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業務を変えるkintoneユーザー事例 第213回

高難度のDX推進は“本当のアジャイル”で

一度は失敗したシステム化 ― KADOKAWAの電子書籍事業におけるkintone導入の軌跡

2024年02月07日 09時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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大容量データはクラウドとの組み合わせで解決、入口はkintoneで統一してとにかく使いやすく

 続いて、M-SOLUTIONSの代表取締役社長 CEO 植草学氏が登壇。今回のシステム構築のポイントを説明した。

M-SOLUTIONS 代表取締役社長 CEO 植草学氏

 M-SOLUTIONSは、2000年にジョイントベンチャーで生まれた、SBテクノロジー子会社。事業の7割がSIとなり、その半分がkintoneのカスタマイズ開発だ。最近は、電子申請サービスといった自治体DXの事業にもチャレンジしている。

 これまで同社が手掛けたkintoneの開発案件は、実に1000件以上。kintoneのプラグインも手掛けており、例えば検索を便利にする拡張プラグインや、掲示板に未読既読のチェックをつけるプラグインなどを提供する。2023年10月には、kintone内で生成AIを実装する「Smart at AI for kintone Powered by GPT 」をリリースした。

 今回のシステム構築では、まずはフェーズ1となる最小限のシステム構築をM-SOLUTIONSが一括請負。その後の改善において追加されるフェーズ2、3の要件はポイント制のアジェイル開発で対応する方式をとった。

DX伴走体制を確保した上でアジェイル型の開発でスピーディに対応する

 KADOKAWAが検討時に懸念していたよう、電子書籍やフェアに紐づく膨大なデータの扱いに関しては、大規模データ管理をAWSで構築することで解決した。「大量データの対応はkintoneだけでは難しく、ハイブリッド構成をとっている。フロント側は、マスターデータの管理も含めてkintoneが担っている」と植草氏。AWSはKADOKAWAのリクエストもあり、すべてをサーバーレスで構成した。

システム構成イメージ

 システム構成のポイントは、利用者にどこがAWSのクラウドだかを意識させず、kintoneのUIのみで利用可能にしたところだ。中身はAWSの部分であっても、UIをkintoneに似せるようカスタマイズしている。

 何千、何万件のマスターデータのやり取りはkintoneだけでは難しく、Excelでダウンロードして編集・確認し、再度Excelでアップロードするという、Excelをインターフェイスにしたやり取りを実装。なおAWSのDBは、同社のSmart atシリーズでkintoneと同期している。

利用者がAWSのクラウドを意識させない、使いやすいkintoneのUIに統一

高難度のDXの推進は“本当のアジャイル”で

 順調に開発は進み、2023年6月にシステムが立ち上がった。対総予算の86.6%に収まる形でプロジェクトは進行しているという。フェーズ1のリリース後、5つの追加機能の開発もしており、引き続き機能の拡充を図っていく予定だ。

kintoneの開発と結果、想像以上に順調に完了

 システムは切り替えを経て、完全に稼働を開始したのは2023年8月、大型フェア“ニコニコカドカワ祭り”にもなんとか間に合った。

 ここまでの利用における社内アンケートでは、新しいシステムにメンバーも戸惑っていたため厳しい評価になると思われたものの、高評価が得られている。

 またシステム化により、2か月でメンバー一人あたり約36時間、トータルでは約4353時間の削減効果を得られ、当初の目標を既に92.3%達成、予想を超える成果が得られた。

計画達成状況、2か月で既に計画達成が狙える状況に

 齋藤氏はまとめとして、“スピードと見極め”が検討段階で最も重要だとし、時間に伴い業務も課題も変わってしまうことを改めて強調した。そして、システム側に丸投げするのではなく、相互の事業や要望を翻訳できる人材を相互に出し合うことも重要だと補足した。また、今回M-SOLUTIONSにフェーズ1を一括請負してもらい、短期間で土台を作ったことが、その後のアジャイルにスムーズに移行できた要因だという。

 最後に齋藤氏は「高難度のDXは本当のアジャイルで進めないとダメ。とにかく速く、繰り返しやる。現場の要望はどんどん変わっていく。要望に応じてつくるモノやつくる順番を変えられるというのは素晴らしい武器になる」と講演を締めくくった。

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