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法令順守やプライバシー配慮の外側に広がる「透明性」「信頼」「倫理」などに注目

カメラ画像の利活用、「グレーゾーン」に対応するパナソニック コネクトの取り組み

2023年12月12日 08時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 パナソニック コネクトは、2023年12月5日、カメラ画像利活用における企業のプライバシーガバナンスをテーマとしたメディアセミナーを開催した。

 AIの発展もあり、昨今では顔認識搭載カメラがさまざまな現場で活用され始めている。たとえば小売店では、顧客の動きや商品の売れ行きを分析、接客サービスの向上や業務効率化につなげたり、万引き防止に取り組んだりといった活用事例がある。

 一方で、JR東日本では、2021年に顔認識カメラで服役した人や指名手配犯、不審者を防犯対策で検知する取り組みを始めたが、プライバシー上の恐れや不安が原因となって、最終的にはサービスを停止する判断に至った。

 このように、カメラ画像の利活用は有益な一方で、プライバシーへの配慮は避けられず、炎上やブランド棄損などを引き起こす可能性もある。

 メディアセミナーでは、カメラ画像の利活用とプライバシー配慮に関する現状と課題、パナソニック コネクトの取り組みについて説明された。

顔認識カメラ利活用、事業者の対応の現状

 明治大学 教授で、個人情報保護委員会の有識者検討会委員や経済産業省・総務省のワーキンググループ座長を務める菊池浩明氏は、プライバシー配慮につながる顔認識搭載のカメラの応用分野は3つに分類されると説明する。

 1つ目はスマートフォンのロック解除といった「利用者認証」、2つ目は前述したJR東日本のような「防犯」、3つ目は小売業などで活用が進む「属性推定」だ。それぞれで、顔認識に対する同意の必要性の有無も異なる。

顔認識カメラの応用分野、それぞれの定義や同意の必要性の有無

 利用者認証は1対1の認証であり、あらかじめ本人の同意を取る必要がある(オプトイン)。防犯は、顔画像をもとに検出する1対nの認証となり、オプトアウト(事後に個人情報の提供停止を求められた際に対応)の形で同意が取れている。そして、属性推定は、不特定多数を対象に自動的に年齢や性別などの属性を推定するもので、同意は不要となる。菊池氏は「事業者にとって対処方法が違うということが、しばしば炎上を引き起こしたり、生活者の不安を引き起こすことに繋がる」と説明する。

明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 教授 / 経済産業省・総務省「IoT 推進コンソーシアム データ流通促進 WG カメラ画像利活用サブWG」座長 菊池浩明氏

 事業者対応の基本となるのは、個人情報保護法だ。個人情報の取得・利用において、利用目的をできるだけ特定し、その目的範囲内でのみ活用するというのが基本的な対応となる。

 一方で菊池氏は、ひとくくりに「個人情報」と呼ばれるものにもさまざまな種類があると説明する。

 まず、年齢や性別といった、それだけでは個人を識別できない属性情報やプライバシー情報は、個人情報より広い「パーソナルデータ」にあたる。「個人情報」は、名刺の束や顔画像といった個人を識別できる特定の情報のことを指し、取得する際には通知義務が発生する。

 そして、個人情報をデータベースに登録し、検索できるようにしたものが「個人データ」となり、さらにその中で開示や訂正の権限を持つものは「保有個人データ」になる。防犯対策やリピート分析などの目的で個人を特定する“顔の特徴量”もこの保有個人データに該当し、個人情報取扱事業者の安全管理措置義務に該当する。

パーソナルデータ、個人情報、個人データ、保有個人データのそれぞれの範囲

事業者は法規制順守に加えて透明性の確保を

 個人情報保護委員会は、JR東日本の例のような公共空間での利活用における課題を契機として、犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会を組織。長期にわたり議論を重ね、2023年の頭、報告書を提出している。有識者討論会では、登録基準・保有個人情報に対して、透明性の確保の重要性を議論している。

 ここでいう透明性とは、生活者に自身の顔のどんなところが登録され、どんなリスクがあるのか、それらを明確に理解してもらうための取り組みを指す。例えば顔識別カメラは、「従来型防犯カメラ」、「属性識別AIカメラ」、「犯罪者検出カメラ」の3種類に分類でき、目的や取得している内容も異なる。「どのカメラなのか、見ただけで分からないと透明性が満たされているとはいえない」と菊池氏。

菊池氏の解釈における顔識別カメラの3分類

 また、民間の有識者を中心に組織されたカメラ画像利活用サブワーキンググループが作成した「カメラ画像活用ガイドブック」では、個人情報保護法により守られるべき範囲に加えて、プライバシー保護の観点で考慮すべき範囲にまで、事業者が配慮すべき適用範囲を拡げている。

 有識者検討会報告書とカメラ画像活用ガイドブックの違いは、前者が防犯に特化しているのに対し、ガイドブックでは商用事業者を対象としている点だ。「双方を統合して参照することで、全方位的な配慮ができる」と菊池氏。

カメラ画像活用ガイドブックにおける適用対象

 菊池氏は、事業者に対して、「法規制を順守するのは当然として、個人情報の登録基準を明確にし、安全管理措置の透明性を高め、生活者の対話を重ねて不安を取り除く企業姿勢を示してほしい」と提言。また、「生活者もぜひ、自分の権利とサービスから生じるリスクを正しく理解し、技術を過度に恐れないでほしい」とする。そして最後に、「国は、生活者が正しい選択をできるよう、事業の透明性を高める様に指導し、カメラ画像やAIをはじめとする技術の利活用を進めてほしい」と総括した。

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