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ウイングアーク1stのupdataNOW23基調講演レポート

北九州市、SMFL、清水建設、大和ハウス、東芝 5つの意思決定ストーリー

2023年11月17日 11時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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温故創新を目指す清水建設のイノベーション拠点はなぜ生まれたのか?

 3人目のスペシャルゲストとして登壇した清水建設 DXエバンジェリスト 及川洋光氏は「温故想新の森 NOVAREで見せるデジタルツインのへ挑戦」というセッションを披露。老舗建設会社である同社がDXとイノベーションに大きく舵を切った背景と成果物の1つであるNOVAREについて解説した。

 及川氏は日本航空、富士通を経て、2年前に清水建設にジョイン。「ものづくりの匠の心を持った『デジタルゼネコン』」に向けたDXを推進しており、建設業界で初の3年連続の「DX銘柄」入りを果たしている。この清水建設が作った人材育成とイノベーションの拠点が「温故創新の森 NOVARE(ノヴァーレ)」になる。

都内の潮見にある「温故創新の森 NOVARE(ノヴァーレ)」

 なぜNOVAREを作ったのか? ここに至った意思決定の背後にあるのは、シミズグループが2030年に目指す姿を描いた「SHIMZ VISION 2030」において、従来の建設業の枠を超えた新しい組織としてスマートイノベーションカンパニーを標榜しているからだ。そして、このスマートイノベーションカンパニーに向けた拠点としてNOVAREを構築し、事業構造、技術、人の3つのイノベーションを実現していくという。

 NOVAREのコンセプトは「温故創新の森」。来年、創業220年を迎えるという長い歴史の中で、故きを温ねて新しきを作っていくという思いを込めた。また、森は「エコシステム」を意味し、全5つの施設が自立しつつ、連携しあうという。施設はそれぞれ技術研究所、研修施設、交流スペース、歴史資料館で、その中心には清水建設の相談役であった渋沢栄一の旧宅が設置されている。

 NOVAREでは、さまざまなデジタル技術が活用されているが、その代表格がデジタルツインだ。複数のエネルギー源を複数の棟で最適化する「多棟エネルギーマネジメント」に加え、粒度の細かいデータの分析を可能にする「中央監視デジタルツイン」ではMotionBoardが用いられている。

 及川氏はMotionBoardを採用した理由として「BIダッシュボードの機能が優れている」「IoTデータの利用が容易」「営業のスピード力、サポート力」の3つを挙げる。「一番欲しいのはNOVAREでいっしょにイノベーションしてくれるパートナー。ウイングアーク1stはNOVAREでの期待に答えてくれた」と語る。

清水建設 DXエバンジェリスト 及川洋光氏

 さらに1987年、清水建設が世界で初めて実用化した「フリーアドレス」の概念を超え、新たに提案するのが「ノーアドレス」になる。椅子や机、本棚、植栽、コンセント、人などがすべて可変で、使いやすいように移動できる。コンセントはないので、モバイルバッテリを利用。さらに個人に合わせて空調を最適化する「パーソナライズド空調」も実践しているという。

経理出身のITリーダーが語る「顧客価値を作れるバックオフィス」

 4番手は、同じく建設会社の大和ハウス工業 執行役員 情報システム部門担当 松山竜蔵氏。同じ会社に長く勤続しながら、経理からITにシフトした松山氏のプロフィールを振り返る。

大和ハウス工業 執行役員 情報システム部門担当 松山竜蔵氏

 1988年の入社以来、20年以上に渡って経理畑だったが、J-SOXや国際会計基準の対応を進める中で、2010年から新しい会計パッケージの導入を手がける。ここからITに関する仕事が増え、2018年には正式に情報システム部門に移ることになる。「2010年からITの仕事をして思ったのは、経理は守る力がすごく強いけど、ITって攻める力がある。だから、攻める力を活かしたいなと思いました」と語る。

 ハウスメーカーとして知られる大和ハウスだが、戸建て住宅の割合は実は売上の2割を切っている。5兆円弱の売上の中で、賃貸住宅、マンション、商業施設、事業施設などがそれぞれ1兆円規模の売上を持っており、バランスのよい売上構成比となっている。また、今回田中氏が登壇を依頼するきっかけになったのは、バリューチェーンとバックオフィスという2つのデジタル化を軸にしたDXの取り組みをIRとして披露する「DX Annual Report」の存在があったという。「企業の価値をどのように伝えるのか?」と考えた際に、デジタルという切り口でレポートしたのが、このDX Annual Reportだ。

今年度のDX Annual Reportは出たばかり。DXへの取り組みをレポートしている

 DXに関しては従業員のUXを向上し、顧客への提供価値を最大化。顧客からのデータを分析し、従業員のUXに向上させていくサイクルを回していくのが基本。大事なのは、バックオフィスの業務効率が、どのように顧客価値につながるのか? 松山氏は、「お客さまへの提供価値は、バックオフィスの業務スピードに依存しているのではないか?と考えている」と指摘する。

 具体的には、大和ハウスのユーザーIDを提供し、ポータルからサービスを受けられるようにしていく。顧客が大和ハウス工業のシステムに参加するようなイメージだ。松山氏は、「価値提供につながらないバックオフィスの改善をやっても、どんな意味があるんだろうか。バックオフィスが積極的にお客さまの価値を作っていく必要がある」と指摘。コスト削減のような守りではなく、まさに攻めのITをバックオフィスから作っていくべきだと持論を披露した。

従業員満足度を向上させ、バックオフィスを改善し、提供価値の最大化を目指す

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