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大谷イビサのIT業界物見遊山 第62回

内製化は向く会社、向かない会社がある

キラキラに見えた内製化事例の表と裏 DXを夢見た企業の現在地

2024年03月19日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 過去に取材したkintoneイベントの登壇企業の社員に話を聞いた。kintoneの車内広告にあこがれて内製化を進めていたはずだが、その内情はなかなか厳しい。アプリはなかなかできず、完成度もイマイチで、情シスも現場も疲弊してしまったようだ。ノーコードツールだからといって、業務知識のある社員であれば内製化も容易と考えるのは早計だ。

内製化を進めた業務企画室 押しつけられた(?)現場メンバー

 その中堅企業は3年前にkintoneを導入。IT部門ではなく、現場に近い立場で業務改善を行なう業務企画室がkintoneの導入と定着を進めていた。目指すは交通広告でもアピールされている日清食品グループや星野リゾートのような内製化(関連記事:北國銀行、日清食品が語るkintone、そして「カオス」との付き合い方)。現場部門の担当者にkintoneアプリを作ってもらい、紙と属人化だらけの業務を改善し、DXを進めるのが業務企画室の担当者の野望だった。

 実際、現場の要望を取り入れ、苦労しながら業務企画室が作ったアプリは大きな導入効果をもたらした。業務時間やコストも削減され、折しもコロナ禍だったこともあり、テレワークにもつながった。こうした業務改善を実現するkintoneアプリを現場で作ってもらえるように、各事業部門からメンバーを募った結果、数名がアプリ開発に興味を持ち、勉強会やセミナーにも参加するようになった。エンジニアでなくてもアプリを作れることがわかったので、今後もこの内製化の機運を高めていく予定……というのが業務企画室の担当者がkintoneイベントで話した筋書きだった。

 kintoneもすでに導入が2万社を超えたので、サイボウズを介さずとも、ユーザー企業の人と知り合うのはそれほど難しくない。ということで、私がたまたま知り合ったその会社の社員から内情を聞いたのだが、kintoneの見え方は若干というかけっこう異なっていた。

 元々その会社は経営陣がかなりkintoneに入れ込んでおり、トップダウンでkintoneによる業務改善が必須となっていた。すでにライセンスを購入していることもあり、その業務に向く向かないに関係なく、kintoneの利用が前提となっていたわけだ。しかもkintoneアプリを開発するメンバーも、自主的と言うより、半ば強制的に徴集されているのが現状だという。集められたアプリ開発のメンバーは、自らが所属しているグループのkintoneアプリを作ることを目標として課されるが、実際は普段の業務が忙しすぎてアプリ開発に時間が割けないという。

 この「普段の業務が忙しくてアプリ開発に時間が割けない問題」に関しては、オオタニもいろいろなユーザー企業に聞いているが、なかなか決定的な解決策には出会えない。IT部門からすれば現場部門に「業務の時間を削ってアプリを作ってくれ」とは言いづらいし、いくらDX先進企業だからとは言え、アプリ開発の実績を人事評価にまでつなげている例は皆無に等しい。

 現場で作るのが難しいのであれば、せめて現場のニーズを聞いて、業務企画室が作ったアプリはどうか? これもがんばって作ったのはわかるが、残念ながら素人の出来だった。しかも、修正依頼のフローが面倒で、部課での協議や上司のOKが出ないと、リクエストすら出せない。大量の情報が整理されずに掲出されており、検索や絞り込みも思うようにできず、ストレスが溜まる一方だという。

内製化にこだわると迅速さを失う

 導入をリードした業務企画室の担当者とその社員の話のどちらが正しいか判断するのは、なかなか難しい。kintone導入でそれなりに大きなメリットや実績が出たのも事実だろうし、現場部門から不満があがっていたのも事実だと思う。しかし、事例は語り手の立場によって見え方が大きく異なる。重要なのは事例を鵜呑みにしないこと、そして内製化のハードルは思いのほか高いということだ。コスト削減のための安易な内製化は失敗の元と言える。

 長らくノーコードツールでアプリを作るのは、やはり業務に精通している現場部門であるべきと考えていた。しかし、事例の取材を繰り返し、先ほどのようなユーザーの声を聞いた結果、最近は外部ベンダーの手を借りず、現場部門で内製化を進めるのは、やはりハードルが高いのでは?と考えるようになってきた。以前、コラムにも書いたが、たとえアプリ作りが簡単なノーコードツールでも、現場がワクワクしなければ内製化は難しいはずだ(関連記事:「ノーコード/ローコードはワクワクしない」は本当か?)。

 サイボウズも「山の登り方は会社ごとに違う」ということで、kintone SIGNPOSTなどの指針を出しているが、内製化には向く、向かないという会社がある。ノーコードでアプリ作成の敷居が低くなったのは事実だが、内製化を成功させるにはその前提として業務の理解や情報の整理、プロジェクト管理などのスキルやノウハウが必要になる。これは生成AIの業務活用にも同じことが言えると思う。

 昨年、サイボウズデイズで登壇したパートナー選びについての講演でも「内製化にこだわりすぎると、迅速さを失う」「みなさんが作りたいと思うアプリはけっこうSaaS化されている」などと訴えてはきた(関連記事:こんなに増えたkintoneパートナーをどう選ぶ? オオタニ&稲澤が導いた方程式)。特に部門レベルから他部門や全社に展開していく場合は、アプリ開発のルールも必要だし、きちんとしたサポート窓口や研修プログラムが必須だと思う。

 今回はkintoneの内製化事例について取り上げたが、IT事例は使わせる側の経営陣やIT部門や、使わされるユーザーのギャップは大きいことがほとんどだ。製品がユーザーになじまず、オワコンを積み重ねてきた歴史と言ってもよい。特に今はコロナ禍やDX導入を機に次々と導入された新しいツールを覚えなければならず、ストレスを溜めているユーザーが多い。本当はこうしたナイーブな部分もユーザー事例で取り上げたいのだが、「実際に使っているユーザーさんはどう考えているんですかね」を聞けるような取材機会はなかなか訪れないのである。
 

大谷イビサ

ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。

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