魚の品質向上を目的に、ソフトバンクをはじめとする企業が協力
ソフトバンクは、魚の価値の向上を目指し、AIを活用した魚の鮮度やうまみの測定手法の確立に向けた品質規格標準化プロジェクトを開始すると発表した。なお、このプロジェクトを開始するにあたって、赤坂水産、愛媛県産業技術研究所、フィード・ワン、ライドオンエクスプレスの4社とともにコンソーシアムを設立した。
さらにこのプロジェクトは、愛媛県のデジタル実装加速化プロジェクト「トライアングルエヒメ」の2023年度の採択案件とのこと。
魚の価値が上がり、品質規格を標準化させることのメリットは、生産者側では魚の単価があがる根拠になり、消費者側では安心して品質の高い魚を購入できること。両者にとってメリットがあると話す。
美味しさの基準として、果物の糖度や牛肉の等級、お米のランクといったものがあるが、実は魚にはその基準がない。価格は魚種と重量で決められている。しかし、2022年からはK値という鮮度を測る手法があるのだが、計測するまでに鮮度が落ちてしまうなどの問題があってなかなか一般化はしていないという。また、物流の2024年問題(ドライバー不足による輸送力低下)により、長距離の鮮魚の運搬が困難になるのでは、という懸念点もある。
もともとソフトバンクは第1次産業のスマート化を研究していた
ソフトバンクは2020年から第1次産業のIoTやAIを用いたスマート化の研究開発に取り組んでおり、過去にはチョウザメのスマート養殖研究プロジェクトも始めている。ソフトバンク IT統括IT&アーキテクト本部 アドバンズドテクノロジー推進室 室長の須田和人氏によると、日本は養殖業が世界に比べて遅れているおり、天然資源依存だと安定した漁獲量を確保するのが難しく、今後は日本としても養殖業に注力していくべきと話した。
ソフトバンクとしては生産、流通、輸出の3つの分野で産業の再定義を目指すという。
まずはマダイを使って品質標準化を目指す
これらの課題を解決するには、美味しい冷凍魚を作り、品質を落とさずに輸送しなければならない。そのため、まずはマダイをテーマにおいしい冷凍魚の規格作りと測定方法、そして品質を落とさずに輸送することの確立を目指す。
では具体的にどうやって計測するのか、ソフトバンク IT統括IT&アーキテクト本部 アドバンズドテクノロジー推進室 研究責任者(PI)の石若裕子博士によると、分光センサーというハンディーセンサーでマダイの鮮度や栄養分の分析、健康指標をリアルタイムに測定する方法を開発し、データ駆動型の冷凍魚の決定プロセスと、最適冷凍魚のマシンラーニングモデルの実現を目標としているとのこと。
ただ、これらのすべてをソフトバンクだけで解決するのは不可能なので、様々な企業と一緒に取り組むコンソーシアムの設立に至ったようだ。
発表会で登壇した赤坂水産 取締役の赤坂竜太郎氏によると「1985年と比べると世界の養殖魚の生産量は10倍まで増加している。しかし、日本を見ると天然魚は7割減、養殖魚は10%減になっている。日本の水産業は素晴らしいのに、この状況は生産者である我々としては不甲斐なく思っている」と語った。また、AI技術を用いたコミュニケーションの加速により、水産業の問題点を解決していきたい、AGI(Artificial General Intelligence、人工汎用知能)に乗り遅れないようにしたいとのこと。
現在はマダイで研究を進めているが、将来的にはすべての魚種について規格作りと測定方法の確立をし、日本の魚の品質規格標準化を進め、高品質な魚の国内外への流通拡大により日本の水産業の活性化につなげていくよう、ソフトバンクを始めとするコンソーシアムが一丸となって進めていくという。
日本人にとって、美味しい魚が食べられるのはこの上なく幸せなこと。品質標準化がすすみ、遠方でも変わらぬ美味しさの魚が食べられるよう、このプロジェクトに期待したい。