HPEのネリCEO、ジュニパーのラヒムCEOがそろって会見、「ネットワーク市場の変革」を宣言
HPEのJuniper巨額買収、狙いは「AIインフラ」と「AIOps」
2024年01月11日 14時45分更新
Hewlett Packard Enterprise(HPE)とJuniper Networks(ジュニパーネットワークス)は、2024年1月9日(米国時間)、HPEがJuniperを買収することで合意したことを発表した。買収金額は140億ドル(約2兆円)というビックディールだ。取引完了は2024年末から2025年初頭を見込む。
翌1月10日にはHPE CEOのアントニオ・ネリ氏、Juniper CEOのラミ・ラヒム氏が出席した記者説明会がオンラインで開催された。ネリ氏はJuniper買収の狙いを説明したうえで、両社の統合により「ネットワーク市場を変革する」と意気込みを見せた。
Juniperはスイッチ、ルーターなどのネットワーク機器専業ベンダーだ。今回HPEが提示した買収金額は、Juniperの前日株価に32%のプレミアムを乗せた1株40ドル。買収発表後、Juniperの株価は25%程度上昇している。
ネリ氏は「2社が統合することで、ネットワーク市場を破壊する」と、強い言葉で宣言する。「HPEは新しい会社に生まれ変わる。すべてにおいてネットワーキングはインフラの中核をなす」(ネリ氏)。
2015年のHPE分社化以来、ネリ氏はCEOとして“エッジからクラウドまで”をカバーするプラットフォームの構築を主導してきた。ネットワーク分野でも、2015年にAruba Networksを27億ドルで買収したのを皮切りに、SD-WANのSilver Peak、SASEのAxis Securityなどを買収し、プラットフォームへの統合を進めてきた。
「AI時代を支えるインフラ」のネットワークレイヤーを強化
今回の買収の重要な背景になっているのが「AI」だ。ネリ氏は今年7月開催の「HPE Discover 2023」においても、重要戦略のひとつとして「AI」を挙げていた。今回の説明においても「AIが中心のアジェンダ(戦略)を加速させる。AIがもたらす大きな変曲点の波に乗る」と述べている。
説明の中で両氏は、大きく2つの側面からAIに触れた。
ひとつは「AI時代を支えるインフラ」だ。顧客企業におけるAI活用ニーズが急速に高まっており、そのための新たなインフラ構築も求められている。
HPEでは得意とするコンピュート(サーバー)に加え、データレイヤーを構成するソフトウェアスタック「HPE Ezmeral」を擁している。ネットワーキングレイヤーにもエッジやデータセンターに強みを持つHPE Arubaがあるが、より大規模なネットワークに強みを持つJuniperの技術をここに加えることで、ネットワーキングレイヤーを補強する狙いだ。
買収後は、ラヒム氏がHPEのネットワーキングチームを率いる予定となっており、強化されたネットワークレイヤーで、ハイブリッドクラウドやAIネイティブなサービスに対するニーズに応える。
ネリ氏は、今回の買収によって「現在のHPEが対応できないような、大規模なインストールベースも手がけることができるようになる」「ベンダーとして、最も完全なネットワークポートフォリオを持つことになる」と述べたうえで、ポートフォリオのビジョンを次のように語った。
「大規模にAIを活用できる最新のアーキテクチャを、段階的に提供していく。これにより、すべての顧客体験がHPE GreenLakeプラットフォームに載る。ハイブリッドクラウドを現実のものにするデータファブリックがあり、(AIの)モデルのトレーニングからファインチューニング、推論といった処理を、汎用からスパコンまであらゆるタイプのコンピューティング(リソース)でカバーできる。新たに構築するネットワークファブリックはその中心となり、より高速なデータ分析などを可能にする」(ネリ氏)
さらにネリ氏は「HPE GreenLakeのコアビジネスはコンピュートと思うかもしれないが、ネットワークだ」と述べ、アーキテクチャが複雑化する中ではネットワークの柔軟性や管理性が必要になること、HPEとJuniperの統合によって優れたコントロールプレーンが提供できることなどを強調した。
「Mist AI」と「Aruba Central」統合でAIOps強化、セキュリティでも連携
もうひとつの狙いは「ネットワーク運用側でのAI活用」、つまりAIOpsの強化だ。
Juiperは、ネットワーク運用管理の自動化や負荷軽減を図るAIOpsソリューション「Mist AI」を擁している。このMist AIと、HPEのクラウド型ネットワーク管理システム「Aruba Central」との統合を進めることで、「それぞれが単独では対応できなかったユースケースに対応していく」とネリ氏は説明した。
さらに両氏は、セキュリティ分野での連携についても言及した。
HPE Arubaでは、ネットワークセキュリティの取り組みをSASEなどに拡大させている。一方のJuiperは、ファイアウォールの「SRXシリーズ」や脅威インテリジェンスの「Juniper Advanced Threat Prevention(ATP)」といったセキュリティポートフォリオを持つ。今後、たとえばHPE ArubaのSD-WANとJuniperのSRXのように「クロスセル、アップセルのチャンスは大きい」とネリ氏は期待を語る。
ネットワーキング市場では、共通のライバルであるCiscoとの戦いがある。Ciscoは2023年にSplunkの買収計画(280億ドル)を発表し、オブザーバビリティ分野の強化に動いている。
Ciscoとの差別化についてラヒム氏は、「HPE Arubaは市場シェアを伸ばしており、JuniperもMistなどのAIネイティブ機能で先行してきた。HPE、Juniperの2社が統合することで、顧客はアーキテクチャ面での柔軟性が得られ、重要なユースケースを支えることができる。AI時代のデータセンターのチャンスを獲得していく」と語る。
今回の買収は、HPEの販売/SIパートナーにとっても大きなチャンスになると、ネリ氏は述べた。現在、HPE Arubaのビジネスの95%はパートナー経由だという。「HPEには現在、世界に20万社以上のパートナーがいる。Juniperのポートフォリオが加わることは大きなチャンスになる」(ネリ氏)。
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大型の買収が必ずしもうまくいくとは限らないが、会見の中でネリ氏は、今回のJuniper買収に対する自信を隠さなかった。事実、Arubaのビジネスは2015年の買収以来、およそ3倍の規模に拡大したという。ネリ氏は、買収成功のポイントとして「顧客エンゲージメントをシンプルに維持し、壊さないこと」「長期的な戦略ビジョンとアーキテクチャを中心に据えること」の2点を挙げたうえで、「JuniperもHPEもエンジニア中心のカルチャーを持ち、顧客を大切にする企業だ」と、両社の相性の良さをアピールした。