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羽田空港があるのに“素通り”される大田区、インバウンド観光客に立ち寄ってほしい

「都内最多の銭湯」を観光資源に! 大田区でデジタルSENTOツアー体験

2023年12月03日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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今回は大田区の銭湯に行ってきた話です(写真は改正湯 Webサイトより引用)

 銭湯もサウナも大好きなアスキー編集部の大塚と申しますこんにちは。熱いお風呂にゆっくりつかりたくなる、寒い季節になりましたね。

 さて筆者は先日、東京・大田区で開催されたインバウンド観光客向けツアー「"SENTO" New Entertainment Experience Tour」の体験会に参加してきました。ツアー名を直訳すると「銭湯の新しいエンターテインメントを体験するツアー」。さらにプレス向け資料には「大田区デジタル銭湯体験ツアー」という言葉もあります。

 銭湯で「エンターテインメント」? 「デジタル」? なんで大田区なの? ……謎はいろいろと尽きませんが、ひとまずわからないままで体験会に出かけました。

インバウンド観光客が“素通り”してしまう大田区の悩み

 このツアーは、国際線が発着する羽田空港第3ターミナルの隣駅(天空橋駅)にある「HANEDA INNOVATION CITY」からスタートします。今回は、ここでプレス向けの説明会が行われました。

説明会に出席した、EYストラテジー・アンド・コンサルティング 公共・社会インフラユニット パートナーの中田博之氏、日本旅行 ソリューション事業本部 公務・地域事業部 チーフマネージャーの久下浩明氏、ABAL 代表取締役の尾小山良哉氏

 このツアーが企画された背景として、大田区の観光産業が抱える特殊事情があります。

 大田区には羽田空港(東京国際空港)があり、巨大な“日本の玄関口”のひとつとなっています。つまり、海外からたくさんのインバウンド観光客が、大田区にやって来ているわけですね。

 しかし現状では、多くの観光客が羽田空港からそのまま都心などへ移動してしまい、大田区は“通過される街”になってしまっています。大田区の推計を見ても、大田区全体の観光消費額のうち6割以上を羽田空港が占め、それ以外の観光ビジネスはあまり盛り上がっているとは言えない状況です。

 さらに観光客へのアンケート結果を見ても、大田区は交通の便は良いものの「観光地としての印象が高くない」。たしかに東京に住んでいる筆者でも、大田区に観光地のイメージは持ってないですね……。

大田区には羽田空港があるものの、観光客が“素通り”してしまっているのが現状(新大田区観光振興プラン策定委員会資料より抜粋)

半数近くが天然温泉あり! たくさんの銭湯を新たな観光資源に

 インバウンド観光客が大田区内に立ち寄ってくれるような、何か新しい観光資源はないものか。そこで着目したのが「銭湯」です。

 なぜ銭湯なのか。筆者も知らなかったのですが、実は東京都内で一番銭湯が多くあるのが、ここ大田区なのです。その数は現在33湯、しかもその半数近い14湯が天然温泉(!)という贅沢さです。大田区の銭湯組合(大田浴場連合会)では“銭湯特区”というキャッチフレーズでアピールしていますが、たしかに新たな観光資源にできそうですね。

大田区の公式PRキャラクターの「はねぴょん」の手にも、実は風呂桶(=銭湯)が。なお右に写っているのは大田区内で醸造されている「黒湯ビール」。美味しかったです

 しかも近年のインバウンド観光では、単なる消費ではなく「体験」が人気を集めています。江戸時代から続く東京の大衆文化のひとつとして、インバウンド観光客にも銭湯を体験してもらいたい。そう考えたわけです。

 ただし、海外から訪れる観光客にとって、銭湯は敷居が高く感じられる場所でもあるのは事実でしょう。そもそも、他人と入浴する公衆浴場の文化がない国の方もいます。さらに、銭湯は温泉旅館とは少し違って地域住民も利用する場所ですし、入浴するにもマナーやルールが難しそう……。そうやって尻込みしてしまうのも無理はないところです。

 そんなわけで、インバウンド観光客にも気軽に銭湯を体験してもらえるように、今回のツアーが企画されたわけです。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(以下、EYSC)と日本旅行、ABALの3社が、大田観光協会や大田浴場連合会の協力を得ながらプロジェクトを進めました。

バーチャル江戸っ子に導かれて歴史やマナーを学び、ツアーに出る

 ツアーはHANEDA INNOVATION CITYからスタートします。ツアーカウンターで受付を行うと、QRコード入りのパスポートが発券されます。スマートフォンでQRコードを読み取ると、ツアーのWebアプリが起動します。これが「デジタルパンフレット」となって、位置情報と連動しながらツアー全体をガイドします。

スマートフォンでQRコードを読み取り、ツアーを開始

 続いて、VRコンテンツを使って銭湯文化の基本、そして入浴マナーの基本を伝えます。VRゴーグルをかけると“風呂好きの江戸っ子”が3Dキャラクターとして登場し、銭湯の歴史を紹介したり、バーチャル銭湯の中でマナークイズを出題したりします。ちなみに、VRで再現されたバーチャル銭湯の空間感、あの天井が高くて広いお風呂場の感じはなかなかリアルでした。

VRゴーグルをかけてまずはバーチャル銭湯へ入湯。風呂好きの江戸っ子キャラが登場してナビゲートしてくれます

 銭湯の基本を頭に入れたところで、貸切バスに乗り、JR蒲田駅近くにある改正湯に移動します。ここでスマートフォンのデジタルパンフレットを見ると、コンテンツが切り替わって先ほどの江戸っ子が登場しています。引き続き、道中をナビゲートしてくれるわけですね。

 このデジタルパンフレットは、ユーザーの移動に対応してより詳しい銭湯文化やマナーの紹介、蒲田駅近くにある銭湯マップ、改正湯の紹介といった具合に、コンテンツが自動的に切り替わっていきます。

 VRシステムやデジタルパンフレットの開発を手がけたABALの尾小山さんにうかがったところ、ツアー全体のリアル&バーチャル体験をひとつながりのものにするために、同じ江戸っ子キャラがナビゲートをし、リアル体験のタイミングに合わせて情報を見せる工夫をしているとのこと。なるほど。

移動するうちにコンテンツが切り替わります

ツアー全体の流れ。リアルとバーチャルを組み合わせて「一貫性」を持たせた工夫がポイント

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