生成AIでカスタマーサクセスを実現する業務特化型クラウドサービス「Kasanare」
ChatGPTの登場以来、生成AIを利用した資料の自動作成をはじめとする業務効率化や生産性向上が期待されており、企業では生成AIを安全に活用するためのセキュリティ対策や規約策定といった環境構築が進められている。導入支援サービスも増えるなか、回答精度の高さで多くの大手企業からの依頼を受けているのがカサナレ株式会社の「Kasanare」だ。カサナレ株式会社代表の安田喬一氏にKasanareのサービス概要と高精度を実現する仕組みについて伺った。
生成AIの環境構築から精度の調整、運用まで、オールインワンで提供
カサナレ株式会社は、生成AIを用いた業務特化型クラウドサービス「Kasanare」を開発する2022年8月設立のスタートアップ。Kasanareは、企業向けに生成AIの環境構築に加えて、社内ヘルプデスクやコールセンター、カスタマーサクセスといったサービスの自動化までをトータルで支援するのが特徴だ。
安田氏は、「AIを作るうえで環境構築はごく一部。人の学習に例えると、環境構築は塾に入り、教科書がある状態。結果を出すには努力して勉強し、維持するための継続的な学習が必要です。AIも同様に、環境構築後に、精度を調整し、常に最新の情報へとアップデートする運用が大事になります」と説明する。
コパイロット機能を実現するためのエージェント開発に強み
同社ではChatGPTが注目される以前からカスタマーサクセスを支援するAIサービスの開発に取り組んできた。多くの企業が問い合わせ対応のコスト削減にチャットボットを導入しているが、チャットボットだけでは人のサポートの代わりとしては力不足だという。顧客の要望は個々に異なり、顧客満足度を上げるにはそれぞれの顧客に合った対応が求められるからだ。
企業サイトのチャットボットに質問したけれど、満足した答えが得られなかった経験はないだろうか。あるいは、どのように質問すればいいのかわからず、問い合わせをあきらめてしまうこともある。人対人のサポートであれば、あいまいな質問であっても、その顧客の特徴などの周辺情報から何が知りたいのかを推測して提案できるが、現状のAIがそこまで察するのは難しい。
同社が想定するのは、コパイロット(副操縦士)のようにひとりひとりの顧客に寄り添うAIカスタマーサポートだ。Kasanareは、ChatGPTの前身であるGPT-3で開発を進めていたこともあり、不足する情報を補うために正解に近いカンニングペーパーを作る、というアプローチを取っている。具体的には、質問文とともにエージェントが補足情報を与えることで、生成AIに人間と同等の推論力を持たせる、という手法だ。
「人はあいまいな表現をしがちです。例えば、『今日のごはんは何でもいい』と言っても、本当にどんな料理でもいいわけではありませんよね。好きな料理や手持ちの材料といった周辺情報を知っているからこそ、期待どおりの料理を作ってもらえる。この情報を補足するのがエージェントです」と安田氏は説明する。
また、生成AIはしばしば嘘をつくと言われる。ハルシネーションと呼ばれるこの現象は、正解が見つからない場合に似たものを返すことで起こる。エージェントには、誤った答えを返さないような制御情報も組み込まれる。
こうしたエージェント開発のノウハウを持ち、早期にサービス運用できるのが同社の強みだ。現在、ノーコードでエージェント開発できる体制を構築しており、約50社からの依頼を10人体制でこなしているとのこと。
サービス運用では、AIのアップデートや企業側の情報更新などに応じて最新の状態に保っていく必要がある。Kasanareは、これらのアップデート作業もオールインワンで提供しており、運用管理コストが抑えられるのもメリットだ。
料金は、初期開発費がスタンダード150万円とプロ250万円の2プラン。ランニング費用はアルゴリズム最適化などを含み月額32万円ですべて運用を任せられる。リアルタイムデータ更新のニーズに合わせて、エンタープライズプランも用意されている。
Kasanareを利用している企業は約50社にのぼっている。企業ごとの要望に合わせてサービスをオーダーメイドで開発し、金融機関向けの社内マニュアル検索AI、不動産系商業施設のアバター接客、マーケティング会社向けの画像による法令チェックAIなど、幅広いサービスを手掛けている。
導入した企業からは、その精度の高さに驚かれるという。実際の効果として、Broad WiMAXサイトのAIチャットの導入では、従来のチャットボットに比べて、申し込みフォームへのコンバージョンが初月で5倍以上になったそうだ。
コパイロット機能の例として、PCパーツのECサイトのチャットボットに商品画像をドラッグ&ドロップするだけで、マイページに紐づいた手持ちのパソコンのスペック情報と比較し、自分のPCで使えるパーツかどうかを教えてくれるデモを見せてくれた。また、正しく動作するパーツのレコメンドやわからない用語の解説もしてくれる。質問を入力しなくても、画像やリンクの選択をきっかけに解説してくれるのはありがたい。
「コパイロットはエージェントをしっかりと作り込まないと実現できない機能。当社以外でこの機能をSaaS提供しているところはありません」と自信を見せる。
安田氏がKasanareで目指しているのは、カスタマーサクセスの実現だ。
「企業はお客さんのデータをたくさん持っているのに、十分に活かしきれておらず、ユーザーはイライラすることが多い。イライラはいざこざのきっかけにもなるし、製品のトラブルは家庭の不和にもつながる。これをAIが解決できれば、いい社会になるんじゃないかな。チャットボットですごい体験ができるわけじゃないけれど、イライラせずに旅行の予約ができたり、買い物しやすいサービスにすることが、我々の目指すカスタマーサクセスです」と語ってくれた。