整理収納コンサルタント・本多さおりさん/得意だった片付けや整頓を「仕事」にするまで
人生100年時代といわれる昨今、自分らしい働き方や暮らし方を模索する女性たちが増えている。そんな女性たちに役立つ情報を発信するムック『brand new ME! ブランニューミー 40代・50代から選ぶ新しい生き方BOOK vol.1』(KADOKAWA刊)から抜粋してお届けするインタビューシリーズ。今回は、整理収納コンサルタントでライフスタイルも注目を集め続けている本多さおりさんに、現在の仕事を始めたきっかけや現在のワークスタイルついて伺った。
暗中模索で見つけた「自然とやっている」得意なこと
今でこそ、整理収納アドバイザーという職種をよく目にするようになったが、本多さんが資格を取った2010年は、まだ仕事としてそれほど広く認知されていなかった。なぜ、あえてこの仕事をしようと思ったのだろう?
「それまで勤めていた会社を辞めて、何ができるのかも、何が好きなのかもわからなくて、お先真っ暗だと思っていたころでした。同期だった友人から『あなたが得意なことって片付けとか整理整頓だよね』って言われたんです。同じ時期に別の人からも『自然とやってしまっていることが好きなことなんじゃないか』って言われて、収納や片付けは勝手に体が動いてやっちゃってることだな、と気が付いたことがきっかけだったんです」
大学で社会学を学んだことから「これからは女性も総合職に就くべきだ」と考えて入った会社だった。しかし、1年ほどして体調を崩し、何度も頑張ろうと奮起するも、やはり辛くなって退職することに。経験がないなかでの転職は難しく、派遣社員として働きながら「ずっとどうしよう、何をしようと考えていた」という。そんなときに、友人からの言葉で進むべき道が見え始め、ライフシフトのきっかけとなったのだ。
「今思えば、夫の言動も後押しになっていました。資格を取る前から専業主婦ではなく、働いてほしいと匂わせてたんです(笑)。それなのに会社を辞めちゃったから、とりあえずアルバイトでもしようかと話したら『それが本当にやりたいことなの?』って言われて。当時は腹が立ちましたけど、今思えばありがたい助言だったな、と」
ブログがきっかけとなり著書や個人サービスに広がった
収納が得意かもしれない、好きかもしれないと気付いた本多さんは、ある人のブログ記事で知った資格に挑戦する。整理収納アドバイザー2級、1級と順に合格し、次のステップのコンサルタントも難なく合格。同時にブログを書き始めた。
「右も左も分からないのでやれることをやろうと思って。資格を取ったことや、自分の部屋の片付け方を書いたり、友人の家の収納をやらせてもらってレポートしたり。それがとあるメーカーさんの目に留まってホームページで書いてくださいと言われたのが、初めての仕事でした」さらに、家事代行の会社に収納の仕事はないか聞き込みをしたり、整理収納アドバイザーの先輩にスタッフを雇う予定はないか聞いたりしたものの、当てはないとわかったら、すぐに方向転換。一人で個人宅へ出向いての整理収納サービスを始めることに。経験のないなかでのスタートは、不安でいっぱいだったことだろう。
「とにかく、やるしかなかったんです。どうやればいいかわからないとか、自信がないとか言ってられないくらい、自分が進むべき道を探すことに必死でした。幸い、個人宅の訪問サービスはブログの読者さんからスムーズにオーダーが入って。とはいえ、毎回、終わるたびに『あー、今回もなんとか着地できてよかった』と思うことの繰り返しでした」
冒頭で書いたように、個人宅でのサービスはその人の暮らしに寄り添って提案をするもの。動線を考え、必要なものを選別しながら、その人の生活に合わせた収納法を一緒に考えていく。その様子もブログに記しているうちに、書籍の仕事の話が舞い込んだ。
「ぜひやってみたいし、やるしかないと思って。当時は、無印良品でのバイトも掛け持ちしていたので、全部の仕事をこなすのに無我夢中でした。まだ子どもはいなくて、20代だったから時間も体力もあったんですよね。仕事にとことん集中できたんだと思います。20代後半は収納しまくってたという記憶しかないくらいです」と笑う。
自分に向いている仕事は、やってみなければわからない
本多さんは「まず、やってみること」をとても大切にしていることが伝わってくる。どうしたらいいかわからない。もっと準備が必要かもしれない。やらずにとどまり続ける理由はいくらでもあっただろう。しかし。
「資格を取ってブログを始めてみたら、少しずつ仕事が増えてきて。スタッフを雇う余裕はなかったので全部一人でこなさなくちゃいけない状況で、一生懸命でした。ひとまずやってみて、もっと違う方法がないか考えて、またやってみる。ひたすらトライ&エラーの繰り返しだったと思います」
訪問サービスや著書のほかにも、講座やテレビ出演などの仕事も増えていった。仕事の幅が広がるにつれ、失敗や試練もあったという。ひとりでは対応しきれない物量のお宅の相談がきたこともあれば、インフルエンサー向けの講座で話したこともある。自分がやるべきことなのか、自分より適任な人がいるのではないかと考えてしまうことも。
「そもそも、人前で話すのは緊張するし、得意ではないんです。でも、無印良品のイベントに出た時には全く緊張せずにすらすら話せて。好きなことなら大丈夫だし、伝えたいことなら話せるんだと気がついてからは、そういうお仕事を受けるようになりました。講座の場合も、先生としてレジュメを渡すだけの一方通行なものはやめています。お互いに悩みを持ち寄り、ディスカッションしながら解決するというやりとりを大切にしたくて」
どんな仕事でも、やってみなければわからない。自分に合う方法は何か、どんな内容なら手応えを感じられるのか、行動してから考えていく。試行錯誤から確かなものを得て、一歩一歩進んできたことがわかる。
相談相手がいることで自分の仕事を客観視できるように
やがて30代になって妊娠、出産。子育てが始まって実感したのは、できる仕事に限界があるということだったという。
「まず、個人宅の訪問サービスは一切できなくなりました。子育てをしながらできる仕事量ではないし、受けたとしても中途半端になりかねないと判断してお休みすることに。収入はぐんと減りましたが、ありがたいことに書籍の仕事や取材を受けることが増えたので、仕事から離れずにすみました。それらの仕事と子どもを育てるのでここ5年くらいはいっぱいいっぱいだったんです」
そんななか、コロナ禍の影響もあって在宅でできる仕事として始めたのが「オンライン収納相談室」というサービス。ZoomやLINEを使ってやりとりし、オンラインでの整理収納のアドバイスをするというものだ。この仕事を始めるにあたって、後押しをしてくれた人がいるという。
「ホームページをデザインしてくださっている方なんですが、仕事のことも相談できるマネージャー的な存在なんです」と嬉しそうに教えてくれる。何もわからないころから、失敗も試練もひとりで乗り越えて走り続けた本多さんにとって、本当に心強い助っ人なのだろう。
「オンラインでの相談サービスは、やったほうがいいだろうとは思っていたんです。でも子育てが忙しかったし、新しいことを始めるのって労力がいるしなぁと思っていました。そうしたら『絶対にやるべき!』と、リサーチをしたり、ページをさっと作ってくれたりして。価格設定や内容の見せ方など、いろいろ意見をもらって、少しずつブラッシュアップすることもできました」
手探り状態のスタート時はお試し価格の設定にし、できることやかかる時間がわかってからは改定。ホームページも、充実させた内容がわかるように作り替えた。ひとりで考えるのではなく、客観的な意見を得て、見せ方を相談しながら進めることは、本多さんにとって新しい仕事の仕方となっている。
「この方と出会ったこともライフシフトと言えるかもしれません。他の仕事についても相談できて、減っていた収入も増えましたし、ありがたい存在です」
不動産会社が売り出す物件での収納提案や、トークイベントなども増え、今できる範囲での仕事をこなせるようになってきているという。すっきり片付いたダイニングで、そんなふうに振り返る。テーブルの上はすっきりと何もないが、傍にある棚には日用品がまとめられていたり、子どもコーナーの壁には恐竜のおもちゃがかけられていたり。ものが極端に少ないのではなく、あるべき場所にきちんと収まっていることが伝わってくる。この空間に詰まっているのは、本多さんがひたすら走りながら培ってきた知識であり、その根底には、すでに自分が持っていた片付けが好きという真価もあるのだろう。好きで得意なことを見つけた人は強い。そこに真っ直ぐ向き合い、失敗を糧にしながらも、とにかくやり続けてきた人はもっと強い。その強さは、これからやりたいことに必ず生かされるはずだ。
「子どもも少しずつ成長してきて、状況も変わってきました。また訪問サービスを始めたいし、出張も行けるようにしたいし、自分の時間ももっと持てたらいいなと思っています」
Profile:本多さおり
ほんだ・さおり/ 1984 年埼玉県生まれ。「生活重視ラク優先」をモットーに、整理収納コンサルタントとして個人向けの整理収納サービスを中心に活動している。家事がしやすく、ラクに片付く収納や仕組み作りに定評がある。書籍や雑誌、ウェブサイトなどで活躍するほか、企業案件もこなす。近著に『あるものを活かして愛着のある部屋に育てる』(大和書房)、『旅は暮らしの深呼吸』(集英社クリエイティブ)などがある。
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