◆レースシーンにATが使われる日は遠くない
ORC ROOKIE Racingが、また新しいチャレンジを始めた。今までは燃料に気体水素、液体水素を使用して、CO2を排出しないレーシングカーの開発を進めてきた。そのチャレンジは着々と結果を収め、レーシングカーとして成立し始めている。その水素燃料のコンセプトカーに、今度はオートマチックトランスミッションを搭載してレースに参加してきたのだ。
9月3日にモビリティリゾートもてぎで行なわれた、スーパー耐久第5戦。前戦のオートポリスでORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptに不具合が出てしまったので、今回はGR Yarisでのエントリーとなった。そのGR Yarisに、オートマチックトランスミッションを積んだ「ORC ROOKIE GR Yaris DAT concept」を持ち込んだのだ。
◆市販車と同じ感覚で走れるDAT
このオートマチックミッションはDAT(ダイレクト・オートマチック・トランスミッション)と呼ばれるもので、8速ATのフルオートマチックトランスミッションだ。今までレースで使用されてきたATは、スタートではクラッチを使用しシフトチェンジはクラッチ不要のパドルシフトで、セミオートマチックと呼ばれるものだった。それに対し、Rookie Racingが持ち込んだのは、市販車のようにDレンジにセットすれば、あとはアクセルとブレーキの操作をするだけ。普段、自分たちが乗っている車と同じ操作でレースを楽しめてしまう、まったく新しいレース用オートマチックなのだ。
このDATと名付けられたレース用オートマチックだが、市販車のATと何が違うのかORC ROOKIE Racingのドライバー、佐々木雅弘選手に聞いてみた。
「今回持ち込んだDTAは、完全なオートマチックです。ですから、スタートはDレンジに入れてアクセルを踏むだけ。パドルもついていますが、触る必要もないんです」とのこと。では、普通のATと何が違うのか?と「市販車のATは、オーバーレブしないようにシフトチェンジします。でもこのATは、そこに手を入れているんです。たとえばサーキットをレーシングスピードで走らせると、中途半端にシフトアップしてしまう状況があるんです。チョットだけオーバーレブさせながら、数メーター走りたい。そんな時のためにレブリミットを500rpmくらい上げて、レッドゾーンに入っても1秒くらいシフトアップしないように設定しています。これが結構効くんですよ。シフトダウン時では、ブレーキを踏むだけでブリッピング(ヒールアンドトゥ)してくれるんです。だからドライバーは、コーナリングにより集中できるます」ここだけを聞いても、よりスポーティーでレーシングなATになっていることが伝わってくる。
◆DATでよりレースを楽しめるようになる
DATがレースシーンのスタンダードになると、その恩恵をより多く受けるのはジェントルマンドライバー(アマチュア)だと言う。その理由を聞いてみると。「僕たちプロドライバーは、シフトミスをしないんです。ですから、ATの恩恵はあまり受けません。でもジェントルマンにとって、シフトをしなくて良いというのは大きなアドバンテージです。シフトミスがなくなるのは当然ですが、シフトチェンジのスピードも速くなるので、変速の多いサーキットでは1秒以上変わってくるかもしれません。オーバーレブさせることもないので、マシンへのダメージも軽減されます。そして何よりコーナリングに集中できるので、タイムアップにつながります」
実際に新品タイヤで走行したモリゾウ選手(トヨタ自動車の会長)と、中古タイヤで走った佐々木選手のラップタイムはほぼ同じであった。アマチュアがプロに近づくことができた1つの証明と言えるだろう。
レースでのアドバンテージについてはよく分かったが、このミッションにはまったく別の狙いがあるとのこと。それについては「実はこのトランスミッションはすべてのドライバーに、もっとレースを楽しんでもらう、というのが狙いなんです。今回ドライブした小倉康宏選手(小倉クラッチ代表)は、「シフト操作に気を取られず、ステアリングとアクセルとブレーキに集中できるのが楽しい。MTでシフト操作が必要な時にできなかった、“あのコーナーでタイヤ1つぶんずらしてみようか”とか、周回ごとに修正できるのがいい」とドライブが楽しくて仕方ないようであった。
現状、このDATは耐久レースで使用しているが、シフトチェンジが激しいラリーなどの方が需要が高まりそうだ。そして最終的には市販車に、スポーツオートマチックが装着される日が来るのだろう。もしそうなったら、ドライブが一層楽しくなるに違いない。まだまだ始まったばかりのチャレンジだが、サーキット外でもDATが楽しめる日を楽しみに待とう!
■筆者紹介───折原弘之
1963年1月1日生まれ。埼玉県出身。東京写真学校入学後、オートバイ雑誌「プレイライダー」にアルバイトとして勤務。全日本モトクロス、ロードレースを中心に活動。1983年に「グランプリイラストレイテッド」誌にスタッフフォトグラファーとして参加。同誌の創設者である坪内氏に師事。89年に独立。フリーランスとして、MotoGP、F1GPを撮影。2012年より日本でレース撮影を開始する。
■写真集
3444 片山右京写真集
快速のクロニクル
7人のF1フォトグラファー
■写真展
The Eddge (F1、MotoGP写真展)Canonサロン
Winter Heat (W杯スキー写真展)エスパスタグホイヤー
Emotions(F1写真展)Canonサロン