まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第106回
〈後編〉taziku田中義弘さんインタビュー
ボカロには初音ミク、VTuberにはキズナアイがいた。では生成AIには誰がいる?
2024年08月11日 15時00分更新
既存のアニメスタジオ単独では困難な“2段構え”を実現する
田中 最初はクリエイターがAIに振り回されるのだけれど、だんだんAIを道具として使えるようになって、アニメ制作技術の進展とともにクリエイターも成長していく、と。
まつもと メディアはテレビ放送ではなく、YouTube配信などですか?
田中 はい。現在、いわゆる30分アニメを作るには、一話につき2000万円から3000万円は必要です。それを1クール分作るのは現状不可能ですし、AIアニメプロジェクトとしては“アニメのB2C”を目指しているので、権利が細切れになってしまう製作委員会方式は避けたいところです。
そこで、これはうまくいくかわかりませんが、架空のアニメスタジオに一話協賛で企業からスポンサーを受けれないかなと。リアルに営業をかけて、たとえば“シューズメーカーがアニメでPVを作りたい”という案件をAIアニメプロジェクトで受注したとします。
そのうえで、“架空のアニメスタジオに実在のシューズメーカーからPV制作依頼が舞い込んできた”というストーリーのショートアニメを制作し、劇中でPVのメイキングを描きます。つまり、コマーシャルフィルムとしてのPVも作りますが、それとは別にティザーとして物語仕立てのショートアニメが存在するわけです。
これによって、“劇中で作っていたCFが本当に存在する”というかたちになりますので結構話題になるのでは、と。
まつもと それはありですね。
田中 この仕組みで、大資本を入れない新しいかたちのビジネススキームを組むことを狙っています。
まつもと 私は代理店にいたことがあるのですごくよくわかる話です。架空のアニメスタジオがあって活動していると。彼らもAIでアニメを作るのですか?
田中 そうですね。主人公は新人アニメーターでAIに振り回されている。納期がない、制約も多い、そこをAIで何とかしていく。具体的にはパートナーAIとのやり取りをするなかで、世の中にある実在のAI技術を利用することで難題をクリアーし、最終的に企業のプロモーションムービーを作る。
まつもと ああ、技術のケーススタディーにもなっていると。
田中 そうですね。一方、CFのほうは純粋にユニークなプロダクトをアニメでプロモーションします。この2段構えは、たぶん既存のアニメ制作会社単独では無理でしょう。
アニメスタジオのK&K、そしてAI技術を持つtazikuの2社が合わさってるからこそ可能なスキームなので。
これがうまくいけば、製作委員会を作らずに2社でIPを担保しながら、つまりお金を稼ぎながらアニメを作ることが……まだ絵空事ですけれどね(笑) 現段階ではまだキャラクターがFIXしていなくて、今のものをベースとしながら、ここからさらに考えあらためて発表したいと思っています。
技術ギャップを現在進行形の技術進展で乗り越える
まつもと いや、すごく面白い話だと思います。私アニメスタジオにもいたことがあるのですが、そんな急にラインって空けられないし、クライアントは平気で「1ヵ月で作ってよ」とか言うけれど、そんなわけにもいかないのがこれまでのアニメ業界の常識だったので。
でも、AI技術の使い方次第では出来ちゃうぞってところを、まさに「トリリオンゲーム」の際には示されたわけですし。ただ、1つだけ気になるのが“キャラクターを動かすこと”です。AIが苦手な分野じゃないですか。
でも、アニメである以上、キャラクターをやっぱり動かしたいわけで……。そこはまだ技術的なギャップがあるわけですよね?
田中 ギャップはあります。
まつもと そこをどうするのか? プロダクトのコマーシャルフィルムならキャラクター推しではなくモノ推しになるから可能とか? そのへんをうかがいたいです。
田中 ショートアニメは普通に(作画メインで)作ることになります。もちろんAI技術で補助しながらですけれど。対してPVは、企業も話題にしたいでしょうからAI推しが良いと思っています。
“最新のテクノロジーである「AI」を使ってこんなことができました”ということのほうが重要で、かつ人物も1秒程度なら破綻を判別しにくい動画が最近ちょっとずつ作れるようになりました。
これは4秒ほどの動画ですが、作画も動きもすべてAIです。PVなら短いカットをつなぐことで破綻せず作れると思います。
【生成AIアニメ実験】@DomoAI_を利用した@KnKDesignさんとの実験。時間もリソースもない中で、時間を捻出しながら、なんとかアウトプットしていく。かなり精度が上がってきた。
— 田中義弘 | taziku CEO / AI × Creative (@taziku_co) April 2, 2024
まず現場のアニメーターの方が面白がって使えるレベル感にして、触ってもらうことが大切。#生成AI#AIアニメpic.twitter.com/nWV5ccOP6b
15秒程度のコマーシャルフィルムなら、短いカットをつなげることで違和感なく作れる時代がやってきた!?
まつもと たしかに、ぱっと見ではわからないですね。
田中 アニメを作っている人ならおかしいと感じるかと思いますが、一般の視聴者に向けていますので。
まつもと しかもコマーシャルフィルムを作るのだから、尺が短いのも当たり前。15秒や30秒で良いわけですから、カットを詰め込むことで違和感を減らせますね。
なおかつ、すべてのPVにはアニメで描かれるメイキングがあります。今おっしゃったような「破綻の少ない短いカットをできるだけつなげて1本にする」といった試行錯誤をそのまま劇中で再現することで、視聴者に納得感を得てもらう手法も使えます。
田中 そうですね。その時々の最先端の手法を使って、人間の作画ではコスト的に不可能な世界観を描くなど、AIであることを逆に武器にしたいと思っています。
まつもと 失礼な言い方かもしれませんが、“賢い組み合わせ”だと思います。AI動画って、30分アニメとしてお出しされたら「破綻してる!」と言われるでしょうが、CMとして見ると一周回って変な話、格好良く見えますよね。
AI動画が大量にあふれることで視聴者の目が慣れていき、そのうち短いPVレベルなら違和感そのものがなくなっていくかもしれません。逆に現在なら、破綻している(次々に衣装の細部が変わっていく)こと自体を新しい表現トレンドとしてプッシュできるかもしれません。
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