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印南敦史の「ベストセラーを読む」 第19回

『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(黒栁桂子 著、朝日新聞出版)を読む

「コロッケが爆発しました」刑務所の受刑者たち、“クサくないメシ”作りに奮闘

2024年01月04日 07時00分更新

文● 印南敦史 編集●ASCII

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「獄旨ドーナツ」レシピはいかが

 なお、刑務所なのでもちろん決まりごとも多く、その決まりが生まれた“理由”も独特。それもまた、笑いを誘う要因として機能する。

スーパーのお惣菜コーナーにあるような業務用食材に、小売りパッケージ用のシールが入っていることがある。「たこやき」とか「大学いも」とかイラスト入りのシールも炊場には入れないように言われている。なぜかと聞くと、
「遊ぶから」
 とのこと……。初めて聞いたときは「大の大人がシールで遊ぶ?」と、驚いたが、今なら容易に想像できてしまう。娑婆感のあるシールは、彼らの生活に刺激を与えるものなのだ。例えば、「肉」と書かれたシールがあったとしたら、間違いなくおでこに貼って「キン肉マン」ごっこをするだろう。(37ページより)

 もちろん大前提として、犯罪は許されてはならない。しかしその一方、忘れるべきでないこともある。犯罪を犯してしまった人にもそれぞれの人生があり、その道のりのどこかで人間らしさを身につけてきたということだ。本書に出てくる受刑者たちがどこか憎めないのも、そんな理由があるからに違いない。

 また、どんな人にも食べる権利はある。そして食べた人は、少なくとも食事のために与えられた時間内はささやかな幸せを感じることになるはずだ。だからこそ、著者もこの仕事にやりがいを感じるのだろう。

 昔から刑務所の食事は「クサいメシ」と言われてきた。クサいメシを作るなんて管理栄養士として、やりがいはあるのだろうか……などと最初は思っていた。ところがどうよ、べつにクサくないし! とりたててまずいわけでもない。自分で言うのもなんだが、おいしいメニューだってもちろんある。(224ページより)

 ちなみに本書には、「いかフライレモン風味」や「獄旨ドーナツ」などの人気メニューのレシピもついているので、興味がわいたらつくってみてはいかがだろうか?

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筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。
1962年、東京都生まれ。
「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。
著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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