コピーライターが教育業界に挑戦
岡留輝美さん/人間力を育て目標達成に導く、異色の学習塾を起業
2017年に愛知県名古屋市東区で学習支援塾「エール」を立ち上げた岡留輝美さん。塾を開業した当時の岡留さんは、企業広告や社史の制作を手掛け、クライアントから引っ張りだこの人気コピーライター。シングルマザーとして忙しく働き家族を支えていた。長年のキャリアから離れてライフシフトした経緯や、人間力を育てるという異色の学習塾へ込めた想いは?
ライフシフトのきっかけは、子育てでの挫折
岡留さんが「学習支援塾 エール」を開業したのは、47歳のとき。長男は中学3年生、次男は中学2年生、長女は小学4年生で、子育て真っ最中だった。これまでのキャリアとは全く別の教育分野での起業を決意したきっかけは、息子さんが塾と合わずに辞めてしまったことだったという。当時をこう振り返る。
「当時、中学2年生だった息子を塾に通わせていたのですが、厳しい指導方針が合わず、結局辞めることになりました。そのとき、息子だけでなく、シングルマザーとして3人の子育てを頑張ってきた自分自身も否定されたような気がしてひどく落ち込みました。家事を放棄して数日布団から動けないほどで、子どもたちも心配していたと思います。しかし、今回のことで一番傷ついたであろう長男も率先して家事やお弁当づくりなどをしてくれていたのです。」
そんな子どもたちを見て、岡留さんはあることにハッと気づいたという。それは、「成績がよければ社会で活躍できる大人になれると思い込んでいたのではないか」ということだ。
「コピーライターの仕事で採用サイトの制作などで企業の経営者に取材をすることが多かったのですが、経営者は10年先、20年先を見越した人材の採用を考えていました。しかし、そこで企業がほしい人材というのはオール5ではないんですよね。5があって1もあってもいい。その1は他の人で補えばいいのです。企業は仲間と泥臭く一緒にやろうという気持ちがある人や、自ら考え行動する力を持つ人材を求めているのです。」
「多くの学習塾では3の成績を4にすることに力を入れるでしょう。受験でもそれを求められます。しかし、果たして今の社会に合っているのだろうかという疑問が浮かんできました。子どもたちに求めるのは単に成績を3から4にすることではない。受験を通して、自ら目標を設定し、それに向かって行動する力を育て、社会で生き抜く力を養ってほしい。そのためには、これまでの勉強を教えるだけの塾とは異なるアプローチが必要だと思ったんです。」
そして、岡留さんは子どもたちを集めてこう言ったという。
「私が塾を作るから、みんな入ってほしい!」
学力向上だけでなく「人間力」を育てる塾を作る
「『自分で塾を作る』と決意したときから、頭に思い浮かぶ人がいました」と、岡留さん。
それは、教育者の原田隆史さんだ。原田さんが考案した「原田メソッド」は、大谷翔平選手が実践し成果を上げたことで知られる目標達成の手法。目標を具体化し、達成に向けた行動を明確にするものだ。このメソッドは、ユニクロ、野村證券、キリン、大手生命保険会社などの一流企業でも採用されているという。岡留さんも仕事に取り入れようと思い講演に参加したことがあったのだ。
「この教育法なら、子どもたちに必要な力を身につけさせられると思ったのです。心を整え、自分の目標を定めることができれば、与えられるのを待つのではなく、自分が手を伸ばすように勉強ができるのではないか。単なる学力向上ではなく、生徒自身が目標を設定し、自立的に努力する力を育む塾を作ることにしました」
岡留さんは当時をこう振り返る。
「井坂先生と会って最初に言われたのが、『思いは100点だけどプランは0点だね』という言葉でした。『勉強を教えるのではなく人間力を育てる塾に、親御さんがお金を払うとは思えない』と言われてしまったのです。それでも諦められなかったので、2週間で生徒を集めました。私の長男、次男と、ママ友の娘さんの3人です。そして、井坂先生の元を再度訪れ、『おいくら払えば引き受けてくれますか?』とアプローチをしたのです。
すると井坂先生は驚いて、『諦めることなく再び来た人は岡留さんが初めてです。私はプランではなく、その想いをかいます!』と、協力してくれることになりました。」
勉強を通して自ら幸せになる力を養う場所に
こうして晴れて「原田メソッド」を核とした「エール」が開講した。「学習塾」ではなく「学習支援塾」と称する理由をこう語る。
「通常の塾との大きな違いは、目標の設定を最初にすることです。『学習支援塾 エール』では、次のテストで何点を取りたいかを自分で決めさせ、そのために何をすべきかを逆算して考えさせます。このプロセスを通じて、自ら課題を見つけ、解決する力を養っていくのです。成績が3でも4でも、人生に大きな差は生まれないでしょう。成績を3から4にするために工夫をした経験は、社会でも役立てることができるはずなのです。ここでの学習を通して、どんな環境でも自分で幸せを見つけられる人になってほしかったのです」と話す。
生徒募集のため、まずはママ友たちを集めて公開授業をするところから始まった。
「目標を立て、それをどう実現するかを考えさせる授業を実演したところ、保護者の方々がその指導に共感して入塾を申し込んでくださいました。開講するまでの約1ヶ月で、生徒は3人から8、9人に増えたんです。1年ほどは公民館などを借りて開講していましたが、生徒も増えてきたので教室を借りると同時に法人化することに。原田さんを筆頭に、井坂さんと私、一緒に立ち上げたママ友が出資し、資本金500万円で株式会社を設立して塾の事業を始めることとなりました。」
「中学校の時点では成績がオール3だった子たちが名古屋大学や名古屋工業大学などの国公立大学に進学したり、諦めずに浪人をして志望校の合格を勝ち取ったり、スポーツで優秀な成績をおさめるなどの結果が出始めました。彼らが成長する姿を見ると、塾を作ってよかったと心から思います。」
「また、大学生になった生徒さんがアドバイザーとして塾に戻ってきてくれるのもうれしいですね。アドバイザー同士で、『この生徒にはどういう勉強が必要か』とディスカッションしてくれることもあります。困難に立ち向かう力やチームで協力する力を備えているんです。学ぶ目的を自ら見つけ、学ぶ場を仲間と一緒につくることで、大人が感動するような素晴らしいパフォーマンスを見せてくれることを実感しました」と岡留さんは話す。
「子どもが巣立ってから」では遅い?思い立ったらすぐ行動
「40代や50代というのは多くの方が子育ても落ち着いてくる頃で、新しいことに挑戦する時間ができる時期だと思います。一方で、私もそうでしたが、子どもたちの高校・大学進学などを控えているため金銭的な余裕はないかもしれません。その中で、この時期に起業してよかったと思ったのは、子どもたちが自分の力になってくれたことです。長男、次男、長女ともに生徒として塾に通ってくれたこともあり、良き相談相手となってくれたんですよ。」
また、起業当時を振り返ってこう続けた。
「ゼロから塾を作って感じたのは、『経営はいつになっても整うことはない』ということです。開業してから7年間、常に動きながら改善を繰り返してきました。『子どもがもう少し手を離れてから』と考える方も多いと思いますが、それでは遅いんです。やろうと決めたら1日でも早く一歩を踏み出すことが大切。手始めに情報収集をするだけでもいいと思います。『何かができたらやろう』と条件をつけていても、できる日は永遠に訪れないでしょう。カレンダーに“いつか”という日はないですからね。
一方で、リスクヘッジとしてまずは小さく始めることをおすすめします。その方が、誰でも始めやすいですし、いつでも方針を変えられるし、万が一失敗したときも撤退しやすいのです。私は最初の頃、塾の場所として公民館を借りていました。経費を抑えていたから、生徒がたった3人でも思い切って始められたんだと思います。」
学習支援塾エール
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