高性能なCPUを使うには、その発熱に見合ったCPUクーラーが必要になるが、CPUをフル回転させるような作業では空冷よりも大型ラジエーターを備えたAIO水冷(簡易水冷)の方が有利だ。AIO水冷はポンプの故障の可能性や冷却液の蒸発(劣化)など、耐久性という点において空冷より不利な点はあるものの、ハイエンドCPUではAIO水冷が推奨されるシーンが多い。
最近のAIO水冷はCPUと接触する水冷ヘッド部分をどう見せるかに「も」力を入れた製品が多い。ヘッド上部に液晶やインフィニティミラーを組み込んで目立たせるのが近年のトレンドだが、SiverStoneは水冷ヘッドに「ファンを積層する」という驚きのコンセプトの製品を出してきた。それが今回レビューする「IceMyst」である。
水冷ヘッドにファンを載せるというアイデアを形にしたAIO水冷は過去になかったわけではない。しかしIceMystのファンは水冷ヘッドの上に達磨落としのように積み重ねることができ、さらに各ファンを320度の範囲で回転させられる、というところに驚きと目新しさがある。CPU周辺のVRMやM.2のヒートシンク、さらにはメモリーモジュールまでピンポイントで冷やせるAIO水冷というわけだ。
今回は先日登場したインテルの最新CPU「Core i7-14700K」とIceMystの360mmラジエーターモデル「IceMyst 360」を組み合わせ、実際にこのファンが冷却に効果があるのか検証した。“見映え”だけの装備なのか、実用的装備なのか? 簡単ではあるが考察してみたい。
まずは水冷クーラーとしてのIceMystの見どころを押さえておきたい。IceMystはラジエーターサイズの違いで120/240/360/280/420mmの合計5モデルが用意されている。全モデルにおいて追加ファン「SST-IMF70-ARGB」が別売となっているのが残念だが、CPUを冷やすだけならIceMystの追加ファンは必要ない。CPU周囲をさらに冷やしたい人向けのオプションだからだ。
最近の流行にならい、IceMystシリーズの水冷ヘッドおよび冷却ファンのブレードはRGB LEDでライトアップされる。IceMystシリーズの冷却ファンはファン回転用の電力とRGB LED用のケーブルが一体化した専用ケーブルで数珠つなぎにするため、配線の手間は格段に少ない。ファンと水冷ヘッドのRGB LEDはマザーのARGBヘッダーに接続することで、マザー側で発光色を一括制御できる。
水冷ヘッドはCPUとの接触部に銅製のプレートを使用した定番の設計だが、中央をほんの少しだけ凸形状にすることでCPUとの接触をより確実にしている。ただ今回LGA1700環境で使った感じでは、水冷ヘッド固定用のネジを締め込んでも、微妙に接触が物足らない印象があった。
特にシリコングリス(本製品はチューブ式のものが同梱)をCPU中央に少量載せるだけのスタイルだと、端まで伸びない可能性もある。気持ち多めに出した後しっかり延ばすのがポイントのようだ。グリス塗布については個人のスキル差が出てしまうので、グリスを最適なパターンと量で塗布できるガイドシールが同梱されていればさらに良かったのだが……。
さてIceMystシリーズ最大の特徴である別売の追加ファンの話をしよう。水冷ヘッド上部のキャップを外すと専用のピンが出現するので、ファン側のコネクターに合うような格好で押し込むだけで装着できる。このファンのおもしろいところは、ファンを積みたければいくらでも積めるという点だ。ただ積めば積むだけ高くなるのでPCケースに収まる範囲で装着する程度にとどめたい。
ファンの電力やファンのRGB LEDの電力消費が上限を決めるが、SilverStoneによれば18個まで確認したとのこと。ただファン6個+キャップを積み上げるとマザーからの高さが180mm近くまで積み上がる。上に積んだファンほどマザー側に吹き付ける風の威力が弱まるため、数多く重ねれば良いというものでもない。
また、ビデオカードやPCケース天井、IceMystの冷却水ホースなどとファンが干渉する角度は設定できないので、重ねれば重ねるほど無駄になる。また、メモリーモジュールを冷やすためにはある程度積まないとモジュールの上から風を送れないなどの制約もある。ファン1基でもメモリーモジュールの上から風を送れるようにファンを底上げするスペーサーオプションも欲しかったところだ。