2023年11月13日23時、AMDはRDNA 3世代のプロフェッショナル向けGPU「Radeon PRO W7700」(PRO W7700)を発表した。Radeon PRO W7000シリーズといえば、4月にフラッグシップのRadeon PRO W7900(PRO W7900)とRadeon PRO W7800(PRO W7800)を発表し、8月にミドルレンジのRadeon PRO W7600(PRO W7600)およびRadeon PRO W7500(PRO W7500)を発表したが、その間のゾーンを狙ったものとなる。
原稿執筆時点での国内予想価格は不明だが北米ではUSD999となり、価格的にやや上(USD1250)のNVIDIA「RTX 4000 SFF Ada」と競合する。AMDによればPRO W7700はライバルを性能で上回り、かつ将来性の点でもアドバンテージがある。さらにPRO W7700は“USD1000以下では最強のプロフェッショナル向けGPU”であるという……。
本稿では、AMDが何をもってPRO W7700を最強と謳うのか、プレス向け資料をもとに簡単にまとめたものである。

米Jon Peddie Research(JPR)の調査によるプロフェッショナル向けGPUのセグメントと価格帯、そしてそれに対応するRadeon PROシリーズの対応。USD1500あたりから上がPRO W7800やPRO W7900が、USD950~USD350のミドルレンジ帯のうち、中盤より下をPRO W7600やPRO W7500がカバーする。PRO W7700はこの間隙を埋めるハイエンド帯の製品となる

PRO W7700は“USD1000以下では最強のプロフェッショナル向けGPU”であるとAMDは主張する。特に今回のプレス向けブリーフィングでは、VisualizeとEncodeに説明の力点が置かれていた
簡潔にPRO W7700のスペックをまとめると、CU(Compute Unit)は48基でメモリーバス幅256bit、16GBのECC GDDR6メモリーを搭載する。TBP(Total Board Power)は190Wで8ピンの補助電源1系統を必要とする。PRO W7700はCU数においてゲーミング向けのRadeon RX 7700 XT(RX 7700 XT)よりも少ないものの、メモリーバス幅はPRO W7700の方が広くVRAM搭載量も大きい。
さらに、PRO 7700のTBPはRX 7700 XTよりもぐっと低く抑えられている。筆者の元にはPRO W7700の完全なスペックシートは届いていないが、メモリーバス幅(=MCDの数)から考えると、Infinity Cacheは上位のPRO W7800と同じ64MBであると考えられる。

PRO 7000シリーズの一覧。真ん中が今回追加されたPRO W7700だが、下から見るとPRO W7700からVRAM搭載量が倍増するほか、DisplayPort 2.1の帯域が上位モデル並に増える
PRO W7700のアーキテクチャーはRDNA 3がベースゆえ、機能的な見どころは(何度も語られている通り)強化されたレイトレーシングやAI(AI Matrix Accelerator)関連の強化、そしてAV1エンコードやDisplayPort 2.1対応となる。性能については後述するとして、今回AMDが強調していたのはDisplayPort 2.1対応の話だ。

RDNA 3ベースのGPUなので、機能的な目新しさは、すでにない。前世代のRadeon PRO W5700やRadeon PRO W6700から見ると、レイトレーシングやAI、エンコードと映像出力が進化したということだ
PRO W7700に搭載されているDisplayPort 2.1はUHBR 13.5、すなわち54Gbps(13.5×4レーン)の広帯域伝送に対応することで、8Kどころか16Kのディスプレー環境も視野に入れている。下位であるPRO W7600もDisplayPort 2.0だが、こちらは40GbpsまでのUHBR 10(10×4レーン)と、帯域が狭くなっている。
この広帯域なディスプレー接続が可能な点が、AMDが力点を置くPRO W7700の強みのひとつだ。まだ4Kや5Kで止まっている現場でも、PRO W7700を導入することで、将来的にもっと広大なディスプレー環境にシームレスに移行できる。しかし、GeForceの場合DisplayPort 1.4aであるため、帯域はHBR 3の25.9Gbpsまで。つまり将来的なディスプレー環境への移行は制限されることになる。

DisplayPort 1.4aよりもDisplayPort 2.1 UHBR 13.5の方が帯域が太い。これによるメリットは解像度のみならずリフレッシュレートや色深度にも関係する。わざわざDisplayPort 1.4の絵をMini DisplayPortで表現しているのはさすがAMD

DisplayPort 2.1 UHBR 13.5対応だからこそ、12bit HDRカラーの出力はもちろん、8Kより上の超々高解像度出力も可能になる。16Kともなると単純計算でも4Kが16面分、8Kだと4面分のデータ量になる
同価格帯のライバルよりも1.7倍の価格性能比
PRO W7700の性能に関して、AMDは特に前世代との比較は行わず、ひたすらライバルのAmpereやAda世代のプロフェッショナル向けRTXシリーズとの比較に徹した。PRO W7700がUSD999なので、比較対象はUSD1000台のRTX シリーズとなるが、AMDが特に比較に重きを置いていたのがRTX 4000 SFF Adaだ。これとPRO W7700を比較した場合、価格性能比においてPRO W7700が1.7倍優れるという。

SpecViewPerfスコアーの内訳をRTX A5000を除外したデータで比較したもの。RTX 4000 SFF AdaよりもPRO W7700が安定して強いのは、TBPの設定の違い(RTX 4000 SFF Adaはわずか70W)もあるが、TBPの高めなRTX 4500等に対しては“Medical”や“SOLIDWORKS”で高いスコアーを獲得

「Premiere Pro」「After Effects」「DaVinci Resolve」でもPRO W7700はRTX 4000 SFF Adaに対し9%〜26%上回る。ただAfter Effectsに関してはRTX 4500に及ばないようだ

CADやBIM系である「SOLIDWORKS」「Creo 9」「CATIA」でも、USD999ドルのPRO W7700がより高額なライバルに勝利。特にSOLIDWORKSではRTX 4000 SFF Adaに対し52%高い性能を出すとしている
Radeon PRO W7700の国内販売価格や具体的発売日に関しては、正式なアナウンス待ちとなる。北米では今年Q4、つまりあまり遠くない日に発売される見込みだ。近日発売予定の「Ryzen Threadripper 7000シリーズ」「同PRO 7000 WXシリーズ」などと組み合わせてみるのも面白そうだ。
