2023年に入った頃から、SNSを中心に「通信できない」「アンテナが立っているのにデータが流れない」と品質の低下についての声を多く見かけるようになったNTTドコモのネットワーク。
同社では順次対策を進めるとともに、4月、7月とメディア向けに説明もされてきたが、あらためて全国2000ヵ所以上での集中対策や300億円の先行投資などを含む、同社の取り組みを公表した。
集中対策が必要な全国2000ヵ所のエリアを抽出
12月までに9割以上で対策を完了させる予定
集中対策が実施されているエリアは、駅・繁華街・住宅街など全国2000ヵ所以上、乗降客数が多い鉄道路線の車内や駅といった動線と紹介されている。
まず、全国2000ヵ所は、人が集中する都心部などが中心だが、人口の割に基地局が少なく通信がしにくい住宅街やルーラルエリアなども含んでいる。鉄道については乗客が多い東名阪を中心とした約50路線。いずれも基地局やSNSの情報などから、大規模言語モデル(LLM)による分析で、問題があるエリア、今後ピークアウトしそうなエリアを抽出。優先して対応している。
実際の対策としては、基地局増設が根本的な解決策となるが、それには場所の確保や建物のオーナーとの交渉などに時間を要するため、既存基地局への装置の導入やチューニングを先行して進めている。
具体的にはMU-MIMO(マルチユーザーMIMO)に対応した装置の導入。これは非常に多数のアンテナを装備した基地局で、同じ周波数でより多くの帯域を実現する技術だが、どうしても設備や消費電力の大きさから、設置可能な場所に制限が加わる。同社では最新の小型かつ低消費電力の装置を用いていることで、効果的な場所に追加していく考えだ。
チューニングでは5Gでの上り通信の品質改善の例を紹介。5Gエリアの端(セルエッジ)では、特に上り通信の速度・品質が低下しやすく、それがユーザーにとっての「パケ詰まり」という印象に繋がりがちだった。そこで上り通信を適切に5Gと4Gで切り替えるチューニングを加えることで、実行スループットを2倍にすることができたとする。
なお、質疑応答では、他社は4Gからの転換周波数により、速度こそ4G並であるものの面カバーは広い5Gエリア(通称「なんちゃって5G」などと呼ばれている)を構築しつつ、人口集中エリアでサブ6の高速な5Gエリアを打つ2段階構成にしたのに対し、ドコモはサブ6での高速な5Gエリア(ドコモは「瞬速5G」と呼称)に強くこだわり、そうした設計方針が課題になっているのでは? と問われたが、ドコモ側の説明は「瞬速5Gの面的なエリアの充実が十分ではなく、4Gと5Gで切り替えが発生している」としながらも「5Gと4Gの切り替えをスムーズにすることはしっかり進めてきた」と否定的な回答だった。
将来のトラフィックの増加も見越した対策も含む
300億円の先行投資を実施
これらの集中対策は、9月末時点ですでに約70%が完了。12月までに90%以上に達する予定。なお、対策後の基準は、今の多くのスマホユーザーが常に求めている品質とドコモが考える、HD画質の動画視聴が可能な状況としている。また、集中対策には300億円の先行投資を実施。ここには、現在はまだ品質が低下していなくても、今後急にトラフィックが伸びて問題が発生するエリアでの対策も含まれている。
都内中心部で日常的にドコモ回線を利用していると、今春以降、対策が進められていること自体は実感できるものの、一方で意外な場所で通信ができないといった場面に遭遇することはいまだ多い。継続的な取り組みの中でユーザーの評価がどう変わっていくか、今後にも注目だろう。