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大谷イビサのIT業界物見遊山 第51回

なにより米政府が恐れたもの

米国の制裁を成長の糧にしたファーウェイの強靱さ

2023年09月14日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 先日、ファーウェイ(華為技術)の法人事業の最新動向についてプレスブリーフィングを受けた。近年、ファーウェイは米政府による制裁の影響で、スマホの端末事業が大きく落ち込んでいるが、意気消沈している様子はまったくない。研究開発費を年間売上の1/4にあたる3兆円規模に引き上げた結果、スマホ端末と通信機器というコアビジネスをさらに強化し、クラウドと電力という2つのビジネスを急成長させている。

米政府の制裁からはや4年 年間3兆円規模の研究開発費で戦う

 中国の通信機器メーカーであるファーウェイが米政府の制裁の対象となり、早くも4年が経つ。半導体の輸出規制を受け、5Gスマホのチップ供給がストップされており、現時点でもAndroidのGoogle Mobile Serviceも利用できない状態だ。トランプ政権に引き続いてバイデン政権も米国におけるファーウェイ製品の販売を事実上禁止しており、2023年に入ってからは全面禁輸までちらつかせている。

 厳しい制裁を経て、一度はサムスンやアップルに匹敵するシェアまで拡大したファーウェイのスマホの端末事業は一気に1/3まで縮小した。公開されたファイナンシャルハイライトを見ると、2020年に8914億元(約18兆円)だった売上高は、2022年度は6423億元(約13兆円)まで縮小している。純利益も356億元(約7169億円)と、2021年度から約1/3まで下落した(レートは2023年9月時点)。

 しかし、制裁慣れしてきたファーウェイは技術力で勝負することを選んだ。これまで10%台だった売上に対する研究開発費を2022年度には25.1%まで引き上げた。もちろん、売上減少による相対的な増加ではなく、研究開発費自体の額が上がっているため、1年で3兆円以上が研究開発費に充てられたことになる。研究開発費で国内トップを誇るトヨタ自動車でも約1兆円で、北米でも3兆円を超える企業はアマゾンドットコムなどごく少数なことを考えると、3兆円という金額のインパクトがわかる。

 そして、投資の成果は、既存事業の強化や新規ビジネスの立ち上げのみならず、知財として他社に対してもライセンス供与されている。2022年末までに同社が保有する有効な特許は12万件を超え、自社の特許のロイヤリティー収入は、他社に支払うロイヤリティーを上回っている。

立ち上がる新ビジネス 電力とクラウド

 こうした技術開発もあり、制裁期間中ファーウェイは新しいビジネスを育てることに成功した。電力とクラウドの2つだ。

 デジタルエネルギー事業はパワーコンディショナー、蓄電器、整流器電源、UPS/空調、モジュール電源などを製品とソリューションから成り立つ。シンプルなバッテリにITを組み合わせることで付加価値を高めており、スマホ端末で培ってきた急速充電、基地局やデータセンターのクーリング、省エネなどのテクノロジーも積極的に注ぎ込んでいる。

 もう1つのクラウドコンピューティング事業は、約5年前にスタートしている。後発でありながら、すでにアリババ、テンセントに次ぐ3位のシェアを拡大しているという。こちらの強みは、政府系、医療、交通、社会インフラなど業種や業界に特化したソリューションの提供。この数年でAI分野に対しても莫大な投資を行なっており、基礎研究や製品開発を進め、顧客と数多くのAIプロジェクトに投入している。

 両者の2023年上半期の売上はクラウドが241億元(約4853億円)、電力が242億元(約4873億円)とほぼ拮抗しているが、この数年でより大きな成長を遂げると見られている。

通信機器は制裁の影響をほぼ受けず、端末事業も復活へ 

 2023年の上半期(1~6月期)は売上高こそ前年同期比3.1%増の3109億元(約6兆2615億円)だが、純利益は約3倍に拡大した。

 個人ユーザーからするとファーウェイはスマホやモバイルデバイスの会社だが、コアビジネスは通信キャリア向けのネットワーク機器だ。このネットワーク機器のビジネスは、実はほとんど制裁の影響を受けておらず、シェアも世界の第3位をキープしている。最近はストレージやエッジコンピューティングなど幅広いICT製品も取り扱っており、2023年の上半期(1~6月期)では1672億元(約3兆3674億円)と全体の半分以上の売上をたたき出している。

 また、落ち込んでいたスマホ端末事業だが、先日発売開始されたばかりの「Mate 60 Pro」はすでに爆発的に売れており、復活の兆しが本格化してきた。制裁で入手不能だった5Gチップは自社開発したと言われており、搭載端末が7億台にもおよぶHarmony OSとあわせて、海外へ依存せずに最新の端末を提供できる体制が実現したと言える。

 ファーウェイのこの数年を追ってみると、米国政府がなにより恐れたのは、制裁を糧に成長してしまう同社のこうした強靱さだったのではないかと思える。円安、物価高、人材不足、国際情勢など、経営悪化の理由となる要因はいくらでもあるが、国家的な経済制裁を受けつつも、復活を遂げてしまうファーウェイの強靱さは日本企業も見習うべきだと思う。

 入手したコーポレートプロファイルの冒頭、ファーウェイ 輪番会長 徐直軍氏は、「梅の花は厳しい寒さを経てこそ、いい香りがします」と書き出している。穏やかな表現ながら、制裁という「厳しい寒さ」を経て、より高みを目指すという、同社の現状と決意を一文で知ることができる。不死鳥のようにファーウェイは復活を遂げるのか、下期の業績に注目が集まる。
 

大谷イビサ

ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。

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