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2024年はエンタープライズへのAIOps浸透に注力、「AIの力でITインフラに革命を」

HPEが求めた“AIOps”を加速、ジュニパーがデジタルツインでITインフラの予知保全

2024年03月04日 17時15分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 ジュニパーネットワークスは、2024年3月1日、事業戦略説明会を開催。エンタープライズ向けの事業へのフォーカスとAIOpsを推進するプラットフォームの強化を発表した。

 ジュニパーネットワークスの代表取締役社長である古屋知弘氏は、「“AIネイティブネットワーキングプラットフォーム”を全面的に押し出し、国内に展開していく。ジュニパーのすべてのソリューションはAIネイティブで開発されており、AIの力でITインフラに革命を起こしたい」と説明する。

ジュニパーネットワークス 代表取締役社長 古屋知弘氏

エンタープライズにおけるAIOpsの浸透を加速させる

 ジュニパーがうたうAIネイティブネットワーキングプラットフォームは、2019年、AIエンジン(Mist AI)をコアとして備えた無線LANを展開するMist Systemsを買収したことから始まった。

 「無線AP(アクセスポイント)をMist AIがクラウド上で一元管理をするところからスタートして、有線、SD-WAN、NAC、そしてデータセンターへと、すべてにAIを適用しながらソリューションを拡張してきた」と古屋氏。

Mist AIを核としたAIネイティブネットワーキングプラットフォーム

 同社は、キャリアネットワークに特化したビジネスを続けていたが、Mistの買収によりAIOpsに注力することで、エンタープライズ向けのビジネスの成長率は27%となり、2023年度の売上である55億6500万ドルの内、46%を占めるところまで来ている。AIOps関連の成長率は35%であり、付随してソフトウェアビジネスの成長率も23%に。

 この流れを加速すべく古屋氏は、“エンタープライズビジネスへのフォーカス”を2024年度の国内戦略として打ち出し、エンタープライズITにおけるAIOpsの浸透に力を注ぐ。

 パートナーとの協業を通じた、国内主要企業への拡販も強化する。大手システムインテグレーターに加え、ここ数年は同社のユーザーでもある通信事業者との連携を深めてきた。ターゲットとする主な市場は、大手製造業や多店舗展開企業、そして学術公共領域だ。

 このエンタープライズビジネスの拡大への後押しとなるのが、AIネイティブネットワーキングプラットフォームの強化であり、主なポイントとなるのが、「Marvis Mini」を用いたAIネイティブなデジタルツインの実現、AIOpsのデータセンターへの拡張である。

ITインフラでデジタルツイン、問題発生前後の検知だけではなく事前のリスク軽減も

 ジュニパーネットワークスの副社長 エンタープライズビジネス統括本部長 兼 技術統括本部長である上田昌広氏からは、AIネイティブネットワーキングプラットフォームの強化について説明。上田氏は「われわれは製品を売るというよりもユーザーの運用を変えたい」と述べる。

ジュニパーネットワークス 副社長 エンタープライズビジネス統括本部長 兼 技術統括本部長 上田昌広氏

 「安定した社会インフラがあって、その上で色々なサービスが展開される。重要となるのは接続性や安定性、そして体感」と上田氏。同社が推進するのは“本当にユーザーが使えているか”を解決する、真のエクスペリエンスファーストを実現するネットワークだといい、そのために提供するのが、AIOpsを中核としたAIネイティブネットワーキングプラットフォームだ。

 同プラットフォームは、AIを活用する前提で設計され、Mist AIが長年蓄積してきた、APやスイッチなどから得られたサマライズされた質の高いデータを基に最適化されている。「7年前はトラブルの検知率は70%ほどだったのが、今では95%」と上田氏。

AIネイティブネットワーキングプラットフォームのアップデート

 同プラットフォームの拡張としてジュニパーが期待を寄せるのが、AIネイティブなデジタルエクスペリエンスツインを実現するMarvis Miniだ。

 上田氏は、「簡単にいうとデジタルツイン。これまでバージョンアップやコンフィグ変更の際などには、トライ&エラーで切り替えたり、戻したりで設備がストップしてしまっていた。デジタルツインを用いることで、どのような影響がでるかをシミュレーションすることができる」と説明。

 これまでは、Mist AIの仮想ネットワークアシスタント(VNA)である「Marvis」が、無線APなどからクラウド上にデータを集めて分析、問題発生前後の原因を突き止めることにフォーカスしていた。

 Marvis Miniでは、常時稼働する小さなMarvisが無線APやスイッチなどに配置され、よりユーザーの端末に近いところでコンテキストを学習、検証やシミュレートすることで、問題が起きる前にリスクを減らす。Marvis Miniで得られた新たなデータはクラウドのMarvisにも送られ、既存のAIモデルも強化される。

 Marvis Miniは、Marvisのライセンス内で提供され、追加のソフトウェアやハードウェアも不要だ。

Marvis Miniのイメージ、小さなMarvisが無線APやスイッチなどに配置される

Marvis Miniの特徴

 さらに、AIOpsの対象範囲も拡大していく。Mist AIは当初、アナログな無線の見えない部分を、クライアントやシステムのデータなどを相関分析することで可視化してきた。その対象範囲を、有線のスイッチやSD-WAN、NACに、そして今回、本格的にデータセンターにまで広げる。

 具体的には、ジュニパーが提供するデータセンターネットワークの設計、導入、運用を自動化する「Apstra」とMarvisを組み合わせる。Apstraはマルチベンダーに対応しているため、マルチベンダー環境が多いデータセンターにも同社のAIOpsを展開することができる。

 2024年1月9日(米国時間)には、Hewlett Packard Enterprise(HPE)による140億ドル(約2兆円)でのジュニパーの買収が発表されたが、HPEの狙いは“AIインフラ”“AIOpsの強化”であった(参考記事:HPEのJuniper巨額買収、狙いは「AIインフラ」と「AIOps」)。上田氏は、「現時点ではまだ何も決まっていないものの、大きな方向性としてAIが中心になることは明確に言及されている。統合された事業部はジュニパーのCEOであるラミ・ラヒム(Rami Rahim)が統括するため、Mistのソリューションに対する期待を感じている」とコメントした。

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