日本は超高齢社会に入り、高齢者の健康をいかに保つかが問題になっている。高齢者の「転倒」防止は重要課題である。東京理科大学の山本征孝助教、竹村裕教授らの研究チームが反応性姿勢制御を良好に保つための訓練用ウェアラブルデバイスが開発され、大きな注目を浴びている。やがてスポーツ分野にも利用が拡大するのではと注目されている。
反応性姿勢制御の機能低下を予防
超高齢社会に入った日本では、高齢者の健康をいかに維持するのかが重要な課題だ。高齢者になると、転倒することが多くなる。これは筋力が弱る、視力が低下するなど組織や感覚器官の老化によって、総合的なバランス感覚が低下するためと考えられる。併せて、バランスを失ったときに復元する力も失われているからだ。
実際に、毎年、高齢者の約4人に1人が転倒していると報告されている。そこで転倒による事故を減らすためには、バランス能力を低下させないことが鍵になる。予期せぬ外部からの刺激の後に姿勢の安定性を回復する能力のことを「反応性姿勢制御」という。これは、転倒の予防などで大きな役割を果たすバランス機能の重要な要素のひとつだ。
人間に備わった反応性姿勢制御の機能を低下させないことが、転倒を予防することにつながると考えられる。
東京理科大学創域理工学部機械航空宇宙工学科の山本征孝助教、竹村裕教授に加え、同大学大学院創域理工学研究科機械航空宇宙工学専攻の芳川大輝氏(修士課程2年、取材当時)、鷲田拓氏(修士課程1年、取材当時)、県立広島大学保健福祉学部理学療法学科の島谷康司教授の研究グループは、このバランス感覚を低下させないよう訓練するためのウェアラブルデバイスを開発。このデバイスを用いた短時間の訓練を行なうことに高い効果があることを確認した。
非常にコンパクト、短時間の訓練でいい
このデバイスが画期的なのは非常にコンパクトなことだ。従来は、大型で高価な治療器具や医療専門家の指導を必要としていたが、これまでのように被験者をワイヤーで中空に釣るような大掛かりな装置は必要なく、コストもかからない。そのため、使用者が専門家の指導なしで自宅で使用できる可能性も高い。
ウェアラブルデバイスを構成するのは、
・制御モジュール
・電磁弁
・人工筋
・携帯用の小型ボンベ(自転車の空気を入れるものや炭酸水を作る際に用いられるもの)
であり、これをスマートフォンでコントロールする。
人工筋が伸び縮みして、体に不意の姿勢変化を与える。体は転倒しないように姿勢を制御する――4分の訓練を4セット、16分間の訓練を行うと、反応性姿勢制御が有意に回復するのだ。
健常者での効果は確認され、現在同チームは病院などと共に、患者さんの了解をとりながら神経系の障害を持つ人、転倒骨折を経験した人への試用を開始している。
良好な結果が得られれば、高齢者の転倒予防など、医療や福祉分野での活用はもちろん、姿勢制御能力の改善‧反応性の向上を通じた健康増進にも活用できる。さらには、バランストレーニングに用いるなど、スポーツ領域への展開も期待できる。
まずは、効果の立証された「高齢者の転倒防止の訓練」が確立されることが第一のハードルになるだろう。これが達成されれば、医療分野での利用が促進され、スポーツ分野での利用にもつながっていくことが期待される。