階で「SNS戦略どうしよう?」という話し合いがあったと思うのですが、Discordが選択肢に挙がった経緯を教えてください。

小川 これは正確に言うと、競合タイトルの分析をしているときに“すでにアニメ化した、とあるスマホゲームのKPI”に注目したことが出発点です。

 その作品に対して我々は『アニメの反響以上の盛り上がりが作られている』という印象を持っており、その要因を調べていくなかで、たどり着いた1つがDiscordでした。

 我々がそのスマホゲームのDiscordを見たときの最初の感想は……多分、まつもとさんが私たちのDiscordを見てくださったときの感想とほぼ同じです。アニメ以上にすごく盛り上がっている。『熱量高いな、ここ!』って。

 そしてその熱量はゲーム内のKPIにも良い影響を与えていると思いました。そこで仮説ベースではありましたが(Discordサーバー開設を)チャレンジさせてほしいと社内に話して理解を得た上で進めた、というかたちです。

まつもと なるほど、少なくとも先行事例があったのですね。マーケティングのプロである小川さんから見ても熱量を感じたとのことでしたが、どんなところにインパクトを受けたのですか?

小川 一番の理由は、Discordというクローズドなコミュニティーにその時点で2~3万人も参加していた、というところですね。『こんなに人が集まるの!?』と。

 つまり、件のスマホゲームのDiscordを見たときは、まだまだ“濃いゲーマー”が多く集まっているような時代だったのです。私たちが始めたときでも“ようやく認知が広がってきたかな?”ぐらいの感覚です。

 最近は「Apex Legends」や「VALORANT」などを遊ぶ際はボイスをつなぐというムーブメントが大きくなったおかげで、Discordを導入する人も増えましたが、国内の利用者数で言えば、今でもメジャーとまでは言えないと思っています。

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ